第37話:もう少しだけ一緒に
昼を少し回った頃。
俺たちはカラントの街にある飯屋で、少し遅めの昼食を取っていた。
昨日と同じように二つのテーブルをくっつけ、その周りを七人で囲んでいる。
俺の隣では、リリアとセシルが焼肉定食の大盛りを夢中になって食べていた。
「美味しいですっ!」
「この店、肉が多くて好き」
「お前ら、朝も結構食べてなかったか?」
「戦ったあとは、お腹が減るんですっ!」
「魔力もいっぱい使った」
「まぁ、今日はよく頑張ったしな」
二人が幸せそうに肉を頬張る姿を眺めながら、俺も自分の皿へ手を伸ばす。
その時、向かいの席に座るエリオの様子が目に入った。
食事の手は動いているものの、先ほどから何やら考え込むように、難しい顔をしている。
「どうした、エリオ。なんか考え込んでるみたいだけど」
俺が声をかけると、エリオはハッと顔を上げた。
そしてなぜか、俺の顔をじっと見つめてくる。
「なんだよ……。俺の顔に何かついてるのか?」
「いや……その……」
エリオは言いづらそうに視線を逸らしたあと、リリアへ顔を向けた。
「リリアたちは、次はどの街へ向かう予定なんだ?」
急に話を振られたリリアは、口いっぱいに入っていた肉を慌てて飲み込んだ。
「私たちは、このまま街道を北上する予定なので、次はローデンへ向かいます」
「ローデンか……」
それを聞いたエリオは、再び眉間に皺を寄せる。
しばらく悩むように黙り込んだあと、意を決したように口を開いた。
「……なぁ。君たちさえよければ、もう少し同行してもいいか?」
「えっ?」
エリオがそう言った瞬間、両隣で食事をしていたクラリスとノアが、ほとんど同時に咳き込んだ。
「けほっ……! エリオ、どうされたんですか?」
「あのエリオが、自分からほかの隊に同行を申し出るなんて……」
二人から怪訝な目を向けられたエリオは、見る見るうちに顔を赤くしていった。
「う、うるさい! 今までの奴らは信用ならなかっただけだ!」
「では、カイルさんたちは信用できるということですね」
「別にカイルたちが特別というわけじゃない!」
エリオが慌てて否定すると、リリアが楽しそうに目を細めた。
「第38勇者隊のリーダーは私なんですけどね」
「……何が言いたい?」
「それなのに、『リリアたち』じゃなくて『カイルたち』なんですね」
「グッ……!」
エリオが言葉に詰まる。
リリアは面白そうに身を乗り出し、ニヤニヤと笑いながらエリオの顔を覗き込んだ。
「エリオさんが、誰と一緒に旅をしたいのか、少し分かってしまいました」
「違う! 別にカイルがどうこうというわけではない!」
「そうなんですか?」
「ただ、次の目的地も同じなんだ。だったら、別々に行くよりも同行したほうが合理的だと言っているだけだ」
「ふふーん……。どうしましょうかねぇ」
リリアは頬へ指を当て、わざとらしく悩む素振りを見せる。
エリオは悔しそうに顔を歪めていた。
さすがに少し可哀想になってきたので、俺は二人の間へ割って入った。
「まぁまぁ。同じ街へ行くなら、別にいいじゃねぇか」
「カイル……」
「旅なんて、大勢のほうが楽しいだろ? 戦える奴が多ければ、道中も安全だしな」
俺がそう言うと、リリアはまだ少し楽しそうに笑いながら、椅子へ座り直した。
「まぁ、カイルさんがそう言うなら、私は構いませんよ」
「私もいい」
セシルは焼肉を口へ運びながら、短く答えた。
「私も問題ありません。せっかく仲良くなれましたし、一緒に行ったほうが楽しいと思います」
ミナも笑顔で頷く。
「決まりだな」
俺はエリオへ向かって笑いかけた。
「まだしばらくの間、よろしくな」
「ああ……」
エリオは少しだけ安堵したように息を吐いた。
「僕からも、よろしく頼む」
そう言って、エリオはわずかに微笑んだ。
その表情を見たクラリスとノアは、食事の手を止めたまま、驚いたように顔を見合わせていた。
「……笑いましたね」
「笑ったね」
