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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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第五十四話「深夜のベルクは、全部知っていた」

深夜、ベルクに会いに行きます。ベルクは、今回の政変について、何かを知っていました。知っていて、動けなかった。その理由が、この話で分かります。


物語が、大きく動く前夜の話です。


では、どうぞ。

ベルクが住んでいる場所を、ダロが知っていた。


「調査部門の幹部の住居は、把握している」とダロは言った。


「鉱山局として、ですか」


「そうだ。どこに誰がいるかは、基本的な情報だ」


「監視はついていますか」


「昼は二人。夜は一人になる。交代が、深夜の一時だ」


「今は」


「十二時を過ぎたところだ。交代まで、一時間を切っている」


「交代の隙間を使えますか」


「一人になったとき、私が監視を引き受ける。その間に、お前が中に入れ」


「引き受ける、というのは」


「私は鉱山局の人間だ。監視に声をかけても、不自然じゃない。少し話をする。その間に入れ」


「ダロさんが、監視の注意を引く」


「そういうことだ」


「ありがとうございます」


「礼はいい。早く終わらせたい」



ベルクの住居は、都の中央部にある石造りの建物の三階だった。


道の角で待った。


監視の人間が、一人、建物の前にいた。


「交代まで、あと四十分ほどだ」とダロが言った。


「待ちます」


「その間、一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「今夜、カナを助けた。それで、終わりだと思うか」


