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モブ転生。農民に生まれ変わった俺は、なぜか勇者パーティーにちやほやされる  作者: ブヒ太郎


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第33話:稽古と大型犬みたいな少年勇者

俺はエリオに連れられ、ギルドの裏手にある訓練場へ来ていた。


石煉瓦で囲まれた広い訓練場には、素振りをしたり、木人へ武器を打ち込んだりする冒険者の姿が、ちらほらと見える。

時刻はもうすぐ十六時になるところだ。

昼間ほど人は多くないようで、訓練場にはいくつか空いている場所が残っていた。


俺たちは訓練用の木剣を銅貨六枚で借りると、ちょうど空いていた中央の広いスペースへ移動した。

リリアたちはというと、なぜかギルドから丸椅子を借りてきて、訓練場の端に並んで座っている。


「カイルさん、頑張ってー!」


……いや、見世物じゃないんだけど。


俺は木剣を肩に担ぎながら、向かいに立つエリオへ声をかけた。


「んで、勇者様よ。やっぱ稽古っていうと、俺が打ち込んで、エリオがそれをいなすみたいな感じか?」


俺は、なんとなく思い浮かべた訓練の姿をそのまま口にした。

だが、エリオは呆れたように眉をひそめる。


「……なんだ、その訓練の仕方は。僕がこれから行うのは、武器を用いて打ち合う実戦形式の訓練だ」


「マジか……」


予想が外れたのと同時に、一つの懸念が頭に浮かんだ。


「……俺、剣術は素人なんだけど?」


「大丈夫だ。問題ない」


「……と、言いますと?」


何が問題ないのだろうか。

俺がそう思いながら尋ねると、エリオは淡々と答えた。


「ちゃんと加減はする。それに、ここで一日木剣を振ったところで、剣の型が身につくものでもない」


そう言うと、エリオは木剣を両手で構えた。

先ほどまでの幼さの残る表情が消え、鋭い視線がまっすぐ俺へ向けられる。


「では、行くぞ」


「……やれやれ……」


俺も仕方なく木剣を構えた。

身体の重心を少し落とし、いつでも動けるように足を開く。

その時だった。


エリオが地面を強く蹴り、瞬く間に俺の眼前まで距離を詰めてきた。

速い。

俺は振り下ろされる木剣に合わせ、手にしていた木剣を振り上げた。


――ガッ!


木剣同士が激しく衝突する。

俺が力任せに押し返すと、エリオの木剣が大きく弾かれた。

だが、エリオは体勢を崩さない。


弾かれた勢いを利用して木剣の軌道を変えると、左下から逆袈裟に斬り上げてきた。

俺は迫る木剣を目で追いながら、右上から木剣を振り下ろす。


――ガンッ!


再び木剣同士がぶつかり、乾いた音が訓練場に響いた。

今度はエリオも押し返されることなく、その場で素早く身体を回転させる。

横薙ぎに振るわれた木剣が、俺の脇腹を狙って迫ってきた。


俺は一歩後ろへ下がりながら木剣を縦に構え、その一撃を受け止める。


――ガッ!


木剣越しに重い衝撃が腕へ伝わってきた。

さっきよりも明らかに力が強い。

加減すると言っていたはずだが、少しずつ本気になっていないか?


俺がそう思った直後、エリオは弾かれた木剣をすぐに引き戻し、今度は真っすぐ俺の胸へ突き出してきた。


俺は身体を半歩横へずらして突きをかわす。

すれ違いざま、木剣の腹を下から軽く叩き上げると、エリオの腕が大きく持ち上がった。

だが、エリオは木剣を手放さなかった。

すぐに踏み込み直すと、今度は俺の肩口を狙って斜めに木剣を振り下ろしてくる。


俺も木剣を振り上げ、その一撃を正面から受け止めた。


――ガァンッ!


