↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/22

第六十九話「ルナが、手紙を書いていた」

六十九話目です。


集落に帰ります。ルナと再会します。でも、今回は少し違う場面があります。


ルナが、書いていた。誰かに向けてではない何かを。


では、どうぞ。

集落の手前で、シロが止まった。


「どうしましたか」


シロが、集落の方を向いた。


耳を立てた。


それから、尻尾を大きく振った。


「感じますか」


シロが、また振った。


良いことが起きている、という感じの振り方だった。


「分かりました、行きましょう」


集落の入口に近づいた。


ルナが、いなかった。


前回は、入口の手前で手を振っていた。


前々回は、集落の外まで走ってきた。


今回は、いなかった。


「どこにいますか」


シロが、集落の中を向いた。


中にいる、という意味だった。


集落に入った。


広場に、ルナがいた。


岩の上に座っていた。


何かを書いていた。


「ルナ」


ルナが、顔を上げた。


「あ、帰ってきた」と言った。


あっさりと言った。


「出迎えはないんですか」


「書いていたから」


「何を書いていたんですか」


「内緒」


「そうですか」


「でも、見せてもいい」


「どちらですか」


「内緒だけど、ナギには見せる」


「分かりました」



ルナが書いていたものを、見た。


紙が、何枚かあった。


字が、びっしり書いてあった。


「何ですか、これは」


「記録帳」とルナは言った。


「記録帳は、持っていますよね」


「新しいのを作っている」


「どうして」


「今まで書いていたのは、集落の記録だった。木のこと、土のこと、池のこと。でも、もう一種類の記録を書きたくなった」


「もう一種類とは」


ルナが、紙を私に向けた。


「人の記録」とルナは言った。


「人の記録」


「ナギが来て、カナさんが来て、ミアさんが来て、センさんが来た。みんなのこと、全部、私の言葉で書いておきたかった」


「私のことも、書いてありますか」


「最初のページから、ナギのことが書いてある」


「見ていいですか」


「見ていい」


最初のページを開いた。


「花を一本咲かせた人が来た。名前は凪。最初は、怖そうかと思ったけど、怖くなかった。土に手を当てたら、花が咲いた。精霊みたいなことをする人だと思った」


読み続けた。


「凪は、やってみます、と言う。できる、とは言わない。それが好きだ。最初は、そういう言い方が頼りないと思っていた。でも、違うと分かった。できると思えないときでも、やってみる、と言って動く。それが凪のすごいところだ」


