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モブ転生。農民に生まれ変わった俺は、なぜか勇者パーティーにちやほやされる  作者: ブヒ太郎


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第16話:ギルドと勇者とお説教

翌日、俺たちはベルクスのギルドにある支部長室へ顔を出していた。


「キミが勇者リリアかね」


壮年の白髪の男性が、リリアを値踏みするような鋭い眼光で見つめる。

また、その部屋の隅には、屈強な男が無言で立っていた。


……護衛だろうか……?


「はい。私が勇者リリアです」


リリアは臆することなく、堂々と答えた。


「そうか……では、掛けたまえ」


支部長は向かいのソファーを指差し、座るように促してきた。

俺たちが座るのを確認すると、支部長も向かいのソファーに腰かける。

そして、隣に控えていた秘書に目配せをすると、昨日言っていた封書を開けてみせた。


「勇者が立ち寄ってくれるとはね。助かった。二カ月ほど前から、このベルクス周辺にある洞窟の一つにロックベアが住み着いてしまってね。そのせいで、洞窟内がダンジョン化してしまったのさ」


テーブルに広げられたのは、どうやらその洞窟の場所を示す地図らしい。


「ロックベア……ランクAのモンスターじゃないですかっ……!」


リリアはロックベアという単語を聞いた瞬間、顔を引きつらせた。

どうやら強敵のようだ。


「でもよ、そのロックベアってのも所詮は熊だろ……? スキルが使えるんなら、そこまで大した相手でもないんじゃないか?」


確かに、前世なら熊に人間が勝てるわけがない。

ただし、それは武器なしの話だ。

ましてやこの世界にはスキルがある。なら、冒険者たちはそういう力を使って魔物を倒していくのが普通なんだろう。


「勇者リリア……彼は?」


支部長は俺を一瞬見ると、リリアに向き直り、疑うような目つきで問いただした。


「彼はカイルさん……うちの戦力不足を補うために急遽ご同行を願った、ある村の農民の方です……」


「ぶはっ……農民だと!?」


それまで部屋の隅で黙って聞いていた屈強な男が、思わず吹き出した。


「おいおい、勇者様よ。いくら人手不足だからって、農民を雇うことはねぇだろうよ。第一、農民に何ができるんだよ? せいぜい荷物持ちか……なんかあった時の囮にでも使おうって魂胆か?」


屈強な男は皮肉交じりに言った。


「そうですね……カイルさんにできることは――」


「ブラックボアを一撃で倒せる」


「ホーンディアの頭を一撃で角ごと砕けますね」


リリアがその問いに答えようとしたところで、セシルとミナが自慢げに割り込んだ。


「……ほんとにそれ、農民か?」


屈強な男は、驚愕と「冗談だろ」と言いたげな表情で、俺の顔をじっと見てきた。


「あと、家事全般と料理とお菓子作りもできるぞ」


俺は大事なことを付け加えておいた。


「……いや、それはどうでもいいわ……」


男は額を手で覆うと、溜息を一つ漏らした。


「リリアさん……彼女らが言ったことは事実ですかな?」


支部長は訝しげな表情で、じっとリリアを見つめた。


「はい、本当です。……あ、あとホーンラビットなら素手で倒していました」


「蹴りも入れたわ、蹴りも。俺を化け物みたいに言うな……」


「……事実じゃん」


「……やかましいわ」


セシルの合いの手を適当に受け流していると、支部長は俺の顔を実に面白そうに見て、にっこりと笑った。


「ふむ……B級以下を全て一撃ですか。素晴らしい。これなら、相手がロックベアでも制圧できる確率はグンと上がりますね」


「……ってか、その熊ってそんなにやばいものなんですか?」


俺がそう聞くと、支部長はゆっくりと頷いた。


「そうですね。では、今回の依頼の危険度について説明に入らせてもらいましょう」


そう言って、支部長は横に控えていた秘書を見やった。


「……はい。今回確認できたロックベアの体長は、約七メートルとのことです。また、ダンジョン化した洞窟内には多数のC級モンスターが入り込んでおり、ホーンラビット、ジャイアントバットなども確認されています。ベルクス付近に多くいるBランク冒険者パーティーや、単独のAランク冒険者では荷が重いと判断いたしました」


説明が終わると、支部長はニヤリと嫌な笑みを浮かべ、リリアを見つめた。


「そこで我らが勇者様の出番ということですな……」


その顔からは、リリアが断れないことを知った上で言っているのが見て取れた。

俺は拳をぐっと握り、こみ上げる怒りを抑えながら口を開いた。


「……支部長さん……貴方、恥ずかしくないんですか?」


「……っ!? カイルさん!?」


リリアはハッとした顔で俺を見た。

支部長は面白くなさそうに、俺へ視線を向ける。


「……何が恥ずかしい、とでも?」


「こんな年端もいかないような子供に、そんなデカい熊の討伐任務を半ば強制的に押し付けてることにですよ。俺の村なら、そういう類のデカい獣が出た時は男連中をかき集めて、ぶっ倒すのが普通なんですよ。女子供にやらせる仕事じゃない」


俺が思っていたことを口にすると、支部長はバツが悪そうに答えた。


「……確かに、彼女らが普通の冒険者ならば、我々も依頼などしません。ですが、彼女らは勇者です。勇者の活動資金維持のために、我々も莫大な税を毎年納めています。税を納めている以上、それがしきたりです……これで、ご理解いただけましたかな?」


