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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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第五十一話「夜の施設で、カナの声が聞こえた」

五十一話目です。


今夜、カナがいる施設を確認しに行きます。外から見るだけのつもりでした。でも、予定というのは、狂うことがある。


狂ったとき、どう動くか。それが、今回の話です。


では、どうぞ。

ベルクが手配した案内人は、四十代の男だった。


名前はセンといった。


無口で、足が速かった。


「信用できる人ですか」とミアに小声で聞いた。


「会ったことはないですが、ベルクさんが選んだ人なので」とミアは言った。


「ベルクさんの判断を、信用します」


センが振り返った。


「話しながら歩けるか」


「歩けます」


「施設まで、二十分だ。急ぐなら十五分」


「急ぎます」


「シロという獣は、どこに置いていく」


「一緒に来ます」


センが、シロを見た。


「目立つ」


「夜なので、大丈夫だと思います」


「目立っても、連れていくか」


「連れていきます。シロがいると、気配が分かります」


センが、また前を向いた。


「分かった。ただし、私の指示に従え。勝手に動くな」


「従います」


センが、歩き始めた。



都の夜は暗かった。


明かりが少なかった。


前に来たときは、夜でも明かりが多かった。


今は、人々が明かりを減らしているようだった。


目立ちたくない、という空気だった。


「前と違いますね」とセンに言った。


「変わった」とセンは言った。


「いつから」


「政変の夜から。一晩で、変わった」


「人が、怖がっている」


「怖がるのは、正しい判断だ」


「センさんは、怖くないですか」


「怖い」とセンは言った。即答だった。「だから、夜に動いている。昼は目立つ」


「ベルクさんの仲間ですか」


「仲間というより、借りがある。昔、助けてもらった。その返しだ」


「そうですか」


「それ以上は聞くな」


「分かりました」



施設は、都の東の端にあった。


古い建物だった。


石造りで、窓が少なかった。


周りに、警備の人間が三人いた。


センが、暗がりの中で止まった。


「あそこだ」と小声で言った。


「警備が三人ですね」


「昼は五人いる。夜は減る」


「中に入れそうですか」


「入れとは言っていない。外から確認するだけだ」


「そうですね。カナさんがどこにいるか、確認できますか」


「建物の北側に、地下の部屋がある。そこに入れられているはずだ」


「地下の部屋」


「窓がない。外から確認するのは、難しい」


「気配は感じ取れます」とシロに聞いた。


シロが、建物の方を見た。


鼻を動かした。


それから、北の方向を向いた。


「いますね」


「確認できるのか」とセンが言った。


「気配が分かります。北の、地下の方向に、人がいます」


「何人ですか」


「一人です。でも」


止まった。


「でも、なんだ」


「体の状態が、良くないかもしれないです」


ミアが、息を呑んだ。


「どういう意味ですか」


「弱っています。気配が薄い」


「薄い」


「弱っているのか、眠っているのか、今は分かりません。でも、急いだ方がいいかもしれないです」


センが、建物を見た。


「今夜は、確認だけだ。助け出すなら、計画が必要だ」


「そうですね。でも」


「でも、なんだ」


「あの気配が、気になります」


「気になっても、今夜は無理だ」


「分かっています」


分かっていた。


でも、気になった。



建物を、ぐるりと一周した。


警備の動きを確認した。


センが、要所ごとに説明してくれた。


「北側は、警備が手薄だ。ここが弱点になる」


「西側は」


「壁が高い。越えるのが難しい」


「東側は」


「警備が一人、常にいる。ただし、交代の時間がある。その間、十分ほど空く」


「その十分が、使えますか」


「使えるかもしれない。ただし、中に入ってから、カナを連れて出るまでの時間が十分以内でなければならない」


「十分では、難しいですか」


「地下の部屋は、鍵がかかっている。鍵を持っているのは、施設の責任者だ。夜は内部にいる」


「鍵を取る必要がある」


「そうだ。取れるか」


少し考えた。


「魔王の力で、鍵を開けることはできます。でも、音が出るかもしれないです」


「音が出ると、警備が来る」


「来ます」


「だから、計画が必要だと言っている」


「そうですね。今夜は戻りましょう」


センが、頷いた。


三人と一頭で、暗がりを引き返し始めた。


そのとき、施設の中から音がした。


何かが倒れる音だった。


それから、声が聞こえた。


女性の声だった。


「カナ先輩の声です」とミアが言った。


声は、一言だけだった。


「渡さない」


それだけだった。



センが、止まった。


「聞こえたか」


「聞こえました」とミアは言った。目が、険しくなっていた。


「記録帳を、まだ渡せと言われているんですか」と私は言った。


「ミアさんが持ち出したことを、知らないのか、信じていないのか」


「どちらかですね」


「あるいは、別の記録があると思っているか」


「別の記録」


「カナが、複数の場所に記録を分けていた可能性を、考えているかもしれないです」


ミアが、記録帳を見た。


「これだけです。でも、私の頭の中にも、あります」


「記憶の中に、記録がある」