「終わりではないです」


「分かっている。ただ、確認したかった」


「カナさんが外に出ても、記録を消そうとした勢力は残っています。ベルクさんへの監視も続きます。セルドへの手紙が届いて、外からの圧力がかかるまで、時間がかかります」


「その間、何が起きると思う」


「施設からカナさんが消えたことが、朝には分かります。捜索が始まります。ミアさんとセンさんが、カナさんを連れて都を出るまでの時間が勝負です」


「都を出るのに、何時間かかる」


「夜通し歩けば、夜明け前には国境を越えられます。センさんが、間道を知っています」


「朝まで、こちらが持てば」


「持てれば、カナさんは安全圏に入ります」


「こちら、というのは、お前とベルクと私か」


「そうです。朝まで、都の中で、動ける状態を保つ必要があります」


ダロが、空を見た。


「面倒なことになったな」


「そうですね」


「私が政変に反対していれば、こうはならなかった」


「気づいたときに動いたので、間に合いました」


「間に合ったかどうかは、まだ分からん」


「そうですね」


ダロが、また監視を見た。


「交代まで、あと十五分だ」



交代の五分前、ダロが動いた。


監視の人間に、近づいた。


「よう」と声をかけた。


監視が、振り返った。


ダロの顔を見て、少し驚いた顔をした。


「ダロ副長、こんな時間に」


「夜中に目が覚めてな。散歩していた」


「はあ」


「ベルク調査官は、まだ起きているか」


「分からないですが、部屋の明かりがついています」


「そうか。夜中まで、仕事熱心なやつだ」


ダロが、監視と話し始めた。


私は、建物の裏側に回った。


シロが、一緒についてきた。


裏に、非常口があった。


鍵がかかっていた。


力を使った。


鍵の機構を、内側から動かした。


音がした。


小さかったが、出た。


少し待った。


誰も来なかった。


扉を開けた。


中に入った。



三階まで、階段を上った。


ベルクの部屋は、三階の突き当たりだった。


明かりが漏れていた。


扉を、静かにノックした。


三回、間を置いて。


しばらくして、扉が開いた。


ベルクが立っていた。


驚いた顔をしなかった。


「来るとは思っていた」とベルクは言った。「ただ、今夜とは思わなかった」


「カナさんを、助け出しました」


「知っている」


「もう知っているんですか」


「建物の中に、私の目がある。連絡が来た。三十分前に」


「早いですね」


「早くしないと、意味がない。入れ」



部屋に入った。


狭い部屋だった。


書類が積まれていた。


書き途中の何かが、机の上にあった。


「座れ」


椅子に座った。


シロが、床に座った。


ベルクが、向かいに座った。


「カナは、今どこにいる」


「都の外に向かっています。夜明けまでに、国境を越えると思います」


「ミアも一緒か」


「そうです。センさんと、三人で動いています」


「センを使ったか。良い判断だ」


「ベルクさんが手配してくれたので」


「ダロも来ているな」


「外で、監視と話してくれています」


「ダロが動いたか」とベルクは言った。少し、意外そうな声だった。


「カナさんの声を聞いて、動く気になったそうです」


「カナの声か」


「渡さない、という声です」


ベルクが、少し目を閉じた。


「あいつらしい」


「ベルクさんが、ダロさんに示したんですか。私たちがどこにいるか」


「示した。ダロが動けるかどうか、試したかった。動いたな」


「動きました」


「それは、収穫だ」


「ベルクさん、一つ聞いていいですか」


「聞け」


「今回の政変を、知っていましたか。事前に」


ベルクが、少し間を置いた。


「知っていた」


部屋が、静かになった。


「知っていて、止めなかったんですか」


「止められなかった。知ったのは、三日前だった。動こうとしたが、先に手を打たれた」


「三日前というのは」


「政変の四日前だ。鉱山局の動きが、おかしいと気づいた。ただ、確認が取れなかった。確認しようとした時点で、気づかれた。だから、先に動かれた」


「カナさんが捕まったのも、気づかれたからですか」


「そうだ。カナが記録を持って動こうとした情報が、漏れていた」


「誰に」


「内部に、情報が漏れる経路があった。まだ、特定できていない」


「今も、漏れているかもしれないですか」


「可能性がある」


「この会話も」


「その可能性は、考えた上で、話している」


「なぜ話してくれるんですか」


ベルクが、机の上の書類を見た。


「お前に、知っておいてほしいことがあるからだ」


「なんですか」


「今回の政変の、本当の目的だ」



ベルクが、書類を一枚、私に向けた。


地図だった。


アルドの地図だった。


北の山が、描かれていた。


「この山を、見ろ」


「ガロン山ですか」


「違う。その西の山だ」


指さした場所を見た。


名前が書いてあった。


「エン山ですか」


「エン山の地下に、大規模な鉱脈がある。鉱山局が、五年前から注目していた」


「採掘したいということですか」


「採掘するために、邪魔なものを全部排除した。それが、今回の政変の本当の目的だ」


「邪魔なもの、というのは」


「農務局との連携、調査部門の記録、エイラの確認権限。全部が、鉱山局の大規模採掘の邪魔になっていた」


「水脈への影響を、確認されることが嫌だった」


「そうだ。エン山の地下を掘れば、周辺の水脈が変わる可能性が高い。セルドの川が、また減るかもしれない。農地が、また痩せるかもしれない。だから、それを指摘できる人間と記録を、消そうとした」


