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モブ転生。農民に生まれ変わった俺は、なぜか勇者パーティーにちやほやされる  作者: ブヒ太郎


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第15話:勇者と幼馴染と思い出の揚げパン

「すいません、そのミートサンド四つください」


防具屋を出て、俺たちは中央通りから少し先、屋台が並ぶ一帯に移動していた。


「四個ね。大銅貨二枚だよ」


俺は愛想の良い店主に代金を支払い、代わりに商品を受け取った。


「しかし、兄ちゃん。そんなに食って腹大丈夫か?」


「いやいや、一人で食うんじゃないよ。あそこに座ってる女子たちの分も一緒に買ってるだけだよ」


そう言うと、店主は何やらニンマリと笑った。


「両手に花どころか、抱えきれないだけの女の子を侍らせてるとは羨ましいねぇ……」


「……侍らせてたら、買い出しに俺が動かんだろ……」


店主は俺の返答にバツが悪そうに、どこか遠くを見る。


「……そりゃあ、そうか。悪いな、兄ちゃん。変な勘違いしたわ」


「そうだなぁ、変な勘違いされたわ」


なんとなくそう返すと、店主は革袋から銅貨三枚を取り出し、俺の指に挟んだ。


「……値引きってことで。今後も御贔屓にっ!」


……まったく、愛想のいい店主だわ。


「わかったわかった。この街にまだいるなら、また来るよ」


そう言って、俺はミートサンド四つを持って、ベンチに座るリリアたちのもとに戻った。


「あら、カイル。買い出しご苦労様。くるしゅうない。そこに座るがいい」


セシルは時代がかった口調で、俺からミートサンド三つを受け取る。

どこで覚えたセリフだ、それは……。


「へいへい。まぁ、それでも食べて元気出せよ、勇者様」


俺はベンチに元気のなさそうな様子で座るリリアに声をかけた。


「あ……ありがとうございます」


リリアの表情は浮かなかった。

どうやら王都からの要請任務とやらが、随分と気がかりなようで、普段の明るさが微塵も感じられない。


「……んーっ! 美味しいっ! ほら、リリアも冷めないうちに食べちゃいなよ」


「そうですよ。ミートサンドは逃げなくても、冷めはしますからね」


セシルはリリアを励ますように声を弾ませ、ミナはいつものように淡々と告げた。

……普段は軽口ばかりのセシルが、まるで違う口調なのは、リリアがこうして落ち込んでいるからなんだろう……。


俺はそう思いながら、向かい側のベンチに腰かけ、ミートサンドを一口齧った。


「……カイルさん」


リリアはミートサンドをじっと見ながら、俺の名前を呼んだ。


「なんだ?」


「……いえ、なんでもありません」


リリアは何か言いたげな顔をしながら、それを言葉にせず、無言でミートサンドを齧った。


「……俺は約束は守る主義だ」


「……え?」


その言葉にリリアが反応し、ようやく俺の顔を見た。


「どうせ、危険な任務に巻き込んでしまってごめんなさい、って話だろ? いいんだよ。気にすんな。ちゃんとした戦士が見つかるまでは付き合うって俺が言ったんだ。それを曲げる気はねぇよ」


