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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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7/11

第五十五話「夜明けと同時に、全部が動いた」

五十五話目です。


夜が明けます。カナが都を脱出した朝、施設の人間が気づきます。都の中で、追う側と逃げる側の動きが同時に始まります。そしてエイラへの接触が、予想外の形になります。


起承転結の「転」に入ります。一番動く話です。


では、どうぞ。

夜明けの一時間前、ダロから連絡が来た。


「施設から、人が出てきた」


「気づきましたか」


「夜の見回りで、カナがいないことを発見したようだ。今、四人が都の中に散った」


「捜索が始まりましたね。カナさんたちは、もう都を出ていますか」


「センから連絡が来た。夜明け前に、国境を越えた」


「間に合いました」


「間に合った。だが、こっちへの影響は、これからだ」


「分かっています。朝になったら、エイラさんに会いに行きます」


「急いだ方がいい。施設が動いたなら、次はエイラの権限をさらに制限しようとするかもしれない」


「そうですね」


「夜明けまで、どこにいる」


「都の東側の、古い水路の近くにいます。ここなら、気配が分かりにくいです」


「一時間後に来い。エイラの住居の場所を教える」


「分かりました」



夜明けが来た。


空が、少しずつ明るくなった。


シロが、空を見ていた。


「夜が終わりますね」


シロが尻尾を振った。


「カナさんは、今頃、森の方向を歩いていると思います」


また振った。


「ルナが、驚きますね。カナさんが来ると、知らせていないので」


シロが耳を動かした。


「会ったことはないですが、ルナとカナさんは、似ている気がします」


シロが私を見た。


どこが似ているんだ、という顔だった。


「記録を大事にするところと、言い切るところです」


シロが、また空を見た。


都の朝が、始まった。


遠くで、鐘の音が鳴った。



ダロと合流した。


「エイラの住居は、都の南だ。農務局の官舎にいる」


「監視はついていますか」


「たぶん、ついていない。エイラへの処置は、権限の制限だけだ。行動の自由は、まだある」


「では、正面から行けますか」


「行けるが、問題がある」


「何ですか」


「今朝、施設からカナが消えたことが報告されれば、エイラの周辺も動くかもしれない。早く行かないと、間に合わない」


「急ぎます」


南に向かって、歩き始めた。


そのとき、シロが止まった。


また、気配を感じていた。


「どこですか」


シロが、右の路地の方を向いた。


「後ろから来ていますか」


シロが、耳を立てた。


複数、という感じの立て方だった。


「ダロさん、走れますか」


「走れる」


「走ります。今すぐ」


三人で、走り始めた。


後ろから、足音が来た。


「やはり、来ましたね」


「追っているのか、私たちを」


「分かりません。でも、同じ方向です」


「曲がるぞ」


ダロが、左の路地に折れた。


続いた。


足音が、また近づいた。


「速いですね」


「鉱山局の人間だ。体を使う連中が多い」


「別の方法を使います」


「別の方法とは」


「力を使います。追っている人間の足元を、少し重くします」


「人間に使えるのか」


「昨夜、試しました」


立ち止まった。


地面に手を触れた。


力を送り込んだ。


後ろから来る足音に向けて。


足音が、少し遅くなった。


「効いていますが、長くは続きません。急ぎます」


「分かった」



農務局の官舎に着いた。


石造りの、四階建ての建物だった。


入口に、人がいた。


農務局の職員らしかった。


「エイラ農務局長に会いたいです」と私は言った。


「名前は」


「凪です。以前、リドル様とエイラ様に会いました。転生者です」


職員が、少し考えた。


「少し待ってください」


中に入っていった。


ダロが、後ろを確認した。


「追っている連中は、まいたか」


「しばらくは大丈夫だと思います。ただ、時間がかかると来ます」


「早く入れてもらいたいな」


職員が、戻ってきた。


「どうぞ、お入りください」



エイラは、四階の部屋にいた。


私たちが入ると、立ち上がった。


「来たか」とエイラは言った。


「来ました」


「ダロも来たのか」


「来ました」とダロが言った。


「お前が来るとは、思わなかった」


「私も、思っていなかった」


エイラが、椅子を示した。


「座れ。話を聞く」


「急いでいます。追われているかもしれないので」


「追われている」


「施設からカナさんを助け出しました。今朝、捜索が始まったと思います」


エイラが、少し目を細めた。


「カナは、安全か」


「今朝、国境を越えました。安全だと思います」


「記録は」


「ミアが持っています。カナと一緒にいます」


エイラが、深く息を吐いた。


「良かった」と静かに言った。


「エイラさんに、知らせることがあります。急ぎますので、直接言います」


「言え」


「今回の政変の本当の目的は、エン山の採掘です」


エイラが、動きを止めた。


「エン山」


「ベルクさんから、聞きました。エン山の地下に、大規模な鉱脈があります。鉱山局が、五年前から注目していました。採掘のために、農務局の確認権限が邪魔だった。記録が邪魔だった。だから、全部を排除しました」


エイラが、立ち上がった。


「エン山の採掘が始まれば、どうなるか、分かっているか」


「水脈が変わります。セルドの川に影響が出ます。農地の水が、また減ります」


「それだけではない」とエイラは言った。声に、熱が入っていた。「エン山の西側に、アルドの主要農地がある。エン山の地下水脈は、あの農地全体を支えている。掘れば、農地が干上がる」


