第41話:穀倉地帯の巨人
翌日。
朝食を済ませた俺たちは、そのまま冒険者ギルドへと向かった。
受付で名前を告げると、すでに話は通っていたらしく、俺たちはすぐに二階にある支部長室へと案内された。
「よく来てくれた。王都に救援要請を出していたところだが……まさか二組の勇者隊が来てくれるとはな」
俺たちを迎えた支部長は、ほっとしたように息を吐いた。
その言葉を聞いたリリアが、不安そうに眉を寄せる。
「……王都に救援要請を出すほどの相手……ですか?」
「ああ」
支部長は机の上に広げられていた地図へと目を落とした。
「今、この都市の北東にある穀倉地帯を、一体のサイクロプスが襲っている」
「サイクロプス!?」
リリアだけでなく、セシルたちまで驚いた声を上げた。
エリオも表情を険しくしている。
「……なんだ? そのサイクロプスって、そんなにヤバいのか?」
俺が聞くと、支部長が信じられないものを見るような目を向けてきた。
「……サイクロプスの脅威を知らんとは」
「田舎者なもんで」
「そうか……。奴らは遥か北、最果ての地に生息しているとされる巨人種だ。成体ともなれば身の丈は五メートルを超え、その腕力は大型のモンスターすら素手で殺すと言われている」
「へぇ……」
五メートルか。
ずいぶんとデカいな。
「非常に頑丈な肉体を持ち、並の剣では皮膚を裂くことすら難しい。さらに見た目に反して知能も低くない。棍棒や岩を武器として使う個体も確認されている」
「それで、ランクは?」
エリオが尋ねる。
「通常ならAAランクだ」
「通常なら?」
ノアがその言葉に反応した。
支部長は重々しく頷く。
「今回現れた個体は、通常のサイクロプスとは明らかに違う」
そう言って、地図の上に置かれていた一枚の紙を俺たちの前へ差し出した。
「目撃者の証言では、身長は七メートルを優に超えるそうだ」
「七メートル……」
ミナが小さく呟いた。
「討伐のため、すでに複数の冒険者を派遣した。しかし……」
支部長の表情が曇る。
「全員、撤退を余儀なくされた」
「AAランクの冒険者もいたのですか?」
セシルの問いに、支部長は頷いた。
「ああ。それも一人ではない。三人のAAランク冒険者を含む十名で向かわせた。それでも倒せなかった」
「……随分と厄介そうだな」
エリオが腕を組む。
「生還した冒険者の話では、剣や槍による攻撃がほとんど通らなかったらしい。それだけではない。奴は巨大な岩を投げ、遠距離から後衛を狙ってきたそうだ」
「後衛を?」
クラリスが顔をしかめた。
「ああ。偶然とは思えんほど正確にな」
なるほど。
デカくて力が強いだけの相手というわけでもないらしい。
「その報告を受けて、我々は今回の個体をAAAランク相当と判断している」
「AAA……」
リリアが僅かに息を呑んだ。
昨日まで聞いていた話から考えても、かなり上の部類なのだろう。
「本来であれば王都から討伐隊が到着するまで待つところだった。しかし、そう悠長なことも言っていられん」
支部長が地図の一点を指差した。
「この一帯がローデン最大の穀倉地帯だ」
地図を見ると、街の北東側に広大な農地が広がっている。
「すでに複数の農家が被害を受け、家畜も相当数やられている。このまま放置すれば、収穫前の畑だけでなく、周辺の村にも被害が広がる」
「なるほど……」
エリオが地図を見ながら呟いた。
「だから、僕ら二つの勇者隊に共同で討伐してほしいということか」
「その通りだ」
支部長は俺たち一人一人を見回した。
「第35勇者隊、第38勇者隊。両隊に、サイクロプスの討伐を依頼したい」
部屋の空気が僅かに張り詰める。
しばらく誰も口を開かなかったが、やがてエリオが小さく息を吐いた。
「……どのみち、僕らに断ることはできないんだ。やるしかない」
「……そうですね」
リリアも少し暗い表情を浮かべながら頷いた。
「私たちは、勇者ですからね……」
セシルやミナ、クラリスたちも何も言わない。
昨日エリオから勇者について聞いたばかりということもあって、その言葉が妙に重く感じた。
AAAランク相当。
俺には、そのランクが具体的にどのくらい危険なのかまでは分からない。
だが、こいつらの顔を見れば、少なくとも気軽に討伐へ向けるような相手ではないことくらいは分かる。
「なぁ、支部長さんよ」
「はい?」
「なんか支援品とかないのか?」
「……支援品、ですか?」
「ああ。武器でもポーションでも、なんでもいい」
俺は机の上に広げられた地図へ目を落とした。
「俺は田舎者だから、そのサイクロプスがどのくらいやべぇ奴なのかは分からん。けど、王都に救援を頼むくらいなんだろ?」
「……ええ」
「なら、出来る限りの支援が欲しい。こっちだって、何も準備せずに突っ込むよりはマシだろ」
支部長は少し驚いたような顔をしたあと、すぐに頷いた。
「なるほど……分かりました」
そう言うと、支部長は机の横に置かれていた呼び鈴を鳴らした。
しばらくすると職員が部屋へ入り、支部長が何やら指示を出す。
「ギルドの備蓄から、回復ポーションと魔素ポーションを用意しましょう。数にも限りはありますが、今回の討伐であれば優先して支給できます」
「おっ、助かる」
「回復ポーションは一人二本。魔素ポーションについては、魔法を扱う方を中心に配布させていただきます」
支部長の言葉に、セシルとノアが顔を見合わせた。
「魔素ポーションまで支給していただけるのですか?」
「ああ。出し惜しみをして、勇者を失う方が遥かに大きな損失だからな」
「……ありがとうございます」
セシルが静かに頭を下げる。
少し前まで暗い顔をしていたリリアたちも、僅かではあるが表情が和らいだように見えた。
別にポーションが何本か増えたところで、相手が弱くなるわけじゃない。
それでも、使えるものがあるなら使った方がいい。
命を懸けるっていうなら、なおさらだ。
「他にも必要なものがあれば、可能な範囲でこちらが用意しよう」
「そいつはありがたい」
俺がそう返すと、エリオが隣からこちらを見た。
「……どうした?」
「いや」
エリオは僅かに笑った。
「昨日の僕の見る目は、間違っていなかったと思っただけだ」
「……なんの話だよ」
「別に」
なんだ、こいつ。
妙に機嫌が良いな。
まぁ、いいか。
こうして俺たちは支部長から支援物資を受け取り、AAAランク相当とされるサイクロプスの討伐へ向かうことになった。
さて……今回は、どんな化け物が待っていることやら。




