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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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18/22

第六十六話「エン山は、予想より静かだった」

六十六話目です。


エン山の国際調査が始まります。凪が、実際に山に入って感じ取ります。


予想していたより静かだった。でも、静かな場所にこそ、気になることが隠れていることがある。


では、どうぞ。

エン山に着いたのは、出発から三日後だった。


山の入口に、調査団が集まっていた。


アルドから、ベルクとエイラとダロ。


セルドから、オルトとミア。


隣国エルドから、初めて見る顔が三人。


全員で、十人ほどだった。


「揃ったな」とベルクが言った。


「来ました」と私は言った。


「遅くはない。時間通りだ」


「そうですか」


ベルクが、私の後ろを見た。


「カナが来ているか」


「来ています」


カナが前に出た。


「久しぶりです、ベルク様」


「久しぶりだ。元気そうだな」


「集落に、三週間いました。良い時間でした」


「集落の状態は」


「凪さんが来なくても、良くなっていました」


「そうか」とベルクは言った。短く、でも重く言った。


エイラが、私に向かって言った。


「来てくれたわね」


「来ました」


「あの書類、役に立ったでしょ」


「大変役立ちました。エイラさんが、最初から持っていてくれたおかげです」


「持っていたのは、こういうときのためよ。捕まる前に、渡せて良かった」


「渡すタイミングを、計算していたんですか」


「してた」とエイラは言った。あっさりと言った。


「エイラさんらしいですね」


「褒め言葉として受け取っておく」


ダロが、横で聞いていた。


「凪、久しぶりだ」


「久しぶりです。鉱山局での立場は、どうなりましたか」


「難しくなった。でも、法的には問題ない。それだけで十分だ」


「大丈夫ですか」


「大丈夫だ。むしろ、すっきりしている」とダロは言った。「前に言った通りだ」


「すっきりしたまま、ですか」


「ずっとすっきりしている。一度気づいてから動いた。それだけで、こんなにすっきりするとは思わなかった」


「良かったです」



調査が始まった。


まず、山の外から感じ取ることにした。


地面に手を当てた。


「どうですか」とカナが聞いた。


「静かです」


「静か、というのは」


「水の流れが、比較的安定しています。ガロン山やゴルの山と比べると、問題が少ないです」


「採掘前だから、当然ですか」


「そうです。ただ、少し気になることがあります」


「なんですか」


「深いところに、空洞がある感じがします」


「空洞」


「自然にできた空洞です。採掘に関係なく、もともとある空洞だと思います。ただ、その空洞の位置が、採掘予定区域の真下に近いです」


「それは、問題になりますか」


「採掘によって、空洞に振動が伝わると、崩落する可能性があります。崩落すると、水脈が変わります。一気に変わる可能性があります」


「一気に変わる、というのは」


「ゆっくり変わるより、危険です。ゆっくりなら、対処する時間があります。一気に変わると、予測が難しくなります」


カナが、ミアに向かってうなずいた。


ミアが、素早く書いた。



エルドの調査員が、近づいてきた。


三人のうちの一人だった。


四十代の女性で、眼鏡をかけていた。


名前は、ルースといった。


「凪さん」とルースは言った。


「そうです。どなたですか」


「エルドの地質調査部門のルースです。空洞の話が聞こえました。どこにあると感じましたか」


「この山の東側の、地下百メートルくらいの深さです。正確な位置は、感じ取るだけなので、数字では言えないですが」


「感じ取れるんですか、そこまで」


「感じ取れます。正確かどうかは、測定してもらわないと分かりませんが」


ルースが、手帳を出した。


「東側の地下、百メートル程度。それで、我々の測定ができます。感謝します」


「お役に立てましたか」


「立ちました。我々の機器では、ある程度の深さまでしか分からないです。どこを重点的に測定すべきか、感じ取れる人間がいると、効率が全然違います」


「私の感触が、測定の目安になるということですか」


「そうです。精度は、測定で補います。方向は、あなたが示してください」


「分かりました」


ルースが、またエルドの調査員のところに戻った。


カナが、私の横で言った。


「分業ですね」


「そうですね。私が感じ取る。ルースさんたちが測定する。カナさんが記録する。全員が、違う役割で動いている」


「全部がつながっていますね」


「つながっています」



昼過ぎ、ルースが測定結果を持ってきた。


「東側の地下、九十五メートルの位置に、自然空洞の可能性を示す数値が出ました」


「ほぼ合っていましたか」


「ほぼ合っています。五メートルの誤差は、測定機器の精度内です」


「空洞の大きさは、分かりますか」


「大きいです。横幅で、五十メートル以上ある可能性があります」


「五十メートル」


「はい。それだけ大きい空洞に振動が加わると、崩落のリスクは無視できません」


ベルクが、横で聞いていた。


「それは、採掘の中止理由になりますか」とベルクが聞いた。


「中止、ではなく、場所の変更です」とルースは言った。「空洞から離れた位置であれば、採掘できます。この空洞の上は、避けるべきです」


「採掘を全部止めろ、ということではない」


「違います。安全な場所を選べ、ということです」


ダロが、前に出た。


「鉱山局として、場所の変更は受け入れられます。利益を求めているのであって、危険な場所を掘ることは、本来避けたいはずです」


「ダロさんが言えば、鉱山局が動きますか」


「動かします。私が持ち帰ります」


エイラが、腕を組んだ。


「農務局として、この結果に基づいて、採掘場所の変更を条件として確認書を出します。変更すれば、認可します」


「農地の水脈への影響は、どうですか」とカナが聞いた。


「感じてみます」


また地面に手を当てた。