俺はそう言いながら、淡々とミートサンドを頬張った。


「……でも、本当に危険な任務になる可能性が……ホーンディア三体討伐よりも遥かに危険な可能性があります……」


リリアはまたも顔を伏せながら語った。


「「……」」


セシルもミナも黙り込んでいるのを見る限り、その王都からの要請任務は命の危険性が高い任務なんだろう……。


「……だから、それが何だってんだ?」


俺は静かにそう口にした。

リリアが、驚いたように顔を上げる。


「危険な任務かもしれない。ホーンディア三体より、ずっと危ないかもしれない。ああ、わかったよ。そりゃ怖い話だ」


俺は手にしたミートサンドを軽く掲げてから、三人を見回した。


「でもな。女の子にそんな危ない目に遭わせておいて、俺だけ安全なところでぬくぬくしてる気はねぇぞ」


「カイルさん……」


「勇者だから危ない目に遭うのも仕事? 王都の命令だから仕方ない? ふざけんな」


自分でも、少し声が低くなったのがわかった。


「そんなことを平気で言うやつがいるなら、俺がそいつら全員ぶん殴ってやるよ」


「えっ、ぜ、全員ですか……!?」


リリアが慌てたように目を丸くする。


「全員だ。女の子を危ない場所に送り出して、自分たちは安全な場所で命令だけ出してるような連中だろ? 一発くらい殴られても罰は当たらん」


「カイル……それ、王都相手に言ってるって自覚ある?」


セシルが少し呆れたように笑う。


「知らん。俺は農民だからな。王都の偉い人間の顔なんか、一人も知らん」


「それを免罪符にするのは、なかなか無茶ですね」


ミナが小さく息を吐いた。

それでも、三人の表情から、少しだけ強張りが抜けた気がした。


「だから、気にすんな。今回ばかりは俺が俺のしたいようにさせてもらう。必要なら、お前ら三人まとめて担いで逃げる」


俺はミートサンドを一口齧ってから、リリアに向かって笑ってみせた。


「ちゃんとした戦士が見つかるまでは付き合うって、俺が言ったんだ。約束くらい守らせろ」


「カイルさん……」


リリアはそう言うと、そっと目元を拭ってみせた。


「……やっぱカイルならそう言うと思ったよ」


セシルはそう言うと、「フフッ」と笑ってみせた。


「……おかあ…いえ、お父さん」


「だから、やめろ。それは…」


ミナが思わず口にした単語に、俺は頭を抱えた。

それでも、三人は少し元気を取り戻したようだった。


ミートサンドを平らげたあとは、また仲良く三人で前を向いて歩きだす。

それを見て、俺は黙ってあとをついていくことにした。


***


ギルドが用意した宿屋にて、俺は厨房を借り、軽い夕飯を作ることになっていた。


「大銅貨二枚で分けてもらえた食材は、こんなもんか……」


昼のミートサンドを食べたのが、正直、十五時を回ってからだったせいだろう。

リリアたちは飯屋に行くほど腹が減っていないらしく、結局、飯屋には行かず、なぜか俺が夕飯を作る羽目になっていた。


分けてもらった食材は、少し古びたコッペパンと、干し肉と野菜。

調味料として、油と糖蜜を少し使っていいとのことだった。


「……ってなると、まぁアレでいっか……」


俺はまず干し肉を薄く刻み、水を張った鍋に放り込んだ。

そのままだと塩気が強すぎるが、逆に言えば、いい出汁になる。

次に野菜を適当な大きさに切り、鍋へ入れて火にかける。

しばらくすると、干し肉の匂いと野菜の香りが、厨房にふわりと広がり始めた。


あとは、コッペパンを厚めに切り、浅い鉄鍋に油を引く。

油が温まったところでパンを並べると、じゅわっ、と軽い音が鳴った。

表面がきつね色になったところで取り上げ、余分な油を切り、最後に糖蜜を細く垂らす。


「ま、こんなもんだろ」


出来上がった揚げパンと、干し肉と野菜のスープを盆に乗せ、俺は広間の端で待つ三人のもとへ運んでいった。


「……懐かしい」


テーブルに料理を並べた瞬間、セシルがぽつりと言葉を漏らした。


「あらま。今回は驚かせることができなかったか。残念」


俺が軽くそう返すと、リリアも揚げパンを見つめたまま、小さく頷いた。


「……よく先生が作ってくれたものに似ています」


「……先生?」


「うん……孤児院の先生……」


「……懐かしいなぁ。元気にしてるかな、先生……」


セシルとリリアは、どこか遠い目をしながら、揚げパンを見つめていた。


「ま、まぁ、冷めないうちに食べちまおうか……」


俺は少しだけ言葉に詰まりながら、三人と一緒に食事を始めた。


「……教会でも、よくこの手の料理は出ましたね。本当に懐かしいです」


ミナも揚げパンとスープを口に運びながら、静かに呟いた。

……もしかして、揚げパンと干し肉と野菜スープって、この子らにとっては思い出の品だったりしたのか……?