「大きな話ですね」


「大きい。山一つの採掘ではなく、この国の資源政策の話だ」


私は、地図を見た。


エン山の位置を確認した。


セルドの川の水源に、近かった。


「これが、全部の原因ですか」


「そうだ。カナの記録は、結果として、エン山採掘の最大の障害になっていた。採掘が水脈に影響する証拠が、そろっていたから」


「だから、記録を消したかった」


「そうだ」


ベルクが、書類を引き戻した。


「セルドに送った手紙に、このことを加えるべきだったかもしれないですね」


「届くのに、時間がかかるか」


「ラグル族が、走っています。早くて三日、遅くて五日で届くと思います」


「五日か」


「今から、追加の手紙を書いて、届けることはできます」


「書け。私が別の経路で、セルドに確認を求める。お前の手紙と、私の公式な文書が、同時に届けば、動きが早くなる」


「ベルクさんが、公式に動けるんですか。監視下にあるのに」


「文書を出す権限は、まだある。完全に封じられていない。ただし、今夜が最後の機会かもしれない。カナが逃げたことが分かれば、私への対応も変わる」


「急ぎます」


「書け。私も書く。同時に出す」


二人で、書き始めた。


シロが、扉の方を見ていた。


外の気配を、確認してくれていた。



三十分後、二通の文書が出来上がった。


私の手紙は、ラグル族が届ける。


ベルクの公式文書は、別の経路で届ける。


「準備できました」


「お前の手紙を、今すぐ届けられるか」


「外にシロがいます。ラグル族を呼べると思います」


「呼べ」


部屋の窓を、少し開けた。


シロが、外の方に顔を向けた。


低く鳴いた。


数分後、建物の外に、ラグル族が来た気配がした。


「来ました」


窓から、手紙を紐で下ろした。


ラグル族が、受け取った気配がした。


走り始めた。


「届きます」


「次だ」とベルクは言った。「お前は、朝まで、どこにいる」


「ダロさんと一緒に、都の中にいます。朝になって、カナさんが安全圏に入ったことを確認してから、動きます」


「どこに動く」


「エイラさんに会いに行きます。権限が制限されているとはいえ、農務局の長です。今回の本当の目的を、知らせます」


「エイラが動けば、大きい」


「動いてもらえると思います。エイラさんは、農地の水のことに本気です。エン山採掘の影響を知れば、動かないわけがないです」


「リスクがある。エイラに会いに行けば、捕まるかもしれない」


「捕まるかもしれないですが、行きます」


ベルクが、私を見た。


「言い切るようになったな、お前」


「カナさんから、学びました」


ベルクが、少し目を細めた。


「カナが聞いたら、喜ぶな」


「そうですか」


「あいつは、影響を与えた、と知ることが好きだ。記録が、誰かの役に立つことが好きだ」


「良い人ですね」


「良い記録係だ」とベルクは言った。「それ以上のことは言わない」


「それで、十分です」


ベルクが立ち上がった。


「今夜は、ここまでだ。明日の朝、エイラのところに行く前に、私に連絡を入れろ。エイラへの接触の方法を、教える」


「分かりました」


「ダロを連れて行け。ダロが動いていることが分かれば、エイラも信用しやすい」


「ダロさんに、頼みます」


「頼んでおけ。あいつは、頼まれると断りにくい性格だ」


「そうですか」


「そういう性格だから、逆に使われることもある。今回もそうだ」


「どういう意味ですか」


「鉱山局の上層部に、利用されたということだ。ダロは知らなかった。だが、気づいたら動いた。それが、あいつの良いところだ」


「そうですね」


扉に向かった。


「ベルクさん」


「なんだ」


「気をつけてください」


「気をつける」


「カナさんが、帰ってきたとき、ちゃんといてください」


ベルクが、少し止まった。


「いる」とベルクは言った。短く言った。


でも、その一言が、重かった。


「帰ります」


「帰れ」


扉を閉めた。


廊下を歩いた。


シロが、横についた。


夜が、もう少しで終わる。


エン山の地図が、頭に残っていた。


大きな問題だった。


でも、大きくても、気になる。


気になれば、動く。


それだけだった。

五十四話目、書きました。


ベルクが「全部知っていた」という展開を、この話の核にしました。知っていて動けなかった、三日前に気づいたが先手を打たれた。ベルクというキャラクターは、ずっと冷静で物静かでしたが、今回は自分の限界を正直に話しました。


エン山採掘という、より大きな目的が明かされた場面。今回の政変は、単純な権力争いではなく、資源政策をめぐる動きだった。カナの記録が、結果として最大の障害になっていた。これで、物語の「本当の敵」が見えてきました。


「カナから学びました」という凪の言葉。言い切るようになった理由を、一言で説明しました。影響を与えた、と知ることが好きなカナが聞いたら喜ぶ、というベルクの反応も、カナへの愛情が出た場面でした。


「いる」というベルクの一言。長い台詞より、短い一言の方が重いことがあります。


次話では、夜明けと同時に、エイラへの接触が始まります。物語が「転」に向かって加速します。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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