「聞こえてるぞ!」
エリオの怒鳴り声が、店の中へ響いた。
***
昼食を終えた俺たちは、ローデン行きの馬車を予約するため、街の北側にある乗合馬車の発着所へ向かった。
石造りの門の近くに設けられた広場には、何台もの馬車が並んでいる。
荷物を積み込んでいる御者や、出発を待つ旅人たちの姿もあり、辺りは随分と賑わっていた。
「ローデン行きは……あれか」
広場の端に立てられた案内板を確認すると、ローデン行きの馬車は一日に一本だけ出ているらしい。
出発は明日の朝。
俺たちは近くにあった受付小屋へ入り、七人分の座席を頼むことにした。
「ローデンまで七人だ」
「七名様ですね。荷物はどの程度ありますか?」
「それぞれの背負い袋と、武器が何本かだ」
受付にいた男は俺たちの荷物へ目を向けると、手元の帳面へ何かを書き込んでいく。
「まだ空きがありますので、全員同じ馬車へご案内できます。明日の朝、鐘が二度鳴る前にはこちらへお越しください」
「分かった」
俺は七人分の料金を支払い、代わりに小さな木札を受け取った。
木札には馬車の番号と、ローデンという街の名前が彫られている。
「これで予約は終わりか」
「はい。出発に遅れた場合、料金は返金できませんのでお気をつけください」
「遅刻しそうな奴は……いないよな?」
俺が振り返ると、リリアが慌てて首を横へ振った。
「大丈夫ですっ! 明日はちゃんと起きます!」
「リリア、昨日もミナに起こされてた」
「今日は戦って疲れてたからだよ!」
「明日の朝も疲れている可能性はありますね」
「ミナまで!」
騒ぎ始めた三人を眺めながら、俺は小さくため息をついた。
明日は少し早めに起こしたほうがよさそうだ。
***
翌朝。
空が白み始めた頃、俺たちは宿を引き払い、昨日訪れた馬車の発着所へ向かった。
「ふぁぁぁ……眠いです……」
リリアは大きなあくびをしながら、俺の少し後ろを歩いている。
「ほら、足元に気をつけろよ」
「大丈夫ですぅ……」
「全然大丈夫そうに見えないぞ」
俺が苦笑しながら歩いていると、その後ろではセシルも眠そうに目を擦っていた。
ミナだけは、いつもどおりの穏やかな笑顔を浮かべている。
一方、エリオたち三人は、すでに目が覚めているようだった。
「随分と眠そうだな」
エリオが呆れたようにリリアへ声をかける。
「エリオさんは元気そうですね……」
「勇者が馬車の時間に遅れるわけにはいかないだろう」
「私も勇者ですよぉ……」
「なら、もう少ししっかり歩け」
そう言いながらも、エリオは少し歩く速度を落とし、リリアたちに合わせていた。
発着所へ到着すると、すでに馬車の準備は整っていた。
荷物を後方へ積み込み、受付で昨日受け取った木札を見せる。
「七名様ですね。こちらの馬車へお乗りください」
御者に案内されたのは、幌のついた大きな乗合馬車だった。
中を覗くと、向かい合わせに長い座席が二つ設けられている。
ほかにも何人か乗客がいたが、七人がまとまって座れるだけの空きは残っていた。
「よし。乗るぞ」
俺が先に馬車へ乗り込み、後ろを振り返る。
リリアとミナ、セシルが続き、その向かい側へエリオたち三人が腰を下ろした。
全員が乗り込んだことを確認すると、御者が馬車の扉を閉じる。
しばらくして、外から鞭の音が聞こえた。
馬車がゆっくりと動き出し、車輪が石畳の上を転がっていく。
窓の外では、カラントの街並みが少しずつ後方へ流れていた。
「次はローデンか」
俺が小さく呟くと、隣に座っていたリリアが眠そうな顔のまま笑った。
「はい。また、みんなで一緒ですね」
「ああ。そうだな」
向かい側へ目を向けると、エリオは窓の外を見るふりをしながら、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
こうして俺たちは新たにエリオたち三人を加えたまま、次の目的地であるローデンの街へ向けて出発したのだった。




