第2話:畑を耕してるだけなんだが?
自称勇者様ご一行を家に招き入れた俺は、手早く朝食の準備をした。
肉、米、汁物、サラダ。まぁ、こんなもんでいいだろう。
「お待たせ。ゆっくり召し上がれ」
そう言いながら、俺は三人分の朝食をテーブルに並べていった。
俺が料理している間に村人が用意してくれた服に着替えた三人は、並べられた料理を夢中で頬張っていた。そんな様子を横目に、俺はズズッとお茶を啜る。
……あとで、頑張って畑を耕さないとな……。
「……あっ……」
ふと、蒼髪の子が声を漏らした。
どうやら茶碗に盛った米を食べ終わってしまったようだ。
「おかわりいる?」
「……欲しいです」
モジモジと恥ずかしそうに茶碗を差し出してくる。その茶碗を受け取った俺は、ご飯を山盛りにして返した。
「食べ物ならマジで売るほどあるから、たくさんお食べっ!」
「ありがとうございますっ!!」
嬉しそうに山盛りご飯を受け取る様子を見て、俺は微笑んだ。
うんうん……育ち盛りなんだから、いっぱいお食べ。実際、村で作って売り物にしているくらいだから、本当に売るほどあるんだよな……。
「……豊かな村なんですね……」
金髪の子が、空っぽの茶碗を手に呟いた。
その茶碗を取り上げて、同じくご飯を山盛りにしながら俺は返す。
「そうかぁ? 俺はここでしか育ってないから他の村のことは知らんけど、どの村もこんなもんだろ?」
魔力とかいう摩訶不思議パワーが満ちている世界なんだから、農作物の成長が早いこと早いこと。なんでみんな農家をやらないのだろうか……。いや、普通に考えて農家の生まれでもないと農家はやらないか。前世の俺がそうであったように。
そう思いながら、山盛りご飯を金髪の子に渡す。
「あわわ……いいんですか、こんなに……」
「いいんだよ、別に。ほら、これが後の世界の平和に繋がるんだと思えば安いもんだよ」
俺は遠慮がちな彼女のため、適当に耳心地が良いことを言っておく。
「ありがとうございます……。でも普通の村は、ブラックボアが一頭出ただけでも大騒ぎなんですよ? それを、あんなにあっさりと……」
……ふむ。都会の畑で働く人は、やっぱり獣が一頭出ただけでも大騒ぎする。それは元の世界でもこの世界でも同じなのか……。
「……そりゃあ、日頃の畑仕事で培ったこの筋肉があれば、大体のことは解決できるってもんよ!」
俺は自慢の力こぶを作って見せつけた。
「……普通、筋肉だけでどうにかなる相手ではないんですけどね……」
赤髪の子が呆れたように呟く。どうやらこの子は他の二人と違って少食のようだ。まだ茶碗の米が半分も残っている。……いや、他の二人が食い過ぎなのか?
「そうなのか? 都会っ子も色々苦労してそうだなぁ」
そう言いつつ、俺は立ち上がった。
「とりあえず、お前ら今日はどこか泊まるあてはあるのか?」
「……ないですけど……」
金髪の子がぼそっと呟く。
「次の街まで行ければいいんですけど、道中またあんなのに襲われたら、次はどうなるか……」
「うわーん! リリアが『ここはショートカットだな……あの山を直線で進む!』とか言い出さずに、大人しく迂回ルートを歩いていればーっ!」
赤髪の子が、金髪の子を睨みながら喚いた。なるほど、金髪の子はリリアというのか……。
「ミナだって賛同してたじゃない!?」
「うぅ……そうですけどぉ……」
リリアに言い返された赤髪の子――ミナは、しょんぼりと肩をすくめた。
「……まぁ、いいじゃないですか。こうして美味しい朝ご飯にありつけたのですから……。野宿明けの身に染みます」
「……セシルのその感性はどこからくるんだ……」
リリアが蒼髪の子をジト目で睨みつけた。なるほど……蒼髪の子はセシルというのか……。
「ま、他に泊まるとこがないなら今日は泊まってけよ。旅の疲れもあるだろ? 二階の右の部屋がちょうど空いてるからさ」
俺は事情を把握したうえで提案した。
「……ち、因みに、お宿代は……?」
リリアが上目遣いで尋ねてくる。
「要らねぇよ、別に。とりあえずもうすぐ風呂が沸くから、三人で入ってこい。その間に空き部屋をちゃちゃっと掃除しておくから」
俺はそう言いながら、キッチンから離れるために歩みを進めた。
後ろから「い、いいんですか!? そんなことまでしてもらって!?」というリリアの声が聞こえてきたが、適当に腕を振って返事の代わりにした。
***
三人が入浴している間に、俺は空き部屋の埃を払い、布団を三人分敷き詰めた。
まぁ、広い部屋ではないが、あの三人が一晩寝る分には構いやしないだろう。
そう思いながら一階に降りると、ちょうど湯上りの三人と出くわした。
