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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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第五十六話「逃げながら、全部が繋がった」

五十六話目です。


屋根から逃げた凪が、都の外に向かいます。走りながら、考えます。バラバラだった点が、一本の線になる瞬間があります。


今回は、アクションと思考が交互に来る構成で書きます。


では、どうぞ。

屋根から屋根へ、走った。


アルドの都の屋根は、石で出来ていた。


固かった。


滑りやすかった。


でも、走れた。


シロが、横を並走した。


四本足の方が、安定していた。


「シロ、楽しそうですね」


シロが耳を動かした。


楽しくはない、という顔だった。


でも、尻尾が少し振れていた。


「正直ですね」


下の路地に、人の気配があった。


追っている人間だった。


「気づいていますか」


シロが、前を向いた。


気にするな、という感じだった。


「高さがあれば、見えないですね」


走り続けた。


書類を、胸に抱えていた。


エイラが渡してくれた、農務局の正式文書だった。


エン山周辺の水脈調査の記録だった。


走りながら、考えた。



この三日間で、分かったことを整理した。


政変の目的は、エン山採掘だった。


エン山を掘れば、アルドの農地の水脈が変わる。


セルドの川にも、影響が出る。


鉱山局は、そのことを知っていて、確認できる人間と記録を排除した。


リドルを落とした。ベルクを封じた。エイラを制限した。カナを捕まえた。


全部が、一本の線でつながっていた。


でも、失敗した部分がある。


カナが逃げた。記録が残った。エイラが証拠を渡した。ダロが内部から反発した。ベルクが文書を出した。


こちらも、一本の線でつながっていた。


「全部がつながっている」と走りながら言った。


シロが耳を動かした。


「今回は、悪意のつながりと、善意のつながりが、ぶつかっています」


シロが尻尾を振った。


「どちらが強いか、まだ分からないですが」


また振った。


「でも、こちらの方が、人数が多いです」


シロが、少し速くなった。


「そうですね、急ぎましょう」



都の外縁部まで来た。


屋根から、路地に降りた。


シロが先に降りた。


私が降りた。


着地したとき、足首が少し痛かった。


四階から降りた疲れが、出てきていた。


「体に、限界が出てきましたね」


シロが、私の足を見た。


「大丈夫です。走れます」


シロが、疑わしそうな顔をした。


「本当に大丈夫です」


シロが、また前を向いた。


信用していない、という後ろ姿だった。


都の壁が、見えてきた。


門があった。


朝の門は、開いていた。


人が出入りしていた。


「正面から出られますか」


シロが、門の方向を見た。


それから、別の方向を向いた。


「別のルートがありますか」


シロが歩き始めた。


ついていった。


壁に沿って、西に向かった。


小さな扉があった。


荷物の搬入用らしい扉だった。


「ここから出られますか」


シロが、扉に鼻をつけた。


向こう側を確認している。


それから、前足で扉を触れた。


「押せば開きますか」


力を使った。


鍵の機構を、内側から動かした。


扉が開いた。


向こうは、都の外だった。


草原が広がっていた。


「出られました」



都の外に出て、走り続けた。


草原を、南に向かった。


森の集落への方向だった。


一時間ほど走ったとき、後ろから声がかかった。


止まった。


振り返った。


ベルクだった。


馬に乗っていた。


「待て」とベルクは言った。


「ベルクさん、なぜここに」


「追った」とベルクは言った。息が上がっていた。「お前が都を出たと、センから連絡が来た。追いかけた」


「監視はどうしたんですか」


「引き離した。方法は聞くな」


馬から降りた。


「エイラが、捕まった」


「知っています。私が逃げるとき、拘束されていました」


「ダロも、捕まった」


「それも、知っています。ダロさんが残りました」


「二人とも、覚悟の上で捕まった」


「そうです」


ベルクが、書類を見た。


「それを、持っているのか」


「エイラさんが、渡してくれました」


「良かった。あの書類は、重要だ」


「エン山の水脈調査記録ですね」


「それだけではない」とベルクは言った。


「他にも、何かありますか」


ベルクが、書類を指さした。


「一番下を見ろ」


書類の一番下の紙を見た。


「これは」


「エン山採掘の申請書だ。正式な申請書に、農務局の確認欄がある。エイラは、その欄に判を押していない。確認されていない採掘は、不認可だということだ」


「採掘が、法的に認められていない」


「そうだ。鉱山局が強引に進めようとしていたが、農務局の確認がなければ、正式な採掘は始められない。エイラがそれを、この書類に残していた」


「だから、渡してくれたんですね」


「エイラは、最初から分かっていた。この書類があれば、採掘を止める法的根拠になる。だから、私に渡せなかった。ターゲットにされている人間が持っていれば、奪われる。お前に渡した」


