第3話:俺、一応農民なんだけど?
勇者パーティを自宅に泊めた、その日の夜。
俺は、自分を含めた四人分の夕飯を作っていた。
肉をタレで煮込んだものを卵でとじた玉子丼と、サラダとスープ。あとは、今日は女子が多いから、なんか甘味でも作るか……。
俺は牛乳、鶏卵、糖蜜をかき混ぜて、蒸し固めていた。
「良いにお~い! カイルさん! 何作ってるんですか!?」
「ん? 別に大したもんは作ってないぞ。よくある丼ものだな」
リリアが匂いに釣られて台所に入ってきて、腹を空かせた様子で俺の料理姿をじっと見ている。
ちゃんと昼に大おにぎりを二個も食べたのに、もう腹が減ったのか。流石勇者……腹も勇者と来たか。
「……甘い匂いがするっ!!」
「私の夕飯、その甘そうなものだけでいいですっ!!」
そう言いながら、セシルとミナが台所に突撃してきた。
「その甘そうなものは、何を作っているんですか!?」
「何って、ただのプリンだよ。プリン」
俺はそう答えながら、プリンにかけるカラメルを浅いフライパンで作っていた。
「プ、ププ、プリンですか!?」
「……なんだ、その反応は。まさかこんなお手軽デザートが、王都じゃ滅多に食えないとか言わんだろうな」
俺は大袈裟な反応ばかりするリリアを見ながら言ったが、
「……確かに滅多に食べられないとか、そういう代物じゃないですけど、高いんですよそれ! 普通の食事三回分くらいに匹敵するんですよ!?」
……まぁ、確かにこんな世界だと、デザート研究よりも日々の食事優先なのかもなぁ。
あとは輸送の鮮度とかもあるんだろうか。魔法で鮮度維持! みたいなのは一般的にはないのか……。
「まぁ、とりあえずお前らが食べ終わる頃には出来るから、さっさと食べちまおう」
俺はそう言うと、手早くテーブルに料理を並べていく。
「そんじゃあ、いただきまーす」
「「「いただきまーす!」」」
リリアたちが俺の料理を夢中で頬張っている様を眺めながら、俺もゆっくり夕飯を食べていった。
***
メインを食べ終わったリリアたちに、俺はお手製プリンを皿によそっていく。
さらに上からカラメルをかけて、プリンの完成だ。
「ほら、見た目はいまいちだが、味には自信があるんだ」
前世みたいな綺麗なプリンの形はしていないが、まぁいいだろう。
「こ、こんなにいっぱい……!! ありがとうございます!」
「……農家に嫁に行ったら、こんなのが毎日食べられるんですね……」
「ふむ……農家の嫁は、日々の体型管理との戦いになるわけですね」
恐ろしいことを言う二人の言葉は無視し、俺も自分で作ったプリンを頬張っていく。
疲れた体に甘みが程よく効いていく感覚を楽しみながら、お手製プリンを堪能するのだった。
リリアがプリンを頬張りながら、俺にいつになく真剣な眼差しを向けた。
「……あの、カイルさん……もし良かったらなんですが、私たちの旅に同行してくれませんか……?」
「……プリンを頬に付けながら言うセリフか、それは……」
俺は呆れつつ、聞き返した。
頬についていると指摘されて、恥ずかしそうに拭き取っているリリアを見ながら俺は答える。
「誘ってくれるのはありがたいが、俺は農民だぞ? パーティに入れるなら、戦士とか、そういう適した職の人がいるだろ」
「ブラック・ボアを一撃で倒す人がよく言いますね……」
セシルは俺を、何か信じられない化け物でも見るような目で見つめてきた。
「んじゃあ、猪くらい一撃で倒せる戦士を探したらいいさ」
正直、冒険者パーティの質はわからんが、このひよっこ勇者パーティから見れば、どいつも強く見えるんだろう。
「強さだけじゃありませんっ! カイルさんがついてきてくれたら、毎日ご飯作ってもらえるじゃないですか!?」
「ちょっと待て!? 俺は炊事洗濯係じゃないぞ!?」
俺は思わず言い返してしまったが、リリアは希望に満ちた顔になった。
「洗濯も出来るんですか!?」
「お母さんか、俺は!?」
思わず突っ込んでしまう。そんな様子を見ていたミナが、不敵に呟いた。
「これは……決まりね……」
何が決まったんだ、お前の中で……。
ミナは俺の前まで歩いてきて、座ったと思えば、
「どうかお願いしますっ!」
いきなり土下座を始めた。
「……っ!? おいこら!」
リリアとセシルは面食らった顔でミナを見ていたが、
「何ぼーっとしてるの! リリアもセシルも頼み込むのよ!! カイルさんの性格だと、絶対こういうことをされると断れないわっ!!」
こいつ……! 顔に似合わず強かだな!! っていうか、一応聖職者でしょキミ!!
