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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
エリオ編

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第40話:勇者からの勧誘

宿屋の部屋に入り、荷物を適当に片付けたあと。

俺はベッドに腰を下ろしながら、明日の予定でも確認しようかと考えていた。

向かいのベッドでは、エリオが腰掛けたまま、何やら考え込むように俺の顔を見ている。


「……なんだよ。俺の顔に何かついてるか?」


「カイル。お前は、リリアたちのことをどう思ってるんだ?」


「どうって? まぁ、良い子たちだなぁとは思ってるが」


「そういう意味じゃない。女性として、どう思ってるんだ? と聞いている」


「あらやだ、この子ったら……」


「気持ち悪い反応をするな」


エリオが露骨に顔をしかめた。


「そういうことなら、先に教えておいてやるが、リリアとセシルは故郷に好きな奴がいるらしいぞ?」


「そうなのか?」


エリオは意外そうに目を丸くした。


「その割には、お前に対する視線がやたら熱っぽい気がするが……って、そういうことを聞きたいんじゃない」


「俺に対する視線って……単なる兄貴を見るようなもんだろ。んで、何が違うんだ?」


エリオは少し面倒そうに息を吐いた。


「カイルが、リリアたちの誰かを好きではないか? と聞いているんだ」


「単刀直入に聞いてくるな……」


俺は思わず苦笑した。


「残念ながら、そういう感情をあの子らには持ってねぇよ。まぁ……妹みたいなもんだな」


「……そうか。妹みたいなものか……」


エリオは何やら納得したように頷いた。


「んで、そんなことを聞いてきた理由は聞いてもいいのか?」


「……ああ」


エリオは一度だけ俺の顔をじっと見た。


「カイル。リリアたちとの約束が終わったら、僕のところに来ないか?」


「…………はい?」


俺は思わず聞き返した。

さっきまでの恋愛相談みたいな話は、どこへ行った。


「僕は今まで、誰かとつるんで安心したことなんてなかった」


エリオはベッドに腰掛けたまま、ぽつりと呟いた。


「まぁ、お前の性格は一匹狼っぽいもんな」


「否定はしない」


エリオは小さく笑った。


「だが、ここ数日、お前と話しているうちに……初めて背中を任せたいと、そう思えたんだ」


「あらま。そいつは光栄なことで……でもなぁ」


そこまで評価してくれるのは嬉しいが、俺は一応リリアたちに雇われている身だ。

勝手に「じゃあ今日からそっち行きます」とはいかない。


「リリアたちとの約束が終わってからで構わない」


俺が何か言うより先に、エリオが続けた。


「だから、その約束が終わったら僕のところへ来てほしい。それに……」


「それに?」


エリオは僅かに間を置いた。


「クラリスとノアは独身だ」


「やかましいわ。いきなり何を言い出すんだ、お前は」


俺は思わず即座に突っ込んだ。

さっきまで随分と真面目な話をしていたと思ったら、急に何を言い始めるんだ、こいつは。


「……そうか? カイルも男だから、やはり将来のアテくらいは欲しいかと思ったんだが」


「アテとか言うな、アテとか……。ってか、エリオはあの二人に対して何も思わんのか?」


「……やかましい姉どもかな」


「姉ときたか……」


クラリスもノアも、聞いたら怒りそうだな。

そんなことを考えていると、エリオは何でもないことのように続けた。


「それに、僕には故郷の孤児院に想い人がいる」


「おっ!? どんな子だよ!」


思わず身を乗り出してしまった。


「なんだ、その笑みは……」


「いやぁ、エリオにもちゃんとそういう話があるんだなぁと思ってな」


「僕をなんだと思っているんだ……」


呆れたようにため息を吐きながらも、エリオは少しだけ表情を緩めた。


「まぁ……大人しい子だよ。僕より二歳年下で、朗らかで……笑顔が優しくて……」


そこまで話したところで、エリオの声が僅かに柔らかくなった。


「……なるほどねぇ」


「なんだ」


「いや、別に?」


「その顔で言われても信用できないんだが」


どうやら、なかなか大切に想っている相手らしい。

普段の無愛想な姿からは想像しづらいが、エリオも普通の少年ということなのだろう。


「それで、さっきの話はどうなんだ?」


「ん?」


「僕のところへ来る話だ」


「あぁ……」


俺は腕を組み、少しだけ考えた。


