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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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20/22

第六十八話「帰り道に、ルナへの手紙を書いた」

六十八話目です。


帰り道の話です。今回は少し違う形で、ルナとの距離を縮めます。


歩きながら、手紙を書く。届く前に、追い越してしまうかもしれない。でも、書きたかった。


では、どうぞ。


エン山を出発して、初日の夕方、野営の準備をしながら私はカナに言った。


「紙と筆を、貸してもらえますか」


「手紙を書くんですか」とカナが言った。


「ルナに、書きたいです」


「帰ったら会えますが」


「会う前に、書きたいことができました」


カナが、記録帳の余りの紙と、筆を貸してくれた。


「ありがとうございます」


火の明かりで、書いた。



「ルナへ。私は今、帰り道の野営地にいます。エン山の調査が終わりました。採掘は、場所を変えることになりました。水脈は、守られます。ゴルさんの泉も、変わらないはずです。今日、帰り道を歩きながら、考えていたことを書きます。ルナが、今回泣かなかったこと。私は、ルナが泣かなかった理由を聞きました。信じられるようになったから、と言っていましたね。それを聞いて、私も何かを受け取りました。ルナが私を信じることで、私も動きやすくなっている気がします。誰かが信じてくれている、ということが、動く力になります。精霊を待つルナを見て、精霊が毎日来るようになったように、ルナが帰ってくることを信じてくれるから、帰ってこられる。そういう気がします。手紙を書いていますが、着く前に私の方が先に帰り着くと思います。だから、この手紙はルナには届かないかもしれないです。でも、書きたかった。石を持っています。帰ります。凪より」


書き終えた。


カナが、横で見ていた。


「届かない手紙を書いたんですか」


「そうかもしれないですね」


「なぜですか」


「書きたかったので」


「それだけですか」


「書くことで、自分が整理できることがあります。ミアさんが言っていましたね。記録は自分のためでもある、と」


「書くことで、考えが整理できる」


「そうです。ルナへの感謝を、書きながら整理しました」


カナが、少し目を細めた。


「ルナに、感謝しているんですね」


「感謝しています。信じてもらえることが、どれだけ力になるか」


「凪さんが、そういうことを言うのは、珍しいですね」


「そうですか」


「いつもは、誰かから教わった、誰かのおかげ、という言い方をします。でも、今日は、感謝している、と言いました」


「受け取るようにしています。少しずつですが」


「ガレス王に言われた通りに」


「そうです」



ミアが、来た。


「二人で何を話していましたか」


「手紙を書きました」とカナが言った。


「誰にですか」とミアが聞いた。


「ルナに」と私は言った。


「届きますか」


「届かないと思います。私の方が先に帰るので」


「では、なぜ書いたんですか」


「書きたかったので」


ミアが、少し考えた。


「記録、ということですか」


「そうかもしれないですね。自分の気持ちの記録です」


ミアが、手帳を出した。


「私も書いていいですか。今の凪さんの言葉を」


「どうぞ」


「届かない手紙を書く、という行為が、気になりました。届けることが目的ではない手紙を、人はなぜ書くのか」


「難しいですね」


「届けることが目的ではないなら、書くこと自体が目的です。書くことで、伝えたい気持ちが形になる。形になれば、消えない」


「そうですね」


「紙に書かなくても、頭の中で考えていれば、同じでは?という話もあります。でも、紙に書くと、違います」


「どう違いますか」


「紙に書くと、書いた人以外が読める状態になります。届かない手紙でも、誰かが読む可能性がある。読まれるかもしれない状態で書くことで、言葉が丁寧になります」


「誰かに読まれるかもしれない、という前提が、言葉を丁寧にする」


「そうです。だから、記録も、誰かが読むと思って書くと、良い記録になります」


「ミアさんも、整理しましたね」


「してしまいました」とミアは言った。「記録係の習性です」


カナが笑った。


「二人とも、話しながら整理しますね」


「カナさんも、そうですよ」と私は言った。


「私も、そうですね」


「全員が、話して整理するタイプですね」


「そういう人たちが、集まりました」


「全部つながっていますね」


「またその言葉」とカナは言った。


「本当のことなので」


「分かっています」



二日目の朝、出発の前に、ラグル族が来た。


集落の方から来ていた。


「連絡ですか」


ラグル族が、布を咥えていた。


受け取って、開いた。


ルナからだった。


読んだ。


「ナギへ。私はルナです。今日、ミアさんと池に行きました。ルミが、今日は少し高いところまで泳ぎました。前は水草の間にいたのに、今日は水面近くまで上がってきました。成長していると思います。ガルじいちゃんは、昨日から朝ごはんを少し多めに作るようになりました。ナギが帰ってくる気がするから、だそうです。私は、石を持っています。待っています。早く帰ってきて。ルナより」