「全部は覚えていないですが、重要な数字と、場所は覚えています。先輩に教わりながら、何度も確認したので」


「ミアさんが、予備の記録になっている」


「そういうことに、なりますね」


センが、建物を見た。


「今夜は、まだ動けない。しかし、急いだ方がいい。そっちの言う通り」


「明日の夜に、動けますか」


「準備が必要だ。明日の昼、打ち合わせをしよう」


「どこで」


「都の南に、古い教会がある。昼の二時に来い」


「分かりました」


センが、先に歩き始めた。


ミアが、建物を振り返った。


「先輩、今夜は」


「今夜は、待ってもらいます」と私は言った。


「苦しいですか、先輩は」


「苦しいかもしれないです。でも、諦めてはいない。さっきの声は、諦めた人の声じゃなかったです」


ミアが、少し目を細めた。


「そうですね。先輩は、ああいう声を出す人です」


「ああいう声、というのは」


「怖くても、折れない声です」


「そうですね」


「明日、助けに行けますか」


「行きます。ただし、セルドへの連絡と、同時に進める必要があります。カナさんを助けても、外からの圧力がなければ、また捕まるかもしれないです」


「どうやって、同時に」


「ミアさんに、手紙を書いてもらいます」


「私が」


「セルドのガレス王とオルトに宛てた手紙を。私が内容を口述します。ミアさんが書いてください。それを、ラグル族に届けてもらいます」


「ラグル族が、セルドまで届けられますか」


「セルドとの国境付近に、ラグル族の仲間がいると思います。途中で手渡しながら、届けられるはずです」


「やります」とミアは言った。


「ありがとうございます」



宿に戻った。


ミアが、紙と筆を出した。


「口述、お願いします」


「ガレス王へ。凪です。アルドで、政変がありました。この政変は、山の採掘に関する記録を消すことを、目的の一つとしています。この記録が消えれば、採掘が再開されます。採掘が再開されれば、水脈が傷つきます。水脈が傷つけば、セルドの川が、また減ります。セルドとして、アルドに対して、記録の保全について正式に確認を求めてほしいです。急ぎます。凪より」


ミアが、書いた。


「オルトへ。凪です。ガレス王への手紙と、同じ内容です。ガレス王が動くように、オルトから話してほしいです。カナという記録係が、今、危険な状態にあります。カナは、セルドの川の問題を記録した人間です。その記録を守ろうとして、捕まっています。助けたいと思っています。オルトの力を、貸してください。凪より」


ミアが、書いた。


「ミアの記録について、一行追加してください」


「なんですか」


「ミア・記録係は、今、主要な記録を持って、安全な場所にいます。記録は、失われていません。と、書いてください」


ミアが、書いた。


「これで、セルドに届けば、動いてもらえますか」


「分からないです。でも、動いてもらえる可能性があります。ガレス王は、川の問題に本気です。また川が減るかもしれない、と聞けば、動くと思います」


「動いてから、アルドが変わるまで、どのくらいかかりますか」


「分からないですが、外交的な動きが始まれば、鉱山局も慎重になります。その間に、カナさんを助け出せれば」


「間に合いますか」


「間に合わせます」


ミアが、手紙を折った。


「ラグル族に、今夜渡せますか」


「渡せます。宿の外に、さっきついてきた三頭がいます」


ミアが、少し驚いた顔をした。


「まだいたんですか」


「いつもそうです。ラグル族は、気になるとついてきます」


「ついてきてくれていて、良かったです」


「そうですね」


手紙を持って、外に出た。


三頭が、暗がりの中にいた。


「セルドまで、届けてほしいです。途中で、仲間に渡してもいいです」


一頭が、前に出た。


口に咥えた。


それから、走り始めた。


三頭が、夜の中に消えた。


「行きましたね」とミアが言った。


「行きました」


「届きますか」


「届きます」


「また、言い切りましたね」


「気になることをするとき、言い切る方がいいと、最近思っています」


ミアが、少し笑った。


久しぶりに見た笑顔だった。


「明日、先輩を助けましょう」


「明日、助けます」


「言い切りましたね」


「言い切りました」


シロが、二人を見た。


尻尾を振った。


三人で、宿に戻った。


夜の都は、相変わらず静かだった。


でも、二通の手紙が、今夜、走り始めていた。

五十一話目、書きました。


「渡さない」というカナの声が、建物の中から聞こえた場面。直接姿は見せずに、声だけで存在を示しました。声だけの方が、カナの強さが伝わると思いました。怖くても折れない声、というミアの評価が、カナというキャラクターを一言で表しています。


センというキャラクターを出しました。無口で実務的な人間。ベルクに借りがある。詳細は語らないが、信用できる。こういうキャラクターが、緊急事態には必要です。


「並行して動かす」という凪の判断が、今回の核心でした。カナを助けることと、セルドへの連絡を同時に進める。一つずつやっていては、間に合わない。第三部からは、こういう複数の動きを同時に見せる展開を意識しています。


「気になることをするとき、言い切る方がいい」という凪の言葉。第二部までの凪は「やってみます」「できる限り」という言い方が多かった。第三部から、少し変わってきています。


次話では、明日の夜の作戦と、予想外の協力者が現れます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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