「採掘場所が空洞から離れれば、水脈への影響は、大幅に減ります。完全にゼロではないですが、許容できる範囲に収まると思います」


「許容できる範囲、というのは」


「川が、この地域では五パーセント以内の変動になると思います。セルドの川への影響は、ほぼないと思います」


「ほぼ、というのは」


「完全にゼロとは言えないです。でも、今の採掘計画のままだと、三十パーセント以上変動する可能性がありました。その差が、大きいです」


オルトが、書類に書き込んだ。


「セルドとして、この結果を受けてアルドへの声明を更新します。採掘場所の変更を条件として、反対を取り下げます」


全員が、少し動いた。


問題が、解決の方向に向かっていた。



夕方、山を下りながら、ルースが隣に来た。


「凪さん、エルドにも来てもらえますか」


「エルドに、問題がありますか」


「あります。川が三年前から変動しています。水位が、不規則に上がったり下がったりしています。原因が分からないです」


「不規則な変動、というのが気になります」


「なぜですか」


「ゆっくり下がる、というのは、水源の問題が多いです。でも、不規則に変動するのは、別の原因が考えられます」


「どんな原因ですか」


「地下で、何かが変わり続けているときに、そういう変動が起きることがあります。地滑りが少しずつ進んでいるとか、地下水脈が変わり続けているとか」


「そういう可能性があるんですか」


「可能性として、考えられます。実際に感じ取ってみないと、分かりません」


「来てもらえますか」


少し考えた。


「気になります」


「来てくれますか」


「行きます」


「いつになりますか」


「今回の調査が終わってから、集落に一度戻ります。それから、向かいます。二か月後くらいになります」


「待ちます」


「ありがとうございます」


ルースが、手帳に書いた。


「二か月後に、凪さんがエルドに来る」


「書いておいてくれるんですか」


「記録します。覚えているだけでは、忘れることがあります」


「ミアさんと似ていますね」


「記録の大切さを知っている人間は、どこの国でも似てきます」


「そうかもしれないですね」



夜、カナと二人で話した。


「エルドに行くんですね」とカナは言った。


「そうなりそうです」


「また、集落を出ることになります」


「そうですね」


「ルナは」


「一度帰ります。それから、また動きます」


「ルナは、受け入れてくれますか」


「受け入れてくれると思います。今回、泣かなかったですから」


「そうですね」とカナは言った。「ルナが信じているから、大丈夫ですね」


「そうです」


「凪さん、一つ聞いていいですか」


「なんですか」


「終わりがない、と感じますか。気になることが、次々と出てきて」


少し考えた。


「終わりがないですね」


「辛くないですか」


「辛いかどうかは、考えたことがないですが」


「考えたことがない」


「気になることがある間は、やることがあります。やることがある間は、動けます。終わりがないことが、辛いというより、続けられる理由になっています」


「終わりがないことが、動き続ける理由になる」


「そうかもしれないですね」


カナが、少し目を細めた。


「ガルさんが言っていましたね。止まらない人間が、何人かいれば世界が変わる、と」


「センさんが言った言葉ですが、そうですね」


「その止まらない理由が、凪さんの場合は、気になるから、なんですね」


「そうです」


「他の理由がないですか。守りたいもの、とか、義務感、とか」


「あまりないですね。ルナのことは、守りたいと思います。でも、それが主な理由ではないです」


「それが、凪さんが止まれない理由ですね」とカナは言った。「守りたいものがある人は、守れたら止まります。でも、気になる人は、気になることがある限り止まりません」


「そうですね」


「では、凪さんは、ずっと止まりませんね」


「止まらないと思います」


「それで、良いと思います」とカナは言った。


「そうですか」


「そうです。世界に、止まらない人間が一人いるだけで、違います」


「カナさんも、止まりませんね」


「私は、記録が気になるので、止まれません」


「同じですね」


「同じです」


シロが、二人の間に来た。


横に座った。


「シロも、止まりませんね」と私は言った。


シロが尻尾を振った。


「気になることが、あるんですか」


シロが、私を見た。


私が気になる、という顔だった。


「私が気になるから、ついてくるということですか」


また振った。


「ありがとうございます」


カナが笑った。


「シロの止まれない理由が、一番シンプルですね」


「そうですね」


「大事な理由だと思います」


「そうですね」


夜の山が、静かだった。


明日、また動く。


でも今夜は、静かにしていた。


それで、十分だった。

六十六話目、書きました。


「エン山は予想より静かだった」という展開から始めました。問題がある場所だと思っていたら、採掘をしなければ、ほとんど問題がない山だった。問題は、場所を間違えた採掘計画だった。これで「採掘そのものを止めるのではなく、正しいプロセスを守ればいい」という凪の姿勢が、具体的な形になりました。


ルースというキャラクターを出しました。測定する人と、感じ取る人が組み合わさることで、調査の精度が上がる。分業が、全部をつなぐ。


ダロが「鉱山局として、場所の変更は受け入れられます」と言った場面。鉱山局の中堅が内部から変化を起こす。エイラが「変更すれば認可します」と言った。両側から合意が生まれた場面でした。


「終わりがないことが、動き続ける理由」という凪の言葉。守りたいものがある人は、守れたら止まる。気になる人は、止まらない。カナがその違いを言語化しました。


シロの「私が気になるから、ついてくる」という場面。シロの止まれない理由が、一番シンプルで、一番大事だという場面でした。


次話では、エン山調査の結論が出て、第三部の締めに向かいます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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