「……ま、どこぞの田舎の農民風情がわかる内容でもないのかね」


屈強な男は、つまらなそうに俺を見ながらそう吐き捨てた。

支部長は苦虫を嚙み潰したような顔で、俺を睨んでいる。


「……それがルールってことはわかりました。危険な任務を勇者様に頼むのが通例なのも、よくわかりました。俺は田舎生まれなので、こういったことに疎いのはどうかご容赦ください」


俺の言葉に、屈強な男はヒュゥと口笛を吹いた。


「……んだよ。もっと場を荒らすかとワクワクしてたんだが、案外物分かりはいいじゃねぇか」


「……いえいえ、わかっていただければいいんですよ」


支部長も、何やら留飲を下ろしたような顔で静かに言った。

次の俺の言葉を聞くまでは。


「でも、さっきの支部長さんの嫌な笑い方は気に入りませんね。断れないとわかってる相手に、ああいう笑い方をするのは趣味が悪い。仮にもここの長ならば、命をかけて仕事をする相手には敬意を払っていただきたい。それが大人ってやつだ」


「カイルさん、言い過ぎですよ!!」


リリアは慌てて割って入った。

だが、支部長は両手を組み、何やら深く考え込んだあと、一言だけ呟いた。


「……そうですね……申し訳ありません……勇者様も、勇者である前に一人の人です……大変失礼いたしました……」


「い、いえ……大丈夫です……慣れてますから……」


リリアは愛想笑いを浮かべながら、ヒラヒラと手を振って答えた。

だが、支部長は難しそうな顔をしたままだった。

そこへ、秘書が話を先に進めるように口を挟んだ。


「……カイルさんには、我々ギルドが人でなしの集団に見えたことでしょうが、一応、我々にも準備がございます。今回の制圧依頼には、そこにいるAAランクの戦士、ダグラスさんを斡旋いたします」


ダグラスと呼ばれた屈強な戦士は、ニヤリと笑った。


「……ま、そんなわけだ。頼むぜ、勇者様御一行と……」


ダグラスはそう言いかけると、じっと俺のほうを見た。

……なんだよ。俺の名前、覚えてねぇのか。


「カイルだ。よろしくな、ダグラスさんよ」


そう答えると、ダグラスは首を横に振った。


「名前は覚えてるよ。ただ、お前さん、勇者様方と歳も大差ねぇのに、勇者様御一行に年端もいかないだの、支部長さんに対して命を張る者への礼節が足りてねぇぞ、みたいなことを言い出すもんだからなぁ……てっきり、勇者様の年の離れた兄貴か何かかと思ったぜ……でも、農民っていうし、勇者様と同じ十代の兄ちゃんだしよ……」


ダグラスはそう言いながら、不思議そうに俺を見つめた。


……やってしまった……。

どうにも、この手の子供を道具として見るような輩には、説教したくなるのを抑えられなかった。

俺がどう答えようか悩んでいると、


「うちでは、カイルさんの事をお父さんと呼んでますっ!」


「呼ばせてない呼ばせてない……」


ミナがどんと胸を張って自慢げに答え、俺は横で手を振りながら否定した。

その様子を見て、ダグラスは豪快に笑った。


「……だっはっは、お前ら面白いなっ……まぁ、今回の任務、よろしく頼むぜ」


そう言い、ダグラスは片手を差し出してきた。


「あぁ……こちらこそよろしく頼むよ」


俺はその手を迷わず握り返すのだった。

握手を終えたところで、支部長が小さく咳払いをした。


「……先ほどの件ですが」


その声に、俺たちは支部長のほうへ視線を向ける。

支部長は両手を組んだまま、どこか気まずそうに目を伏せていた。


「カイルさん。貴方の言葉は、正直……耳が痛かった」


「……」


「我々ギルドにとって、勇者様は王都から認められた特別な存在です。危険な任務を任せるのが当然。そういうものだと、長年そう考えてきました」


支部長は一度言葉を切り、リリアたちへ視線を向けた。


「ですが、それに慣れすぎていたのでしょうな。勇者様方が、まだ若い少女であることを……どこかで、見ないようにしていた」


「支部長さん……」


リリアが困ったように声を漏らす。

支部長は苦笑した。


「情けない話です。わかっていなかったわけではないのです。ですが、正面から考えると、こちらも仕事ができなくなる。だから、制度とはそういうものだと、自分に言い聞かせていた」


その顔には、さっきまでの嫌な笑みはなかった。

ただ、自分の中にあったものを見抜かれてしまった人間の、苦い表情だけが浮かんでいた。


「……まさか、それを農民の青年に指摘されるとは思いませんでしたが」


「俺も、少し言い過ぎました」


「いえ。言い過ぎではありませんよ」


支部長は静かに首を横に振った。


「命を懸けて任務に向かう方々へ、敬意を払う。当たり前のことです。それを忘れていたのなら、長として恥じるべきでしょう」


そう言って、支部長はリリアたちへ向き直った。


「勇者リリア様。セシル様。ミナ様。改めて、今回の依頼をお願いいたします。そして、どうか無事に戻ってきてください」


リリアは少し驚いたように目を丸くしてから、静かに頷いた。


「……はい。必ず戻ります」


その返事を聞いた支部長は、ほんの少しだけ表情を緩めた。

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