先ほどまでよりも大きな音が響き、互いの木剣がその場で押し合う形になる。

目の前では、エリオが歯を食いしばりながら、必死に木剣を押し込んでいた。

どう見ても、俺に剣を教えている顔ではない。


「……なぁ。これ、俺の稽古っていうか、エリオの稽古になってきてないか?」


「うっ、うるさいっ! どうして反射神経だけで、僕の剣を全部受け止められるんだっ!?」


エリオは必死の形相で顔を真っ赤にしながら、俺に反論してきた。

どうやら、剣術の素人である俺では、エリオの剣の速さについてこられないと踏んでいたらしい。


その会話を聞いていたリリアとセシルが、訓練場の端から大声で口を挟んできた。


「エリオさーん! その人、ロックベアの爪撃を筋肉で叩き落とせる人なんで、普通の人と同じだと思わないほうがいいですよー!」


「化け物~」


……お前ら、人をなんだと思ってんだ。


俺は嘆息交じりに二人の声を聞き流しながら、目の前のエリオをじっと見た。

「稽古をつけてやる」と言った手前、今の状況がよほどばつが悪いのだろう。

エリオは唇を引き結び、気まずそうに俺から視線を逸らしていた。


……かといって、みんなが見ている前で、このまま恥をかかせるのも可哀想だしな。


俺はそう考えると、エリオに声をかけた。


「……まぁ、稽古とは少し違うかもしれないけどよ。俺にとっても、対人戦の良い訓練にはなってるんだ。あんまり気にせず、どんどんかかってきてくれると助かる」


「そ、そうかっ! ……それもそうだなっ!」


エリオはそう答えると、先ほどまでのばつが悪そうな表情から一転し、やる気に満ちた顔を取り戻した。


同じように丸椅子へ腰かけ、エリオを見守っていたクラリスとノアへ目を向ける。

二人とも俺と目が合うと、何も言わずに穏やかな笑みを浮かべていた。

まるで、手のかかる弟を見守る二人の姉のような表情だった。


「よしっ! そういうことなら、次は僕も本気で行くぞ、カイルッ!」


エリオが嬉しそうに叫んだ直後、その身体から膨れ上がるような魔力の気配を感じた。


「……お前ッ! ちょっと待てッ! スキルを持ってない相手に、肉体強化系のスキルを使う気かっ!?」


俺は慌てて止めようとしたが、エリオは構わず木剣を構え直す。


「対人戦を想定した訓練なんだろ! それなら当然、相手はスキルだってなんだって使ってくるんだぞ、カイルッ!」


「そりゃそうだがっ!」


「行くぞ、カイルッ!」


エリオは地面を強く蹴り、先ほどまでとは比べものにならない速さで俺へ迫ってきた。

振るわれた木剣の威力も、先ほどまでとは段違いだった。


――それからの一時間は、ある意味で地獄だった。


感覚としては、全力でじゃれついてくる大型犬を、怪我をさせないように払いのけ続けているようなものだ。

肉体強化によって速さと力を増したエリオが、次から次へと木剣を繰り出してくる。

俺はエリオに怪我をさせないギリギリの力加減を探りながら、それらを受け止め、弾き、時には叩き落としていった。


「その調子です! カイルさん!」


「いけいけ、カイルー!」


「カイルさん、格好いいところを見せてくださーい!」


その様子を見て、リリアたちは楽しそうに歓声をあげていた。


「エリオー! あまり無理をしてはいけませんよー!」


「どうせカイルさんなら怪我しないだろうし、もっと本気でいけーっ! エリオーッ!」


クラリスの心配そうな声と、ノアの無責任な声援まで混ざってくる。

気がつけば、周囲で訓練していた冒険者たちまで手を止め、俺たちの打ち合いを見物し始めていた。


「俺はあっちの兄ちゃんに賭けるぜ!」


「なら、俺はあの少年だ! 動きが全然違う!」


「どっちが先に倒れると思う?」


いつの間にか、訓練場の一角はちょっとした催し物のようになっていた。


……だから、見世物じゃないんだけど。


***


稽古を終えた頃には、時刻は十七時を回っていた。

エリオは訓練場の地面に座り込み、肩で大きく息をしている。

対する俺も、全身から汗が噴き出していた。

怪我をしないようにエリオの剣を受け続けるというのは、思っていた以上に神経を使うものらしい。


ギルドの裏手にある簡易シャワー室を借り、軽く汗を流してから外へ出ると、エリオたちは入口の近くで俺たちを待っていた。


「エリオ、大丈夫か?」


「この程度、なんともない……」


そう答えるエリオの足元は、わずかにふらついている。

強がるにしても、もう少し上手く隠せばいいのに。


俺は濡れた髪を手でかき上げながら、クラリスたちへ声をかけた。


「そういや、夕飯はどうするんだ?」


「私たちは、どこかの屋台で軽く済ませようかと……」


クラリスが遠慮がちに答える。

ノアもその隣で、曖昧な笑みを浮かべながら頷いていた。


「まだ銀貨七枚残ってるし、良かったら一緒に来るか?」


「ですが、お昼もご馳走になったばかりですし……」


「そうそう。さすがに悪いって」


二人はそう言って遠慮していたが、その横でエリオが小さく咳払いをした。


「カイルが、どうしてもと言うなら……僕は別に構わない」


口では仕方なさそうに言っているが、その表情はどこか嬉しそうだった。

さっきまで疲れ切っていたはずなのに、妙に目が輝いている。


……わかりやすいやつだな。


「なら、決まりだな」


「えっ?」


クラリスが驚いたように声をあげる。


「十九時に繁華街前の広場で集合でいいか? 一旦宿に戻って、着替えてから行こうぜ」


「……本当によろしいのですか?」


「いいって。人数が多いほうが飯も旨いだろ」


俺がそう答えると、クラリスは少し困ったように笑ったあと、丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


「やった。夜も肉かなぁ」


ノアが嬉しそうに声を弾ませる。


「お前たちは少し遠慮というものを覚えろ」


エリオは呆れたように二人を見ていたが、その顔は先ほどよりもずっと穏やかだった。


「それじゃあ、またあとでな」


「ああ。遅れるなよ、カイル」


「誘われた側が言う台詞か、それ……」


俺が苦笑いを浮かえると、エリオたちは宿へ戻るため、繁華街とは反対の通りへ歩いていった。

その後ろ姿が見えなくなったところで、俺は小さく息を吐く。


「エリオも、もうちっと素直なら上手くやれそうな感じがあんだけどなぁ……」


俺がそうぼやくと、隣を歩いていたリリアが、なんとも言えない表情でこちらを見上げた。


「まぁ、そう感じるのはカイルさんだからであって……」


「……うん。それはカイルだけ」


セシルも迷うことなく頷いた。

ミナは呆れたような笑みを浮かべながら、俺の顔をじっと見ている。


「普通は、あそこまで生意気な態度を取られたら、距離を置くものなんですがねぇ……」


「そうか?」


三人そろって頷いた。

息ぴったりだな、おい。


「……まぁ、あれくらいの年齢だと、肩の力が抜けないこともあるんだって」


俺が苦笑いを浮かべながらそう答えると、リリアたちは一瞬、顔を見合わせた。

そして、三人そろって吹き出した。


「ふふっ……まぁ、カイルさんなら、そう言うと思いましたよ」


「やっぱり、お父さん」


「だから、やめろって……」


俺は頭を抱えながら、三人の笑い声が響く通りを歩いていくのだった。

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