「あ、味付けはどうだ……? 薄かったりしないか? なんなら、厨房から調味料を借りてこようか……?」


地雷を踏み抜いてしまったのではないかと気になり、俺は恐る恐る尋ねる。

だが、セシルは小さく首を横に振った。


「ううん。孤児院で出るご飯はもっと味が薄くて、甘みもほとんどなかったから。カイルが作ってくれたのは、ちゃんと甘いし、スープも美味しいよ」


「……そうですね。昔食べていたものとは比べ物にならないくらい、美味しいです」


リリアも、少しだけ表情を緩めてそう言った。

それが料理を褒めているのか、昔を思い出したから出た言葉なのか、俺には判別がつかなかった。

なんと返せばいいのかわからず、俺はミナへ視線を向ける。


「……ミナはどうだ……?」


「……教会で出てくる施しのご飯なんて、孤児院と大差ありませんよ。味がすれば、まだいいほうです」


ミナはそう言ってから、揚げパンをもう一口齧った。


「でも、そうですね……久しぶりに、子供の頃を思い出せました。ありがとうございます、カイルさん」


その返答に「どういたしまして」と返していいのかどうか、俺にはわからなかった。

だから、何も言わずにスープを口へ運ぶ。

そんな俺をよそに、三人はそれぞれ何かを思い出すように、懐かしそうに食事を続けていた。


***


夜も二十三時を過ぎた頃。

俺は湯を浴びてベッドに潜り込んでいたが、どうにも寝つけず、裏庭のベンチに座って星を眺めていた。


「………」


ぼーっと星を眺めていると、


――ジャリッ


と、誰かの足音が聞こえた。

ふいに振り返ると、そこにいたのは――。


「……寝れないの?」


簡素な寝間着に着替えていたセシルだった。


「あんま今日運動してないからかも?」


「……よく言う。昼前にホーンディアと戦ったの忘れたの?」


俺の適当な返事に、セシルは呆れたように返した。


「ほらっ! あんなの畑仕事に比べたら全然軽い運動としかっ!」


「命懸けの戦いと、畑仕事を一緒にするな」


セシルはそう言うと、俺の頭をコツンと小突いた。


「……で、セシルこそどうした? 寝れないのか?」


「……まぁね」


セシルはそのまま、俺の横に腰かけた。


「やっぱ王都からの指名依頼が気になって寝れないのか?」


「それもある。でも、それ以上に気になってるのはリリアかな……」


セシルは自身の指を組んでは開きを繰り返しながら、自分の手をぼーっと眺めていた。


「セシルは……リリアとは付き合いは長いのか?」


「……長いよ。同じ孤児院で育ったからね。もう十年以上の付き合いになるのかな」


セシルは指先に視線を落としたまま、俺の問いに答えた。


「そっか……リリアは昔から、あんな風に責任感が強い子だったのかな? だから、勇者に選ばれたのか?」


「……どうかな……孤児院を出たら、どこかでのんびり暮らしたいって言ってたような気がするけど」


セシルは遠い昔の記憶を探るような表情で続けた。


「……そっか。神様ってやつは案外酷なことをするんだな……そんな子を勇者に選ぶだなんて……」


俺がそう呟くと、セシルは少しだけ黙った。

夜風が吹き、裏庭の草が小さく揺れる。


「……ねぇ、カイル」


「ん?」


「ごめんね」


唐突な謝罪に、俺はセシルの顔を見た。

いつものような軽い笑みは、そこにはなかった。


「何がだよ」


「無理やり連れてきたこと。私たち、カイルが断れない空気を作っちゃったでしょ」


「……」


「最初はさ、頼れる前衛が欲しかった。リリアを守れる人が欲しかった。だから、カイルが来てくれるって言った時、正直ほっとしたんだ」


セシルは自分の指先を見つめたまま、ぽつりぽつりと言葉を続ける。


「でも、王都からの任務が来て……ああ、これ、普通に命がけなんだって思ったら、急に怖くなった」


「セシル……」


「カイルは私たちの仲間でも、勇者の正式な仲間でもない。ただの農民だって、自分でも言ってるのにさ」


セシルは小さく笑った。

けれど、その笑い方は、いつものような軽口とは違っていた。


「そんな人を、私たちは危ない場所に連れて行こうとしてる。だから……ごめん」


俺はしばらく、何も言えなかった。

セシルがこんな顔をするのは、少し意外だった。

いつもはリリアをからかって、ミナに刺されて、俺に変な軽口を投げてくる。そんな子だと思っていた。


でも、当たり前だ。

この子だって、怖いものは怖い。

誰かを巻き込むことに、何も感じないわけがない。


「……別に、お前らに無理やり連れてこられた覚えはないぞ」


「でも」


「俺が決めたんだ」


俺はセシルの言葉を遮るように、静かにそう返した。


「ちゃんとした戦士が見つかるまでは付き合うって、俺が言った。危ないかもしれないってのも、今さらわかった話じゃない」


「……カイル」


「それに、女の子三人が危ない場所に行くってわかってて、俺だけ安全な宿でぬくぬく寝てるほうが、よっぽど気分が悪い」


セシルは目を丸くしたあと、呆れたように息を吐いた。


「……ほんと、変な農民」


「そうか?」


「そうだよ」


「そっか」


そう返すと、セシルはようやく少しだけ笑った。

いつもの軽い笑みにはまだ遠かったが、それでも、さっきよりはずっといい顔だった。


「じゃあ、カイル」


「なんだ?」


「明日からも、よろしくね」


「おう。任せとけ」


俺は軽く肩をすくめてみせた。


「危なくなったら、お前ら三人まとめて担いで逃げてやるよ」


「……それ、まだ言うんだ」


「言うぞ。俺は約束は守る男だからな」


セシルは小さく笑い、夜空を見上げた。


「そっか。なら、少しだけ安心しておく」


その横顔は、どこか疲れていて、それでも少しだけ肩の力が抜けたように見えた。




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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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