「私が持てば、奪われにくい」


「そうだ。転生者が、農務局の書類を持っている。奪えば、国際問題になりかねない」


「国際問題、というのは」


「セルドとの関係だ。お前は、セルドの川問題に関わった人間だ。セルドが、お前の身の安全について口を出す理由がある」


「だから、私が持つことで、書類が守られる」


「そういうことだ」


「エイラさんは、全部計算していたんですね」


「計算していた。あいつは、頭が良い。感情で動くように見えて、実際は冷静に計算している」


「尊敬します」


「尊敬していい。それだけの人間だ」



ベルクが、懐から紙を出した。


「これを、受け取れ」


「なんですか」


「セルドへの公式文書だ。昨夜、私が書いたものだ。鉱山局に回収される前に、出してきた」


「届けられますか」


「お前が届けろ。セルドへの道を、急いで行け」


「ベルクさんは、どうするんですか」


「都に戻る」


「捕まりますよ」


「捕まる前に、やることがある」


「何をするんですか」


「リドルに、会いに行く」


「失脚したリドルに」


「リドルは、今、都の外れの屋敷に軟禁されている。あの人間は、全部を知っている。証言してもらえれば、状況が変わる」


「動いてくれますか、リドルが」


「分からない。ただ、試す価値はある。リドルは、悪い人間ではない。今回、利用された面もある」


「ベルクさんが、一人でリドルを動かそうとするんですか」


「一人しかいないからな」


「危ないです」


「知っている」とベルクは言った。あっさりと言った。


「止めても、行きますか」


「行く」


「分かりました。でも、一つだけ聞いていいですか」


「なんだ」


「カナさんが、帰ってきたとき、ちゃんといてください。昨夜も言いましたが、もう一度言います」


ベルクが、少し止まった。


「しつこいな」


「大事なことなので」


「いる」とベルクは言った。また、短く言った。


「約束ですね」


「約束だ」


ベルクが、馬に乗った。


「セルドに急げ。手紙が届くより、お前が直接行った方が早い」


「直接、ガレス王に会いに行きます」


「行け。今のお前なら、動かせる」


「動かします」


「言い切ったな」


「言い切ります」


ベルクが、馬を向けた。


「帰ってこい。セルドから」


「帰ります」


馬が、都の方向に走り始めた。


ベルクの背中が、遠くなった。


「ベルクさん、気をつけてください」と、届かない声で言った。


シロが、横にいた。


「セルドに行きます」


シロが尻尾を振った。


「速く行かないといけないですね。馬がほしいですが」


シロが、私を見た。


それから、自分の背中を見た。


「乗れますか、私を」


シロが、腰を低くした。


乗れ、という意味だった。


「本当に大丈夫ですか。重いですよ」


シロが、また腰を低くした。


早くしろ、という意味だった。


「ありがとうございます」


シロの背中に乗った。


書類を、しっかり抱えた。


「行けますか」


シロが立ち上がった。


走り始めた。


思ったより、速かった。


馬に近い速さだった。


「速いですね」


シロが、さらに速くなった。


もっと速い、という顔だった気がした。


草原が、後ろに流れた。


都が、遠くなった。


「セルドまで、どのくらいかかりますか」


シロが耳を動かした。


「馬より速ければ、三日ですね」


シロが尻尾を振った。


三日で行く、という意思表示だった。


「頼みます」


風が、正面から来た。


春の風だった。


書類を、しっかり抱えた。


エイラの書類。ベルクの文書。


この二つが、エン山採掘を止める鍵だった。


「全部が、つながっています」と走りながら言った。


森の集落から始まって、山に行って、都に行って、セルドに行って、竜に会って、水路を直して、マリアに会って、また都に来て、今セルドに向かっている。


全部が、つながっていた。


一本の線が、どこまでも続いていた。


「面白いですね、この世界は」


シロが、また速くなった。


同意する、という感じの速さだった。

五十六話目、書きました。


逃げながら考える、というシーンを書きたかった話でした。アクションの中に、思考が挟まる構成です。走っているのに、バラバラだった点が線になっていく。動きながら整理するのが、凪のスタイルです。


エイラが渡した書類の中に、採掘不認可の証拠が含まれていた、という展開。エイラは最初から計算していた。感情で動くように見えて、実際は冷静。このキャラクターの二面性が、ここで出ました。


ベルクが「リドルに会いに行く」という決断。失脚した人間を動かす、という逆転の発想。ベルクが一人で危険な方向に向かう。今まで記録を取り続けてきたベルクが、自分自身が動く話になってきました。


シロに乗る場面。シロが背中を見せた瞬間、このシリーズで初めての展開でした。ラグル族は、信頼できる相手だけを乗せる。それだけの関係が、二人の間にできていた。


次話では、セルドに向かいながら、カナたちと合流します。そしてセルドで、ガレス王との直接交渉が始まります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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