「ルナからですか」とカナが来た。


「そうです」


「何と書いてありましたか」


「ルミが成長したこと、ガルさんが朝ごはんを多めに作り始めたこと、石を持って待っていること」


「ガルさんが、また気づいていましたね」


「また、ですね」


「ガルさんの感じ取る力も、育っていますね」


「そうですね。最初に来たとき、ガルさんは感情を表に出さない方でした。今は、色々なことを感じ取って、言ってくれます」


「凪さんがいたから、変わったんですか」


「ガルさんが変わろうとしたんです」


「きっかけを作っただけですか」


「そうです」


「またその言葉」とカナは言った。


「本当のことなので」


「分かっています」


ミアが、読み終えたルナの手紙を見て言った。


「ルナさんの手紙、ちゃんと書けていますね」


「そうですね」


「最初に見たときより、上手くなっています。毎日記録をつけているから、字が育ったんだと思います」


「記録が、字を育てた」


「そうです。続けることで、技術が育つ」


「全部つながっていますね」と私は言った。


「本当のことだから、何度言ってもいいです」とミアは言った。


「そうですね」


「でも、今日帰ったら、ルナに直接言えます」


「そうですね。手紙より、直接の方が伝わります」


「では、急ぎましょう」とカナが言った。


「急ぎましょう」



シロが、その言葉を聞いて、速くなった。


「急ぎます、と言ったら速くなるんですね」


シロが振り返った。


当たり前だ、という顔だった。


「背中を貸してくれますか」


シロが、腰を低くした。


乗った。


「カナさんとミアさん、先に行きますね」


「行ってください」とカナは言った。「ルナに、先に会っておいてください」


「先に会っていてください、ということですか」


「そうです。私たちが着いたとき、ルナがすでに落ち着いていてくれれば、歓迎してもらいやすいです」


「ルナは、誰でも歓迎しますが」


「それでも、最初に凪さんが着いていてほしいです。ルナにとって、凪さんが帰ってくることが、一番大事なことだと思うので」


「そうですね」


「行ってください」


「行きます」


シロが、走り始めた。


草原を走った。


風が、正面から来た。


速かった。


「シロ、ありがとうございます」


シロが耳を動かした。


「ルナに会いたいですか、シロも」


シロが尻尾を振った。


「私もです」


また振った。


「急ぎましょう」


シロが、さらに速くなった。


「これ以上速いですか」


振り返らなかった。


速くなった。


森が、見えてきた。


緑が、濃かった。


夏の森だった。


「帰ってきましたね」


シロが尻尾を振った。


森に入った。


木の間を、走った。


落ち葉の音がした。


春から夏になっていた。


でも、森の匂いは、変わらなかった。


「ただいま」と、森に向かって言った。


森が、静かに聞いていた。


集落が、見えてきた。


「ルナ、今から帰ります」


誰もいない道に向かって、言った。


でも、言った。


言葉が、前に向かって飛んでいく気がした。


シロが、また速くなった。


「シロ」


シロが振り返らなかった。


「分かりました、急ぎましょう」


帰り道の最後を、走った。

六十八話目、書きました。


「届かない手紙を書く」という場面を、この話の核にしました。届けることが目的ではない手紙。書くこと自体が目的。誰かが読むかもしれない状態で書くことで、言葉が丁寧になる。ミアが記録係として整理してくれた考えが、この話のテーマになりました。


ルナから手紙が来た場面。「ルミが成長した」「ガルじいちゃんが朝ごはんを多めに作っている」という小さな変化が、集落が生きていることを伝えています。ガルの感じ取る力が育っていることも、こういう形で出ました。


カナが「先に会っておいてください」と言った場面。ルナにとって凪が帰ってくることが一番大事だから、先に行ってほしい。カナが、ルナと凪の関係を理解していることが出た場面でした。


シロが「これ以上速いですか」という問いに答えず、さらに速くなった場面。シロもルナに会いたい。一番シンプルな感情が、一番速い動きになりました。


次話では、集落への帰還と、ルナとの再会があります。第三部もあと少しです。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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