第48話:それぞれの道
翌朝。
俺たちは旅支度を整え、ローデンの広場に集まっていた。
これから俺たちは、さらに北にある第2王都を目指す。
一方、エリオたちはローデンを出たあと、西へ向かうらしい。
「西? お前たちは第2王都に行かないのか?」
俺はてっきり、エリオたちも同じ場所を目指しているものだと思っていた。
「ああ。僕たちは西にある街を、いくつか回るつもりだ」
「なんでまた西なんだ? 勇者隊なら、北を目指すもんじゃないのか?」
俺が尋ねると、エリオは小さく肩をすくめた。
「勇者隊の任務は、何も四魔将を倒したり、最前線を押し上げたりすることだけじゃない」
「そうなのか?」
「街や村だけでは対処できないモンスターを討伐するのも、僕たち勇者隊の仕事だ。そういう依頼を引き受けながら、各地を回っている勇者隊も少なくない」
「でも、そんなことをしてたら……いつまで経っても旅が終わらないんじゃないか?」
「少なくとも、すぐには終わらないだろうな」
「えっ?」
あまりにもあっさりとした答えに、俺は思わず聞き返した。
「一つの街を救っても、また別の街から助けを求められる。モンスターがいる限り、勇者隊の仕事がなくなることはない」
エリオはそう言うと、隣に立つクラリスとノアへ目を向けた。
二人とも、当たり前のことを聞いているような顔をしている。
「いつ終わるかは分からない。でも、それまでは勇者として各地を回るつもりだ」
「そういうもんなのか……」
エリオたちは、少なくとも今は、勇者として各地を巡る暮らしを自分たちの日常として受け入れている。
終わりの見えない戦いを続けながら、目の前にいる人々を守って生きていく。
各地を回って、困っている街や村を助けていく。
そんな生き方もあるのか。
「エリオさんは……凄いですね」
不意に、リリアが小さく呟いた。
「ん?」
「勇者として誰かを助けながら、これからも旅を続けていくんですよね」
リリアは少しだけ視線を落とした。
「私なんて……勇者になる前の暮らしを取り戻すことばかり考えてしまっています」
「……何を言ってるんだ」
「えっ?」
「人の暮らしを守ることも大事だ。でも、自分たちの暮らしだって同じくらい大事だろ」
エリオはそう言って、僅かに笑みを浮かべた。
「それを取り戻したいと思うのは、別に悪いことじゃない」
「…………」
「むしろ僕は、まだ諦めずに北を目指しているお前たちを尊敬するよ」
リリアは少し驚いたような顔をしたあと、傍に立つセシルとミナへ目を向けた。
「そういうリリアだから、私は信頼してる」
セシルが静かに口を開いた。
「私も、自分の暮らしを諦めてないから」
「セシル……」
「私は……」
今度はミナが、少し考えるように首を傾げた。
「二人と一緒にいられるなら、どこでもいいかなって思ってます」
「ミナ……」
「だって、二人がいれば楽しいですからっ!」
ミナがいつものように笑う。
リリアは二人の顔を見つめたあと、ほんの少しだけ口元を緩めた。
失った日常の代わりに、新しい日常を受け入れたエリオたち。
失った日常を諦めず、取り戻そうとしているリリアたち。
同じ勇者隊でも、進んでいる道はまるで違う。
でも、どちらが正しいなんて話でもないのだろう。
「それじゃあ、僕たちはそろそろ行く」
エリオはそう言うと、西へ続く通りへ目を向けた。
「じゃあ、またな。僕らも、いつか北へ向かうことがあるかもしれない。そのときは、お互いの旅の話でもしよう」
「ああ。またな、エリオ」
「次に会うまで、死ぬんじゃないぞ」
「それはこっちの台詞だ。今度は勝手に命を使おうとするなよ」
「……肝に銘じておく」
エリオは苦笑しながら答えた。
「皆さんも、お気をつけて」
クラリスが丁寧に頭を下げる。
「セシルっち、また一緒にお肉食べようね!」
「うん。次も負けない」
「いや、何の勝負だよ」
ノアとセシルは、最後まで肉の話をしていた。
「リリア、ミナ、カイル。また会おう」
「はい。また、どこかで」
リリアが笑顔で答える。
それを聞いたエリオは小さく頷くと、クラリスとノアを連れて西へ続く通りを歩き始めた。
俺たちはその背中が人混みに紛れて見えなくなるまで、その場で見送った。
「……行っちゃいましたね」
ミナが寂しそうに呟く。
「まあ、生きてりゃまた会えるさ」
「そうですねっ!」
「それじゃ、俺たちも行くか」
俺たちはエリオたちとは反対に、北へ続く通りを歩き出した。
広場から北門までは、それほど遠くない。
しばらく歩くと、大きく開かれた門の脇に、何台もの馬車が並んでいるのが見えてきた。
どうやら、ここが乗合馬車の発着場らしい。
「第2王都行きだ! もうすぐ出発するぞ!」
その中の一台から、御者らしき男の声が聞こえてきた。
「あれ、第2王都行きみたいですよっ!」
リリアが嬉しそうに馬車を指差す。
「ちょうどよかったな。行ってみようぜ」
俺たちは第2王都行きの馬車へ向かって歩き出した。
御者に大銅貨三枚を渡した俺は、リリアたちと一緒に馬車へ乗り込んだ。
それから間もなくして、馬車がゆっくりと動き出す。
木製の車輪が石畳の上を進むたび、車体がガタガタと揺れた。
「なぁ、第2王都って、どんなところなんだ?」
俺が尋ねると、向かいに座っていたリリアが少し考え込む。
「そうですね……王都は、戦闘スキルだけじゃなく、学問や芸術を学ぶ人も多いんです。ですが、第2王都は、北の最果てへ向かうための中継地点みたいな役割をしているので……」
リリアは言葉を選ぶように、一度そこで口を止めた。
「どちらかというと、軍事都市に近いといいますか……兵士や勇者が多く集まる街ですね」
「なるほどな……。物騒なことにならなきゃいいけどな」
そう答えながら、俺は昨日ギルドで会った一人の勇者を思い出していた。
第25勇者隊のモリア。
片腕と片目を失いながらも、今なお勇者として戦い続けている女。
エリオやリリアとは違う、歴戦の戦士とでもいうような異質な雰囲気を纏っていた。
第2王都には、あんな戦士がごろごろいるのだろうか。
……少なくとも、穏やかな街ではなさそうだ。
そんなことを考えながら、俺は馬車の外へ目を向けた。
馬車はローデンの北門を抜け、第2王都へ続く道を進んでいった。




