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モブ転生 戦闘適性なしの農民ですが、なぜか勇者パーティーの前衛をやっています  作者: ブヒ太郎
ルシア&戦士ダグラス編

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第102話:勇者を支える者

 ルシアが帰ったあと、俺は風呂に入ってから寝る支度をしていた。

 だが、どうにも落ち着かない。


 四魔将のこと、魔王のこと、そして勇者隊のこと。

 さっき聞いた話が頭から離れず、寝床に入っても眠れる気がしなかった。


「……落ち着かねぇな。茶でも飲むか」


 俺は寝床から離れ、台所へ向かった。

 かまどに火を入れ、水を汲んだやかんを乗せる。

 しばらくすると、静かな部屋に湯の沸く音が聞こえ始めた。


 その時、扉の開く音がした。

 音のしたほうへ目を向けると、そこにはラフな格好をしたダグラスが立っていた。


「よぉ。俺にも茶を一杯くれねぇか?」


「あぁ、いいよ。けど、今日はカルメ焼きはないからな」


「ははっ、そいつは残念だ」


 俺は茶を二人分用意すると、ダグラスと向かい合って腰を下ろした。


「しかし……なんだか大変なことを聞いちまったな」


「ちげぇねぇ……」


 ダグラスは茶を一口飲むと、やれやれと首を振った。


「ルシア様はほんと、たまにとんでもねぇことをしでかすからな……」


「……しかし、五年も一緒にいるのか」


「ん? それがどうした?」


「いや、五年も一緒にいると、やっぱ色々と情が移ったりするもんなのか?」


「……情ねぇ」


 ダグラスは少し考え、茶器へ目を落とした。


「どうだかな。俺も一応プロだからな。あくまでも仕事として、ルシア様のお供をしてるつもりだぜ」


「……そうなのか?」


「あぁ。まさか、あんな手で今後の行動まで縛ってくるとは思ってなかったけどな」


 ダグラスは苦笑いを浮かべた。


「はは……大変だな」


「まぁ、俺のことはいいとして……お前はどうなんだよ?」


「俺かぁ……」


 そう聞かれて、少し考えた。


「俺も最初はさ、あいつらを守ってくれる戦士が見つかるまでって思って、ついてきただけなんだけどな……」


 リリアたちと旅を始めた頃を思い出す。


「……ダメだな。すっかり情が移っちまってるよ」


「……なるほどねぇ」


 ダグラスは何か納得したように頷いた。


「だからかねぇ。ルシア様が、あんなにあっさり大事なことを教えたのは」


「……どういう意味だよ?」


「あの人、ああ見えて人の機微を読むのが得意なんだよ」


「……そうなのか?」


「あぁ。お前がリリアたちをどう思ってるかなんざ、とっくに見抜いてたんだろうな」


 ダグラスは茶を一口飲んでから続けた。


「そのうえで、何を話せば農民カイル君が勇者リリアから離れられなくなるのか……そこまで考えてたんじゃねぇか?」


「…………」


「まぁ、俺まで一緒に縛ってくるとは思わなかったがな」


 ダグラスは、呆れたように笑った。


「ルシア様のお気持ちも、分からんではないが」


「……なんだよ、その気持ちって」


「勇者隊の死傷者や、仲間を失って戦えなくなる奴を、少しでも減らしてぇんだろ」


 ダグラスの顔から、少し笑みが消えた。


「ルシア様は異常なまでにお強いが、他の勇者隊はそうでもねぇ。毎日死に物狂いで戦ってる連中だっているんだ」


「……あぁ」


「そんな連中に、頼ってもいい相手が一人でもいるなら、そのほうがいいだろ?」


「…………」


 そう言われて、俺はエリオのことを思い出していた。

 初めて会った時のあいつは、本当にボロボロだった。

 今にもどこかで倒れて、そのまま死んでしまいそうな少年だった。


 小生意気な口調ではあったが、そんなことはどうでもよかった。

 とにかく、こいつは守ってやらなきゃいけない。

 そう思わせるほど、危なっかしい勇者だった。


 ……今頃、元気にしてるだろうか。


「……旅先で出会った誰かを思い出したみてぇだな」


「あ、あぁ……」


 ダグラスは小さく笑った。


「まぁ、そういうことだ。あの人なりに、勇者隊の死傷者を減らそうとしてんだろうよ」


「……そうだな」


 俺は茶を一口飲んだ。


「俺も、リリアたちにはこれからも生きていてほしいよ」


 ダグラスはゆっくりと頷いた。


「魔王はともかく、四魔将と呼ばれる連中は実在する。それに、モンスターの脅威だって、こうして村のすぐ近くまで迫ってきてる」