「お風呂、ありがとうございました!! まさかあんな広いお風呂があるだなんて……カイルさん、実はお金持ちだったり!?」
リリアが現金な顔で俺に尋ねてくる。俺は思わず苦笑しながら答えた。
「いや、そんなんじゃないって……。田舎じゃこれが普通だよ。土地は余ってるんだからさ」
「久々に、まともな人間に戻った気分です…… 」
セシルが心地よさそうに呟いた。
「んじゃ、俺は畑仕事に戻るわ。お前らは適当に家で寛ぐか、村の中を見て回っててくれ。装備は緑色の屋根の家で手入れしてもらってるから、明日受け取ってくれよ」
俺はそう言いながら、ブーツに足を入れた。
「畑仕事、手伝いましょうか!?」
ミナがそう言ってくるが、顔に疲れが出ているのを見て俺は首を振る。
「んな気を遣わなくていい。今日はたまの休みだと思って、ゆっくりしていけ」
そう言って、俺は家を出た。
さて……とりあえず、畑を耕すかねぇ……。
***
俺はまだ柵で囲っただけの岩場に出ると、手に持ったクワで地面を掘り返していった。
サクッサクッと小気味いい音を立てながら、地面は掘り返されていく。
「……ふぅ……けっこう良い調子で進んでるな」
だが次の瞬間、ガツンッと大きな衝撃が手元に返ってくる。
どうやら土の中にある岩にぶつかったようだ。
まぁ、そんなにデカくないだろうし、このままクワで掘り返しますかね……。
「ふんっ!」
俺が力を入れると、そこそこ大きな岩が土の中から出てきた。
「はいっ!?」
素っ頓狂な声がした方向を見ると、リリアたちがそこに立っていた。
「こんなところまで来てどうしたぁ? そろそろ昼飯の時間か?」
「違うわいっ!」
どうやら俺の当て勘は外れてしまったようだ……。まぁ日もまだ上がりきっていないだろうし、時間的に見るとまだ十時半くらいといったところか。
「じゃあ見学か。ってか、さっきの声はなんだ?」
「いや、なんだって、こっちが聞きたいよ!! どうして人より大きな岩を一人で動かせるのよ!?」
「……人間やめてますね……」
「人型のモンスターですかね……」
セシルとミナからは散々な言われようである。
俺はどう返そうか少し悩んでから口を開いた。
「そりゃ農民だからなっ!」
別に村人で俺と同じことができる奴はわんさかいる。それこそさっき会ったザックだって同じことができる。
別に変なことは言っていないだろう。
「「「……農民怖っ……!」」」
やれやれ……これだから今時の都会っ子には困ったもんだ……。
「……ったく、これくらいできなきゃ農民なんか務まんねぇよ」
そう言いながら、俺は邪魔になった岩をゴロゴロと転がしていく。
「さも普通にそんなものを転がすなぁぁぁぁっ!」
リリアがまたも叫んでいる。見た目通り元気な子だ……元気過ぎてやかましいが。
「こんなのあったら、畑にならんだろ」
俺は適当に返しながら、用意してあった鉄製の大槌を拾い上げ、岩に向かって振り下ろした。
――ズガンッ!
鈍い音とともに、岩肌へ蜘蛛の巣みたいな亀裂が走る。
そこからさらに二度、三度と大槌を振り下ろし、俺は先程の岩を運びやすい大きさに割っていった。
「ちょっと! 今度は何してんの!?」
「山からこんなのが転がっていったら危ないから、適当な大きさに割ってんだよぉ」
農作業がよほど珍しいのか、さっきから色々と驚くリリアたちを横目に、俺は先程の岩を適当に八分割にした。
「大岩があっという間にお手頃サイズに……」
「……これが神から授かった力……」
リリアが天を仰ぎ、ミナに関しては随分と大袈裟なことを言っている。
そしたら、この村の全員が神様から寵愛されていることになるわ……。
「……ねぇ、カイル。この岩を八分割にしたのってなんか理由あるの?」
セシル……キミ、結構良い眼の付け所してんじゃないの。
「おっ……察しがいいな、セシルは。これらは家作りの石材とかに使うんだよ。あとは石垣とかバリケードとか」
教えたが、何故か俺の顔をじーっと見てくる。なんか変なこと言っただろうか……。石垣とかバリケードとかの単語も、別に村人には通じるからそのまんま使ってたんだけど……。
「……私のこと、呼び捨て?」
……!? ……はっ!! しまった!!
なんとなく呼び捨てにしてしまっていた……。
って、待てよ……俺のことも呼び捨てにしてたよな、この子……。
「……お気に召しませんでしたか? セシル……様?」
一応言い直してみる。だが、
「いや、呼び捨てでいいよ。大丈夫大丈夫。勇者リリアと同行してからは、私もなぜか『様』付けされるのが普通だったから、こうして対等に名前を呼んでくれる人に会ったのが珍しくって」
なるほど……勇者パーティーってのも苦労してんだな……。




