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モブ転生。農民に生まれ変わった俺は、なぜか勇者パーティーにちやほやされる  作者: ブヒ太郎


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第34話:アッシュウルフと雷の聖剣

翌朝。

時刻は九時を回ったところだった。

朝食を済ませた俺たちは、エリオたちと待ち合わせをしている、鉱山へ続く門へ向かって歩いていた。


カラントの街では、飲食店以外の店も徐々に開き始め、街中が少しずつ活気づいている。

店先に商品を並べる商人や、荷車を引いて通りを行き交う人々の姿を眺めながら、俺たちは門へと向かった。


しばらく歩いていると、前方に目的の門が見えてくる。

その手前では、すでにエリオたちが俺たちを待っていた。

エリオはいつも通りの仏頂面で腕を組み、商店街のほうをぼんやりと眺めている。


「わりぃ。待たせちまったか?」


「問題ない。僕らもついさっき来たところだ」


エリオはそう答えると腕を解き、門番のほうへ向き直った。


「こちらの準備はできた。門を開けてくれ」


「はっ!」


二人の門番は敬礼すると、固く閉ざされていた門の鍵を外していく。

やがて重々しい音とともに門が開かれると、二人は再び姿勢を正し、俺たちへ敬礼した。


「どうぞ、勇者様! お気をつけて!」


「ご苦労」


エリオは片手をひらひらと振りながら、そのまま門を通過していく。

俺たちも、そのあとに続いて門をくぐった。


「お疲れさん」


「ご苦労様です」


俺が門番へ軽く声をかけると、リリアもそれに倣うように、行儀よく頭を下げた。


「はいっ! 勇者様もお気をつけて!」


リリアに声をかけられた男性の門番は、なぜか嬉しそうな顔でそう返した。

そのやり取りを、少し先まで歩いていたエリオが振り返り、じっと見つめていた。


その視線に気づいたリリアは、不思議そうに首を傾げる。


「どうされました?」


「……別に。ただ、僕らを戦いの道具だと思っている連中に、よくそんな態度を取れるものだと感心していただけだ」


エリオは、どこか吐き捨てるように呟いた。

そう言われたリリアは、少しだけ口元を緩める。


「以前までなら、私もそう思っていたかもしれません。今でも、思うところがないわけではありませんけど……」


そこで一度言葉を切ると、リリアは俺のほうをちらりと見た。


「でも、カイルさんがベルクスのギルド支部長さんに言ってくれたんです。人のために戦っている人たちには、きちんと敬意を払えって」


リリアは、その時のことを思い出したのか、嬉しそうに笑っていた。


「そうしたら支部長さんも分かってくださって。私たちも『勇者』である前に、一人の人間なんだって……。失礼なことをしたと、謝ってくださいました」


その話を聞いたエリオは、一瞬だけ目を見開いた。

やがて、納得したように小さく笑う。


「……なるほど。カイルらしいな」


そう言って、俺のほうをじっと見つめてきた。


……なんか、当たり前のことを言っているだけなのに、なぜか勇者たちからの好感度が爆上がりしているように見えるのは、俺の勘違いだろうか。

どんな扱いをされてきたんだ、この子らは……。


俺がそんなことを考えていると、エリオがこちらへ声をかけてきた。


「……それで、カイル。今日の陣形だが、お前が先頭でいいのか?」


エリオは迷う様子もなく、そう尋ねてきた。

その少し後ろでは、ノアとクラリスが驚いたように互いの顔を見合わせている。


「あのエリオが、あたしたち以外を頼るなんて……」


「天変地異の前触れでしょうか……」


二人が小声で何やら話しているのを横目に、俺はエリオへ聞き返した。


「お、おう。それでもいいけど、どうした? まだ腕の調子が悪いのか?」


仕切りたがりのエリオが、わざわざ俺に先頭を任せようとしている。

何か理由があるとすれば、真っ先に思い浮かぶのは昨日治療した腕のことだった。


俺がそう思いながらエリオの腕へ視線を向けると、それに気づいたエリオは袖をまくってみせた。

昨日まで残っていた、治癒魔法で無理やり塞いだ傷は、ほとんど見えなくなっている。


「カイルの薬のおかげだ。今はもう、痛みも感じない」


エリオは自分の腕を確かめるように、軽く握ったり開いたりしてみせる。


「クラリスの治癒魔法だけでは治りきらなかったというのに……。まったく、とんでもない農民がいたものだ」


「そいつはよかった……。んで、それならなんで俺を先頭に? そういうのはエリオのほうがいいんじゃないか?」


俺が先頭を任せようとすると、エリオは少しだけ気恥ずかしそうに視線を逸らした。


「……昨日の稽古で思ったんだが、素の肉体強度が高いカイルのほうが適任だと思ったからだ」


そう答えてから、エリオは真剣な目で俺を見る。


「別に、カイルが嫌だと言うなら、僕が先頭に立つが?」


俺は一瞬の驚きを隠すため、ごほんと小さく咳払いをした。


「……そ、そうか。そういうことなら、俺が先頭に立つ。エリオは中衛で、リリアは後衛を頼む」


俺は二人の勇者へ順番に目を向ける。


「勇者二人の機動力なら、安心して任せられるからな」


「はいはーい、分かりましたー!」


リリアは元気よく答えると、ぴょんぴょんと跳ねながら手を挙げた。

一方、エリオはというと、何かを確かめるように小さく呟いた。


「勇者の機動力……ね」