「アルドの農地が」


「農地が干上がれば、食料が不足する。食料が不足すれば、国民が困る。鉱山局は、採掘で得る利益しか見ていない。失う農地の価値を、計算していない」


「または、計算した上で、利益の方が大きいと判断したか」


「どちらにせよ、許せない」


エイラが、机を叩いた。


強く叩いた。


「私の権限が制限されたのは、これが理由か」


「そうだと思います」


「確認する手段を、取り上げた。それで、採掘を止められないようにした」


「そうです」


エイラが、部屋の中を歩いた。


考えながら歩いた。


「私には、今、正式な確認権限がない。でも、情報を持つことは、制限されていない」


「情報が、武器になりますか」


「なる」とエイラは言った。「国民に、知らせることができる。農地が干上がるかもしれないと、知らせることができる。民の声は、公式な権限より、時として強い」


「エイラさんが、動いてくれますか」


「動く」とエイラは言った。迷いのない声だった。「ただ、一つ必要なものがある」


「何ですか」


「証拠だ。エン山採掘が、水脈に影響することを、示す記録が必要だ」


「カナさんの記録に、それが含まれています。ミアさんも、重要な内容を記憶しています」


「カナと連絡が取れるか」


「取れます。ラグル族を使えば」


「今すぐ、取れ。カナに、記録の要点を、できるだけ早く送ってもらえ」


「ミアさんが書いて、ラグル族が届ける。二日以内には」


「二日待てるかどうか、分からない。もっと早い方法はないか」


少し考えた。


「ミアさんは、重要な内容を記憶していると言っていました。ミアさんに、今すぐ書いてもらえる内容が、あるかもしれないです」


「ミアに、書ける量があれば、今すぐ動ける」


「連絡を、取ります」


シロが、私の横に来た。


「シロ、ミアさんに届けられますか」


シロが、耳を動かした。


どこにいるか分かる、という顔だった。


「国境の向こうにいます。一緒にいたラグル族なら、届けられますか」


シロが、外の方を向いた。


呼ぶ、という意味だった。


窓を開けた。


シロが、低く鳴いた。


特定の呼び方だった。


返事が来た。


ラグル族の声だった。


窓の外の、屋根の上にいた。


「追いかけてきていたんですね」


シロが、また振り返った。


当たり前だ、という顔だった。


「ミアさんに、エイラ様への手紙を書いて、早急に届けてほしい、と伝えてください」


シロが、ラグル族に向かって鳴いた。


ラグル族が、応えた。


走り始めた。


「届けられます」


エイラが、それを見ていた。


「ラグル族と、そういう意思疎通ができるのか」


「シロが、仲介してくれます」


「便利だな」


「シロのおかげです」


シロが、得意そうな顔をした。



そのとき、扉を叩く音がした。


強い叩き方だった。


エイラが、素早く机の引き出しを開けた。


書類を、いくつか取り出した。


私に向けた。


「これを、持て」


「何ですか」


「エン山周辺の地形と水脈を、農務局として調査した記録だ。正式な農務局の文書だ。私の権限が制限される前に作成したものだ。これがあれば、証拠の一部になる」


「受け取っていいですか」


「持っていけ。私の手元にあれば、奪われる可能性がある。お前が持った方が安全だ」


受け取った。


扉の叩き方が、激しくなった。


「開けろ」と外から声がした。


「エイラ様、逃げてください」とダロが言った。


「逃げない」とエイラは言った。


「捕まります」


「捕まってもいい。捕まった方が、証拠になる」


「証拠、というのは」


「権限を持つ農務局長を、不当に拘束しようとした証拠だ。国民に見せる材料になる」


「自分が捕まることで、情報を広める」


「そうだ」とエイラは言った。静かに、でも強く言った。「凪、逃げろ。その書類を、守れ」


「エイラさん」


「行け。私の心配より、書類の心配をしろ」


扉が、開いた。


鉱山局の人間が、三人入ってきた。


私は、書類を抱えた。


シロが、前に出た。


三人が、シロを見た。


一瞬、止まった。


「今です」とダロが言った。


「窓から、出ます」


「四階だぞ」


「大丈夫です」


窓から外を見た。


屋根があった。


飛んだ。


着地した。


衝撃があったが、立てた。


シロが、横に着地した。


音もなかった。


「さすがですね」


シロが尻尾を振った。


ダロが、窓から半身を出した。


「飛べるか」と私は言った。


「飛べない」とダロは言った。


「捕まりますよ」


「捕まる。だが、逃げない理由がある」


「理由は」


「エイラが言った通り、証拠になる。鉱山局の中堅が、エイラの拘束に反対した、という証拠だ。内部からの反発として、記録に残る」


「ダロさんも、捕まることで戦うつもりですか」


「そういうことだ。お前は、その書類を持って逃げろ」


「分かりました」


「凪」


「なんですか」


「エン山を、止めてくれ」


「止めます」


ダロが、部屋の中に向き直った。


窓が閉まった。


書類を抱えて、屋根を走った。


シロが、横を走った。


都の朝が、明るくなっていた。


鐘が、また鳴った。


全部が、動いていた。

五十五話目、書きました。


「転」の話でした。夜明けと同時に、全部が動き始めた。施設の捜索、追跡、エイラへの接触、拘束、窓からの脱出。一話の中に、できるだけ動きを詰め込みました。


エイラが「捕まってもいい」と言った場面。捕まること自体が、証拠になる。農務局長を不当に拘束しようとした証拠。これは、情報戦における逆転の発想です。権力がない者が、権力に立ち向かう方法の一つです。


ダロが「エイラが言った通り」と言って残った場面。鉱山局の中堅が反発した、という証拠になる。エイラとダロが、同じ発想で動いた。二人の連帯が、この場面で生まれました。


「エン山を止めてくれ」というダロの一言。捕まる直前の、ダロの覚悟でした。


次話では、書類を持った凪が、都の外に向かいながら、ベルクからの最後の情報を受け取ります。そして、セルドからの返答が来る予感が出てきます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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