「これは、いつ書いたんですか」


「少し前」とルナは言った。「池でルミを見ながら、書いた」


「ルミを見ながら」


「ルミが、ぐるぐる泳いでいるのを見て、凪もぐるぐるしているな、と思った」


「ぐるぐる、というのは」


「あちこち動いて、でも、どこかに戻ってくる。ルミが池の中でぐるぐるするけど、アオの近くに戻ってくるのと同じ」


「私が、アオのような存在の近くに戻ってくる、ということですか」


「そう」とルナは言った。「ナギが戻ってくる場所が、ここだから」


「そうですね」


「だから、記録を作った。ここが、ナギが戻ってくる場所だと分かるように」


少し黙った。


「ありがとうございます」


「礼はいらない」とルナは言った。「書きたくて書いただけ」


「それでも、ありがとうございます」


「まあ、いい」


シロが、ルナの横に来た。


ルナが、シロを撫でた。


「シロも、記録に書いてある」


「なんて書いてありますか」


「精霊を驚かせる、って書いてある」


シロが、耳を下げた。


「カナさんも、記録帳に書いていましたね」


シロが、また下げた。


「残ります、ずっと」


ルナが笑った。


「シロは、精霊を驚かせた事実から、永遠に逃げられない」


シロが、もっと耳を下げた。


「大丈夫です、シロの良いところも、ちゃんと書いてありますか、ルナ」


「書いてある」とルナは言った。「背中を貸してくれる、と書いてある」


シロが、少し耳を戻した。


「それで、十分ですね」とルナが言った。



ガルが、出てきた。


「お帰りなさい、凪様」


「ただいまです。食事を、多めに作っていましたか」


「作っていました」とガルは言った。


「感じていましたか、帰ってくることを」


「感じていました。朝から、なんとなく」


「分かるようになりましたね」


「凪様がいてくれたおかげです」


「ガルさんが続けてくれたおかげです」


「どちらも、本当のことです」とガルは言った。


「そうですね」と私も言った。


ルナが、紙をしまった。


「カナさんとミアさんは、まだ来ていないの」


「後から来ます。ダンさんの農地を確認して、それから来ます」


「明日か、明後日かな」


「そのくらいだと思います」


「じゃあ、その間は、ナギと二人ね」


「そうですね」


「ガルじいちゃんと、シロも入れて、四人」


「そうです」


「少し静かだ」とルナは言った。「最近、人が多かったから」


「そうですね」


「でも、静かな方が、話せることもある」


「そうですね」


「今夜、ゆっくり話そう」


「そうしましょう」


「色々、聞きたいことがある」


「エン山のことですか」


「それも。でも、他のことも」


「何を聞きたいですか」


「ナギが、届かないかもしれない手紙を書いた、とシロが教えてくれた」


「シロが、教えたんですか」


シロが、尻尾を振った。


教えていない、という顔だった。


「教えていないですか」


また振った。


「でも、ルナは知っていますね」


「なんとなく分かった」とルナは言った。


「どうやって」


「帰ってきたナギの顔を見て、なんか書いたな、と思った。手紙を書いた後の顔、少し違うから」


「手紙を書いた後の顔、というのがあるんですか」


「ある。ガルじいちゃんも、手紙を書いた後は、少し顔が違う。すっきりした顔になる」


「書くことで、すっきりする」


「そうだと思う」


「ミアさんが言っていた通りですね。書くことで、整理できる」


「ミアさんが言ったことが、合っていた」


「合っていました」


ルナが、また岩に座った。


「読んでもいい? 手紙」


「届かなかったですが」


「届いてから読んでもいい?」


「届いていないですが」


「ナギが、今から読んでもいいって言えば、届いたことになる」


「そういうことになりますか」


「なる」


「では、読んでください。今から読んでいいです」


「じゃあ、読む」


ルナが、手を出した。


「手紙、どこにあるの」


「荷物の中にあります」


荷物を開けた。


手紙を出した。


ルナに渡した。


ルナが、受け取った。


読み始めた。


静かに読んだ。


途中で、少し止まった。


また読んだ。


読み終えた。


「信じてくれることが、動く力になる、と書いてあった」


「そうです」


「本当ですか」


「本当です」


「私が信じていることが、ナギの力になっているの?」


「なっています」


ルナが、また少し黙った。


「じゃあ、これからも信じます」と言った。


「ありがとうございます」


「礼はいらない。信じたいから信じる。それだけ」


「そうですね」


「気になるから動く、と同じ理由です」


「そうですね」


ルナが、手紙を返してくれた。


「これ、記録帳に挟んでもいい?」


「どちらの記録帳にですか」