「んー……リリアたちは四魔将がいるところまで行くつもりだしなぁ……」


「そうだな」


「そんなところまで行ったら、生きて帰れる保証もないだろ」


今まで聞いてきた話を考えれば、それくらいは俺でも分かる。

歴代の勇者たちですら、四魔将の一人も討ち取れていない。

俺がいくら腕力に自信があるからといって、絶対に生きて帰れるなんて口が裂けても言えない。


だが、エリオは俺の言葉を聞くと、小さく鼻で笑った。


「……ふっ。よく言う」


「なんだよ」


「お前が勝てる見込みもない相手に、みすみすリリアたちを挑ませるとも到底思えないな」


「……」


「危険だと判断すれば、お前は止めるだろう。それでも聞かなければ、無理やりにでも連れて逃げる」


俺は思わず苦笑した。


「……よく分かってんな」


「ここ数日、お前を見ていれば嫌でも分かる」


エリオはそう言って肩をすくめた。


「まぁ……四魔将からリリアたちを逃がすために、カイルが囮になる可能性はあるが」


「おい。さらっと俺を殺すな」


「だが、それでも僕は、お前なら生き残る可能性は高いと思っている」


エリオは冗談を言っているような顔ではなかった。


「だから、リリアたちとの旅が終わったら、今度は僕と旅をしてほしいんだ」


「……へいへい。いいけど、俺は高いぜ?」


「……高い?」


俺はニヤリと笑った。


「何と言っても、リリアたちから支払われる予定の報奨金は金貨五十枚だからな!」


「五十……?」


流石のエリオも目を丸くした。


「随分と大きく出たな」


「だろぉ? なんでも俺と一緒に旅すれば、それくらい稼げる額だとか言ってたけど」


「なるほど……」


エリオは顎に手を添え、何やら真剣に考え始めた。

俺としては、半分冗談で言ったつもりだったのだが。


「なら、僕は百出そう」


「百っ!?」


俺は思わずベッドから身体を起こした。


「金貨百枚!?」


「ああ」


「いや、高すぎないか!?」


「そうか?」


「そうだろ! ってか、お前、孤児院の借金を返すんじゃなかったのか!?」


ついさっき聞いた話では、勇者として稼いだ金の大半を、故郷の孤児院に送るつもりなのではなかったか。

だが、エリオは何でもないことのように答えた。


「今すぐ百枚払うとは言っていない」


「急に詐欺師みたいなこと言い出したぞ、こいつ」


「お前と旅をすれば、それだけ稼げるんだろう?」


「……セシルと同じ理屈じゃねぇか」


「なら、問題ないな」


「問題しかねぇよ」


俺が呆れていると、エリオは小さく笑った。


「まぁ、それだけ僕はカイルのことを買っている。そう思ってくれればいいさ」


「……買っている、ねぇ」


金貨百枚。

とんでもない額ではあるが、不思議と金の話をされているようには感じなかった。

エリオが欲しいのは、強い戦士でも、金を稼げる仲間でもない。

たぶん、こいつが言った通りなのだろう。

背中を任せられる相手。

俺がそんなふうに思われているというのは、悪い気はしなかった。


「ただ、カイルがリリアたちに金貨五十枚を請求するとも思えないんだ」


「……なんですと?」


思わぬ言葉に、俺はエリオの顔を見た。


「お前の性格のことだ。どうせ適当なことを言って、向こうが無理なく払える程度まで減額すると思っている」


「……おい、まさか」


「だから、僕が仮に金貨百枚を用意できたところで、本当に全額請求されることはないと踏んでいる」


「おいこら」


こいつ……。


「……違ったか?」


「違うと言いたいが……」


言い返せなかった。

実際、リリアたちから金貨五十枚を本気で取り立てるつもりなんて、俺にはない。

旅の間に飯代やら宿代やらで世話になるだろうし、帰る頃に無理のない範囲で払ってくれれば、それでいいと思っている。


「そういうところに、僕ら勇者は惹かれるんだ」


「……は?」


エリオはベッドに身体を預けながら、静かに続けた。


「助けを求めれば、必ず手を差し出してくれそうなお前に……」


「……やかましいわ。俺はそんな聖人じゃねぇぞ」


「そういうことにしておこう」


「ったく……。ほら、さっさと寝た寝た」


俺は照れくささをごまかすように、布団へ潜り込んだ。


「ふっ……おやすみ、カイル」


「ああ。おやすみ、エリオ」




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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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