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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
エリオ編

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第43話:刃の通らぬ巨人

 サイクロプスが地面を揺らしながら、こちらへ迫ってくる。


「来るぞ!」


 エリオの声に、俺は大鉈を両手で構えた。


 だが、サイクロプスはそのまま突進してくることはなかった。


 走りながら近くに生えていた枯れ木へと手を伸ばし、太い幹を片手で掴む。


「またかよ……!」


 ミシミシと音を立てながら、枯れ木が根元から引き抜かれた。


 サイクロプスは勢いを落とすことなく、引き抜いた枯れ木を頭上へ持ち上げる。


「グォォォォッ!」


 そして、そのまま俺目掛けて振り下ろしてきた。


「カイルッ!」


 エリオの叫び声が聞こえる。


 俺は大鉈を両手で握り締め、振り下ろされた枯れ木の幹へ向かって思い切り振り抜いた。


 ――バキィッ!!


 大鉈と枯れ木がぶつかり合い、凄まじい音が鳴り響く。


 枯れ木は大きく軌道を変え、そのまま俺の横へ叩きつけられた。


 地面が揺れ、砕けた木片が辺りに飛び散る。


 俺はその中を、サイクロプスへ向かって一気に踏み込んだ。


「オラァッ!」


 狙うのは、俺の目の前にある太い脚。


 大鉈を横薙ぎに振り抜き、サイクロプスの脛へと思い切り叩き込む。


 ――ガキンッ!


「……硬っ!?」


 まるで岩でも斬りつけたような感触が、両腕に伝わってきた。


 刃が通っていない。


 大鉈はサイクロプスの分厚い皮膚に弾かれ、傷一つつけられていなかった。


 だが、衝撃までは殺せなかったらしい。


「グォッ……!?」


 サイクロプスの巨体が大きく揺れ、片膝をつきかける。


「今です!」


 後ろからリリアの声が聞こえた。


 振り返ると、リリアの持つ剣が白金色の光を放っている。


 聖剣スキルか。


「はぁぁぁっ!」


 リリアが地面を蹴った。


 その姿が一瞬で俺の横を通り過ぎ、白金色の光の筋だけを残してサイクロプスへと迫る。


 速い。


 リリアは怯んでいるサイクロプスの身体を駆け上がるように跳び、その胸元へ向かって剣を振り抜いた。


 一撃。


 二撃。


 そして、三撃。


 目で追うのも難しいほどの速さで、白金色の光を纏った剣がサイクロプスへと叩き込まれる。


「グォォォッ!」


 サイクロプスが咆哮を上げ、リリアを振り払うように太い腕を振るった。


 リリアの三撃目が、その腕へとぶつかる。


 だが、空中では踏ん張りが利かない。


「えっ――」


 振り抜かれたサイクロプスの腕が、そのままリリアの身体を捉えた。


 ――ドゴッ!


「きゃあっ!」


 リリアの身体が勢いよく吹き飛ばされる。


「リリアッ!」


 俺は咄嗟に、その姿を目で追った。


「カイル!」


 気がつけば、エリオが俺のすぐ傍まで来ていた。


 剣から溢れ出した白銀の魔力が、バチバチと雷を弾けさせながら巨大な刃を形作る。


「今は目の前の敵に集中しろぉぉぉっ!」


 エリオが地面を蹴り、サイクロプスへと斬りかかった。


 白銀の巨大な刃が、真っ直ぐにサイクロプスの胸元へと迫る。


 だが、サイクロプスは即座に反応した。


 太い腕を身体の前へ構え、エリオの聖剣を受け止める。


 ――ガキィンッ!


「くっ……!」


 白銀の光と雷が弾け、エリオの身体が押し戻された。


 聖剣スキルを使っても、斬れないのか。


 一方、吹き飛ばされたリリアは、空中で身体を捻っていた。


 まるで猫のように体勢を整え、進行方向へ顔を向ける。


 だが、その先には一本の太い木が立っていた。


「このっ!」


 激突する寸前、リリアが剣を振り抜く。


 白金色の光を纏った刃が木の幹を切り払い、真っ二つになった木が左右へ倒れていく。


 リリアはその間を通り抜けると、地面へ両足をついた。


 僅かに後ろへ滑りながらも、そのまま倒れることなく踏み止まる。


「……っ」


 リリアは苦しそうに顔を歪めながらも、すぐに剣を構え直した。


「「焼き尽くせっ!」」


 後方から、ノアとセシルの声が同時に響いた。


 二人が前方へ突き出した手の先から、凄まじい勢いで炎が噴き出す。


 それぞれの炎は空中で一つに重なり、巨大な槍の形を作り上げていった。


「……なんだ、あれ」


 今まで見たどのファイアランスよりもでかい。


 七メートルを超えるサイクロプスすら、丸ごと呑み込んでしまいそうなほどだった。


「これなら……!」


 倒せる。


 俺がそう確信した次の瞬間、巨大な炎の槍が凄まじい勢いで撃ち出された。


 炎が空気を焼きながら、一直線にサイクロプスへと迫る。


「グォッ!?」


 サイクロプスが咄嗟に両腕を身体の前へ構えた。


 直後、巨大なファイアランスがその巨体へと直撃する。


 ――ドォォォォンッ!!