「…………」


「冒険者だけじゃ手に負えねぇモンスターもいる。そいつらを勇者が討伐してくれなきゃ、街や村がいくつ滅ぼされるか分かったもんじゃねぇ」


 ダグラスは茶器を置いた。


「結局、勇者制度がどんなに歪んでいようが……今の王国じゃ、勇者がいなくなって困るのは、そこに暮らしてる人間なんだろうな」


「……どうにかしてやりたいけど、普通の人たちは冒険者や勇者に頼るしかないんだな」


「ま、そういうこった」


 ダグラスは残っていた茶を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。


「さて、そろそろ俺は寝るとするか。茶、ごちそうさん」


「あぁ、おやすみ」


「おう。お前も、あんまり夜更かしすんなよ」


 そう言って、ダグラスは自分の部屋へ戻っていった。

 俺も飲み終えた茶器を手に取り、台所へ向かった。


 ……しかし、考えれば考えるほど分からなくなるな。

 仮に四魔将を倒して、王国の領土から追い出したとしても、本当にリリアたちは勇者の役目から解放されるんだろうか。


 魔王が存在しないのなら、そもそも何をもって勇者の任務が終わったことになるんだ?

 それに、四魔将はどうして最果ての北に砦なんか築いたんだろう。

 その先には、別の国でもあるんだろうか。


 ……分からないことだらけだ。

 俺は洗った茶器を棚へ戻した。


 まぁ、今考えたところで答えが出るわけでもないか。

 ともかく、リリアたちが安心して暮らせる世界が、その先にあればいいんだけどな……。


 そんなことを考えながら、俺は台所を片付け、寝る支度を済ませた。


 翌日。

 俺たちは朝早くルシアたちと合流すると、そのまま村の東にある森へ向かっていた。


 本当なら、出発前に何か腹へ入れておきたかったのだが。


『……朝食? そんな悠長なことを言っている場合ではありません。こちらを歩きながら食べてください』


 そう言ってルシアから渡されたのは、手のひらほどの大きさをした、茶色いブロック状の何かだった。

 見た目からして固そうだ。


 ひとまず一口かじってみる。


「…………」


 固い。

 そして、不味いというより……。


「……味がしねぇ」


 なんだこれ。

 少し香ばしいような気もするが、ほとんど何の味もしない。

 水分まで全部持っていかれそうなほどパサパサしている。


「……カイル」


 隣を歩いていたセシルが、ブロックを見つめたまま声をかけてきた。


「なんだよ」


「これが朝ご飯?」


「……らしいな」


「昨日の夕飯、もう少し残しておけばよかったです……」


 リリアも、小さくかじったところを何度も噛んでいる。


「残したところで、食う暇がねぇだろ」


「それは、そうですけど……」


「お水も飲んでくださいね。喉に詰まってしまいますから」


 ミナが水筒を手に言う。

 そう言う本人も、なかなか次の一口に進めていなかった。


 横を見ると、ダグラスたちも同じものを食べている。

 だが、誰も文句を言わない。

 というより、何かを諦めきったような顔で黙々と咀嚼していた。


「……いつもこれなのか?」


「急ぐ時はな」


 ダグラスが短く答える。


「少しずつ、水と一緒に食べると楽ですよ」


 エステルが、小さく割った欠片を見せてくれた。


「……慣れるもんなのか?」


「食べ方には、慣れます」


 味には慣れねぇってことか。


 肝心のルシアはというと、そんな俺たちとはまるで違った。

 ブロックを指で適当な大きさに割ると、ひとつまみ口へ放り込む。

 ガリッ、ガリッと数回噛み砕き、すぐさま水筒を傾ける。

 そして、水と一緒に一気に喉へ流し込んだ。


 味わう気がまるでない。

 食事というより、腹に必要なものを詰め込んでいるだけに見える。


「ルシア様。もう少しゆっくり召し上がっても……」


 エステルが声をかけたが、ルシアは残りを口へ運んでしまった。

 水で飲み下してから、こちらへ微笑む。


「お気遣いありがとうございます。ですが、慣れていますので」


「……はい」


 慣れてりゃいいのか、あれ。


「……もう食べ終わってる」


 セシルが、自分の手に残ったブロックとルシアを見比べた。

 俺も思わず同じことをしていた。


 普段はあんなに上品そうなのに。

 見かけによらず、ずいぶんワイルドだな……この人。

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