そう言うと、エリオはリリアのことをじっと見つめた。

その視線に気づいたリリアは、不思議そうに首を傾げたあと、ただ優しく微笑み返すのだった。


***


俺たちは鉱山へ続く、岩肌がむき出しになった見晴らしの良い斜面を歩いていた。

しばらく進んでいると、俺たちから随分と離れた場所に、三体の黒い獣影が見えた。


「おいでなすったか……」


俺は背負っていた大鉈を抜き放った。

だが、獣影は昨日のように、一気に距離を詰めようとはしてこない。

三体ともその場に立ち止まり、こちらの様子を窺っている。


「……ん? なんだ……。まさか昨日の戦いで警戒して、近づいてこないなんてことはないよな……」


見た目はでかい狼だが、中身は凶暴なモンスターそのものだ。

そんなやつらが、人間を相手に怯えることなどあるのだろうか。


俺がそう考えていると、エリオが鋭い声をあげた。


「いや、違うぞ! これはっ!」


次の瞬間、獣影の一体が天を仰ぎ、大きな遠吠えを響かせた。


――ウォォォォンッ!


「仲間を呼んでいるのか……。いや、ちょうどいいっ!」


エリオはそう言って、腰の剣を抜き放った。

その直後だった。


三体の獣影の背後から、さらに五体のアッシュウルフが姿を現した。

そして、そのさらに奥から――。


「なるほど……。あれがダイアウルフか……」


俺の視線の先に、他の個体とは比べものにならないほど巨大な狼が姿を現した。

周囲のアッシュウルフを従えるように、ゆっくりと斜面を下ってくる。


「俺がやつらの気を引く! リリアとエリオは、横を抜けたやつを始末してくれ! ダイアウルフの動きを俺が止めたら、セシルとノアはありったけの魔法をぶち込めっ!」


俺が指示を出す間にも、八体のアッシュウルフが一斉にこちらへ向かってくる。

それぞれが高速で左右に蛇行しながら距離を詰めてくるため、どいつが誰を狙っているのか予測がつかない。


だが、そのうちの四体が一斉に俺へ視線を集中させ、そのまま真っすぐ迫ってきた。

俺の後ろには、クラリスとノアがいる。


……一気に四体とは、考えたな。


俺が横薙ぎの一撃で四体すべてを吹き飛ばせなければ、討ち漏らした一体がクラリスかノアに襲いかかるだろう。

かといって、至近距離で魔法を放てるのか?

一体一体が体長一・五メートルほどもあるが……やれるか?


俺が一瞬だけ迷った、その時だった。

エリオが俺の前へ歩み出た。


「ここは僕に任せてもらう。万が一、斬り払えなかった時は……カイル、任せた」


「お、おいっ! エリオ!? その役目は俺のほうがっ!」


慌てて制止しようと手を伸ばした俺の肩を、後ろからクラリスが掴んだ。


「大丈夫です」


俺が振り返ると、クラリスは確信に満ちた表情で微笑んでいた。

その言葉を聞き、俺は改めてエリオの背中へ目を向ける。


すでに四体のアッシュウルフは、目と鼻の先にまで迫っていた。


「……カイル。僕には、特別優れた機動力なんてないんだ」


エリオは俺に背を向けたまま呟いた。

腰を深く落とし、両足を大きく開く。

まるで、迫り来るすべてを真正面から受け止めるかのように、両足を大地へしっかりと固定した。


「僕にあるのは、ただ――」


四体のアッシュウルフが、ほぼ同時にエリオへ飛びかかった。


「エリオッ!」


俺が叫んだ、その瞬間だった。

エリオの握る剣へ、周囲の魔力が一気に収束していく。


「破壊力のみっ!!」


エリオが叫ぶと同時に、剣へ押し込められていた魔力が弾けた。


――バリバリバリッ!


眩い雷光が刀身を駆け巡り、白銀の魔力が刃の形を保ったまま、瞬く間に膨れ上がっていく。

それは、リリアの聖剣とは比べものにならないほど巨大だった。

振り上げられた魔力の刀身は、岩肌がむき出しになった鉱山道の上で、まるで空へ届きそうなほど長く伸びていた。


「ハァァァァッ!!」


エリオは地面を強く踏み込み、巨大な刃を横薙ぎに振り抜いた。


――バリバリバリィィィッ!!


雷をまとった魔力の刃が空気を引き裂き、迫っていた四体のアッシュウルフをまとめて薙ぎ払う。

一瞬遅れて、凄まじい爆風が周囲を駆け抜けた。


「うおっ!?」


俺は咄嗟に腕で顔を覆い、吹きつける風と砂埃に耐える。

足元の小石が弾けるように飛び散り、道の両脇にそびえる岩肌までビリビリと震えていた。


やがて雷光が収まると、バラバラになったアッシュウルフの死骸が、岩だらけの地面へ散らばっていた。

その背後には、巨大な刃が通り過ぎた跡が、深々と刻み込まれている。


あまりの惨状を目にした残り四体のアッシュウルフは、その場で足を止めていた。

その視線は、ただ一人、エリオへ釘づけになっている。


エリオは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

その横顔には汗が滲んでいたが、リリアのように立っていられなくなるほど消耗した様子はない。


「大丈夫か、エリオ?」


ひとまず心配になり、俺が声をかける。

するとエリオは横目で俺を見ると、得意げにニッと笑った。


「……少しは見直したか? カイル」


その顔は勇者というより、まるで父親に良いところを見せられた、年端もいかない少年のようだった。


「……あぁ。本当にすげぇよ、お前……」


俺が素直にそう答えると、エリオは再び満足そうにニッと笑うのだった。

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