「人の記録帳。ナギが書いた手紙も、記録だと思うから」


「どうぞ、挟んでください」


ルナが、手紙を折って、自分の記録帳に挟んだ。


「残った」と言った。


「残りましたね」


「良かった」



夕食の後、池に行った。


ルナとシロと三人で行った。


池は、夏の夜だった。


水草が、豊かだった。


アオが、水面で光っていた。


ルミが、少し高い位置で光っていた。


「ルミ、大きくなりましたね」


「うん」とルナは言った。「毎日、少しずつ変わっている」


「毎日、見ているから分かるんですね」


「毎日来なかったら、気づかなかったかもしれない」


「そうですね」


「続けることで、変化が見える」


「そうです」


「記録に書いてある、ミアさんの言葉が」


「ミアさんが、ルナに伝わっていますね」


「ナギを通じて」


「そうです」


ルミが、水面に出てきた。


ルナの指を、探すように動いた。


「来ましたね」


「毎日来るから、待っていてくれる」


「そうですね」


ルナが、指を水に入れた。


ルミが、近づいた。


触れた。


「くすぐったい」とルナは言った。「毎日触れているのに、くすぐったい」


「慣れないですか」


「慣れない。でも、毎回新鮮でいい」


「毎回新鮮、というのが良いですね」


「うん。同じことでも、毎回違う感じがする。ルミが毎回少し違うし、私も毎回少し違う」


「変化し続けているんですね、お互いに」


「そう。だから、毎日来ても飽きない」


アオが、ルミの横に来た。


親が子どもを見守るように、横にいた。


「アオも、元気ですね」


「元気。アオは、ずっと元気」


「来たときから、ずっと変わらないですか」


「変わっている。でも、元気さは変わらない。元気さの質が、変わった気がする」


「元気さの質、というのは」


「前は、弱っていた後の、回復した元気さだった。今は、ずっとそこにいた元気さになっている。違う感じがする」


「ルナの感じ取る目が、細かくなりましたね」


「毎日来ているから」


「続けることで、感じ取れることが増える」


「全部つながってる」


「そうですね」


ルナが、また水面を見た。


「ナギ、一つ聞いていい」


「なんですか」


「エルドに行くんでしょ」


「そうです。二か月後くらいに」


「行くのはいいけど、一つだけ約束して」


「なんですか」


「記録を、書いてきて」


「記録ですか」


「エルドで何があったか、帰ってきたとき、全部話せるように。私に話す記録」


「話すための記録、ということですか」


「そう。私が読む記録。ミアさんみたいに、ちゃんとした記録じゃなくていい。ナギが気になったこと、感じたこと、それだけ書いてきて」


「書きます」


「約束」


「します」


「よし」


ルナが、指を水から出した。


ルミが、少し待ってから、沈んでいった。


「また明日来るから」とルナは言った。池に向かって言った。


アオが、光を強くした。


「アオに伝わりましたね」


「毎日言っているから、分かってくれている」


星が、池に映っていた。


夏の星だった。


春に帰ってきて、もう夏だった。


「また、季節が動きましたね」


「そうだね」とルナは言った。


「来年の春には、何が変わっているんでしょうね」


「分からない」とルナは言った。「でも、良くなっていると思う」


「なぜですか」


「毎年、良くなってきているから」


「そうですね」


「だから、来年も良くなっている」


「信じているんですね」


「信じている」とルナは言った。あっさりと言った。


「そうですね、良くなっていますね、毎年」


「だから、信じられる」


「続けることが、信頼になる」


「全部つながってる」とルナは言った。


「そうですね」と私は言った。


夏の夜が、静かに続いていた。

六十九話目、書きました。


ルナが「人の記録帳」を作っていた場面。今まで集落の自然を記録していたルナが、人の記録を作り始めた。凪が来たときから始まる記録。これは、ルナが凪の物語を記録者として書いている、という意味でもあります。


「届かない手紙を、届いたことにする」というルナの論理。ルナらしい直接的な解決法でした。受け取った手紙を記録帳に挟んだ場面。消えないようにする、という行為が、ルナなりの大切にすることの形でした。


「元気さの質が変わった」というルナの観察。弱っていた後の回復した元気さと、ずっとそこにいた元気さは、違う。細かい変化を、ルナが言語化できるようになっていた場面でした。


「エルドで何があったか、私に話す記録を書いてきて」というルナの約束の取り方。記録を、帰ってきたときの会話のために作る。ミアが「後で読む人のために書く」と言っていたことを、ルナが自分なりに実践しています。


次話で第三部が終わります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。