 凄まじい爆発音とともに、辺り一帯が炎に包まれた。


「グォォォォォォッ!!」


 炎の中から、サイクロプスの悲鳴が響き渡る。


 熱風がこちらまで押し寄せ、俺は思わず腕で顔を覆った。


 これだけの魔法をまともに受けたんだ。


 いくら皮膚が硬かろうと、無事で済むはずがない。


 だが、炎が薄れていくにつれて、その中から巨大な影が姿を現した。


「……嘘だろ」


 サイクロプスは、まだ立っていた。


 身体のところどころが黒く焼け焦げてはいるが、致命傷には程遠い。


 その巨体を、薄く揺らめく魔力の膜が覆っている。


「こいつ……魔力操作ができるのかっ!」


 エリオが驚愕の声を上げた。


「魔力操作……?」


「魔力を身体の表面に纏わせて、魔法の威力を抑えたんだ! あれはただ硬いだけのモンスターじゃない!」


 冗談だろ。


 あの巨体と馬鹿みたいな力だけでも厄介なのに、魔法まで防げるのかよ。


「グォォォッ!」


 炎を振り払ったサイクロプスが、怒りに満ちた一つ目で俺を睨みつける。


 そして、黒く焼け焦げた枯れ木を大きく振り上げた。


「ったく……ここで引くわけにはいかねぇ!」


 俺も大鉈を振り上げ、迫る枯れ木を正面から迎え撃つ。


 ――ガキィンッ!!


 大鉈と枯れ木がぶつかり合い、凄まじい衝撃が両腕へと伝わってきた。


「ぐっ……!」


 重い。


 少しでも気を抜けば、大鉈ごと身体を叩き潰されそうだ。


 俺は枯れ木を横へ弾き、そのままサイクロプスの懐へ踏み込む。


「オラァッ!」


 がら空きになった脇腹へ、大鉈を叩き込んだ。


「グォッ!」


 やはり刃は通らない。


 だが、衝撃を受けたサイクロプスの巨体が僅かに揺れる。


 次の瞬間には、横薙ぎに振るわれた枯れ木が俺へと迫っていた。


「くそっ!」


 俺は大鉈の腹で受け流し、返す刃でサイクロプスの腕を狙う。


 だが、サイクロプスは枯れ木を引き戻し、俺の一撃を受け止めた。


 ――ガキンッ! ガキンッ!


 大鉈と枯れ木が、休む間もなくぶつかり合う。


 サイクロプスが振り下ろし、俺が弾く。


 俺が斬りつけ、サイクロプスが枯れ木で受け止める。


 衝撃音が鳴り響くたびに、枯れ木の表面が砕け、無数の木片が飛び散っていった。


「やはり、ただの一般人なんかじゃない……」


 少し離れた場所で、エリオが驚いたように呟く。


 だが、すぐに表情を引き締めると、剣を両手で握り直した。


 剣から白銀の魔力が溢れ出し、バチバチと雷光を弾けさせながら、再び巨大な刃を形作り始める。


 その間にも、サイクロプスは枯れ木を大きく振り上げた。


「グォォォォッ!」


 そして、力任せに俺へと振り下ろしてくる。


「くっ!」


 俺は大鉈を横に構え、その腹で枯れ木を受け止めた。


 ――ドゴォンッ!!


「ぐぅっ!?」


 受け止めた瞬間、両腕が痺れるほどの衝撃が全身を突き抜けた。


 踏ん張りきれず、俺の身体が勢いよく後ろへ吹き飛ばされる。


「くっそっ!」


 俺は空中で大鉈を振り下ろし、その刃を地面へと突き刺した。


 大鉈が地面を深く抉り、土を巻き上げながら俺の身体を引き止める。


 十メートル近く押し戻されたところで、ようやく勢いが止まった。


「カイル!」


 俺が前線から弾き出されるのと入れ替わるように、エリオがサイクロプスの前へ飛び出した。


 その手に握られた剣から、白銀の魔力が激しく溢れ出している。


 バチバチと弾ける雷光を纏いながら、先ほどよりもさらに巨大な刃が形作られていく。


「これならどうだぁぁぁぁっ!!」


 エリオが渾身の力で聖剣を振り下ろした。


 迫る白銀の刃を、サイクロプスが枯れ木で受け止めようとする。


 だが――。


 ――ズバァンッ!!


 限界まで力を込められた聖剣は、枯れ木を真っ二つに両断した。


 そのまま勢いを失うことなく、サイクロプスの太ももへと叩き込まれる。


「グォォッ!?」


 初めて、刃が入った。


 しかし、エリオの聖剣をもってしても、僅かに皮膚を斬り裂いた程度だった。


「……っ! どれほど硬いんだ、こいつはっ!!」


 エリオが聖剣を押し込みながら、悪態をつく。


 そのとき、サイクロプスの横から白金色の光が高速で迫ってきた。


「エリオさん一人で無理でも、私とならっ!!」


 リリアだ。


 白金色の光を纏ったリリアが勢いよく跳び上がり、エリオの聖剣に重ねるように、自らの聖剣をサイクロプスの太ももへと叩き込んだ。


 ――ガキィィィンッ!!


 白銀と白金。


 二つの光が激しく弾け、辺りに雷光を撒き散らす。


「いっけぇぇぇぇっ!!」


「うぉぉぉぉっ!!」


 二人の力を受け、白銀と白金の刃が僅かずつサイクロプスの太ももへと食い込んでいく。


「グォォォォォッ!!」


 サイクロプスが苦痛に満ちた咆哮を上げた。


 いける。


 このまま押し込めば――。


 だが、刃が深く食い込むよりも先に、サイクロプスが反対側の脚を振り上げた。


「二人とも、避けろっ!」


「えっ――」


 俺が叫んだ直後、その巨大な足がエリオとリリアをまとめて捉えた。


 ――ドゴォッ!!


「ぐぁっ!」


「きゃあっ!」


 二人の身体が、白銀と白金の光を撒き散らしながら勢いよく吹き飛ばされた。

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