「……確かにっ!!」
「……言われてみれば……」
おいぃぃぃ! 言われて納得してんじゃないよ!!
俺が止める間もなく、リリアとセシルも座り込み、頭を下げ始めた。どんな状況だよ、これ……。
「お願いしますっ!! 私たちについてきてください!!」
「肉壁が勇者様だけだと不安なんですっ!」
さらっと恐ろしいことを言うな、セシルは……。
「いや……だから、俺みたいな農民じゃなくて、ちゃんとした戦士をだな……」
頭を下げたまま、ミナがぼそりと呟いた。
「……カイルさんはいいんですか? 私たちが下山中にモンスターに襲われて命を落としても……?」
……こいつ……!!
「いいんですか? 私たちみたいなか弱き女が、変な男戦士に蹂躙されるようなことが起きても……?」
「……ぐぬぬっ」
ミナ……キミってやつは、俺がそういうのに弱いってのをよくわかってらっしゃる……。
「……えぇ? でも、私たちこれでもAランクパーティに匹敵するし、いくらなんでも戦士一人に蹂躙されるなんてことはないんじゃ……」
「――黙れ」
「……はい……」
……普通、一般的なAランクってだいぶ強いほうだよな……。大丈夫か、この世界……。
「……カイルさん」
頭を下げながら、今度はセシルが口を開いた。俺は恐る恐る聞き返す。
「……なんだよ……」
「……せめて、私たちが下山するまで付き合ってくれませんか? その道中に、私たちが今後も大丈夫だとわかれば、そこまででいいですし。カイルさんが、ただの猪というモンスターに他の奴らがどの程度苦戦しているのかを見て、それでも私たちは大丈夫そうだ、と判断できたらそこで別れてくださればいいです。当然、謝礼金もお出ししますよ」
…………どうしよう。凄い断りづらい…………。かと言って、俺がこのまま「仕方ねぇなぁ」とか言ったら、チョロい男だと思われそうでそれも嫌だ……。
「……謝礼金次第だな……」
「カイルさんっ!」
リリアの顔がパァっと明るくなった。……やめて、俺をそういう目で見ないで。現金な男を演じてみせてるんだから……。
「……金貨五十枚でどうですか……?」
「ご、五十枚っ!? どこにそんなお金があるんですか!?」
ミナがセシルにツッコミを入れているのを見るに、今はそんな金はないと思われる。……うーん、どういうつもりでそんな額を出してきたんだ?
「カイルさんを入れた場合、稼げるお金を算出して、これくらいはいけそうという額です。……足らなかったら身体を売ります」
「……セシル、何もそこま――」
俺は思わず止めようと声をかけるが、セシルは真顔で続けた。
「そこにいるリリアの身体を」
「私かいっ!?」
リリアがセシルにキレのあるツッコミを入れた。……まぁ、仲のいいパーティだ。
あと、これ、どのみち俺が首を縦に振るまで止まらないんだろうな。仕方ない……。
「……はぁ……わかったよ。んじゃあ、謝礼金で手を打つってことで……」
「カイルさんっ!!!」
「やったっ!」
「これからよろしくね、カイル」
ぱぁっと明るい顔をする三人を見て、俺は一抹の不安を覚えた。
……俺ってこれからどうなるんだろう。俺の田舎でのスローライフは……。




