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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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16/21

第六十四話「静かな一週間と、遠くからの手紙」

六十四話目です。


第三部もそろそろ終わりに近づいています。


今回は、集落での穏やかな一週間の話です。でも、穏やかな日々の中に、次への種が蒔かれます。静かな話の中に、動きの予感を入れます。


では、どうぞ。

一週間、集落にいた。


毎朝、木に触れた。


毎昼、カナに感じ取り方を伝えた。


毎夕、ルナとミアと池に行った。


毎晩、ガルと話した。


そういう一週間だった。



カナへの「教え方」は、教えないことだった。


最初の日、カナが言った。


「木の感触で、状態を判断する基準を教えてほしいです」


「基準は、ないです」と私は言った。


「基準がない」


「一本一本、違います。昨日と今日も、違います。基準を作ると、基準に合わせて感じようとしてしまいます。まず、何も考えずに触れてみてください」


カナが、木に手を当てた。


「何も考えずに、ですか」


「そうです。今日の天気、昨日の雨、朝の気温、そういうことを考えながら感じると、先入観が混ざります。ただ、触れる。それだけです」


カナが、目を閉じた。


しばらくして、目を開けた。


「乾いている感じがしました」


「そうですね。昨日から、水が届いていない」


「なぜ届いていないんですか」


「根の先に、何かが詰まっています。古い根の残骸が、水の流れをふさいでいます。昨日気づいていたのですが、今日カナさんが感じ取ったので、一緒に直しましょう」


「私が感じ取るのを待っていたんですか」


「そうです」


カナが、少し考えた。


「昨日から知っていたのに、今日まで待ったのは」


「教えるより、自分で気づいた方が、長く覚えているので」


「なるほど」とカナは言った。「ずるいですね、その教え方」


「そうですか」


「でも、確かに覚えています。自分で感じ取ったから」


「そうです」



ミアとルナの池への毎日は、記録帳が育っていく時間だった。


三日目の夕方、ミアが私に見せてくれた。


「今日の記録です」


読んだ。


ルナの言葉が、そのままの形で書いてあった。


「ルミが、今日は少し遠くまで泳いだ。前は、アオの横を離れなかったのに」


「ルナさんが言った通りに書いています」


「そうですね」


「難しい言葉に変えない方が、分かりやすいと思いました。ルナさんの言葉が、そのまま観察記録になっています」


「ルナは、観察眼があります」


「あります。それと、表現が直接的なので、読むとすぐに場面が浮かびます。技術的な記録より、読みやすいかもしれないです」


「後で読む人のためになりますね」


「なります。精霊の記録として、後の世代に残れば、精霊を理解する助けになります」


「ミアさんが記録して、ルナが観察する。良い組み合わせですね」


「そう思います」とミアは言った。「でも、ルナさんが毎日来てくれなければ、記録できません。続けることが、一番大事です」


「全部つながっていますね」


「つながっています」



五日目の朝、ゴルから手紙が来た。


ラグル族が届けてくれた。


開いた。


短かった。


いつも通り、短かった。


「泉の水が、増えている。東側の斜面に、草が増えた。レナが喜んでいる。報告する。それと、石を持ってきているか」


「石、か」


レナが渡してくれた、川に磨かれた石のことだった。


荷物の中を確認した。


あった。


「持っていますね」


シロが、横で見ていた。


「泉の水が増えているそうです。東側の斜面にも、草が増えた」


シロが尻尾を振った。


「レナたちが続けてくれた結果ですね」


また振った。


「ゴルさんに、返事を書きます。石のことも、書きます」


ルナが、走ってきた。


「ゴルから手紙来た?」


「来ました」


「何て書いてあった」


「泉の水が増えていること、東側の斜面に草が増えたこと、レナさんが喜んでいること」


「良かった」とルナは言った。「ゴルに、私からも書いていい?」


「書きましょう」


「今回は何を書こうかな」とルナは言った。考えながら言った。「アオとルミのこと、書く。ゴルは精霊を知っているから、興味あると思う」


「ゴルさんは、山の精霊と近い存在です。興味があると思います」


「あとは、カナさんとミアさんが来たこと」


「それも、書きましょう」


「ゴルは、私の手紙を楽しみにしているかな」


「していると思います」


「根拠は」


「ゴルさんは、興味のないことには返事をしません。毎回、返事が来ていますね」


「それが根拠か」


「それが根拠です」


ルナが、満足した顔をした。


「じゃあ、書く」



六日目の夕方、ベルクから手紙が来た。


今回は、少し長かった。


「アルドの状況を報告する。国際調査の日程が決まった。セルドとアルド、それと隣国のエルドが合同で、エン山周辺の水脈調査を実施する。来月の初めに始まる予定だ。調査には、カナとミアの参加を求めたい。記録係として、最も適切だと判断した。それと、お前に一つ聞きたいことがある。調査の際、土や水の状態を感じ取ってほしい場所がある。現地に来てほしい。断っても構わない。ただ、来てくれると、助かる。ベルクより」


「来月の初め」


カナに見せた。


カナが読んだ。


「行きます」とカナは言った。即答だった。


「断らないんですか」


「記録係として、この調査に関わらない理由がないです。私とミアが動かすべき案件です」


「ミアさんも、同意すると思いますか」


「同意します。私が聞く前に、同意します」


「ミアさんに、先に聞いていないんですか」


「この手紙を読んだら、ミアは自分から言ってくると思います」


その言葉が終わった瞬間、ミアが来た。


「先輩、手紙が来たと聞きました。ベルクさんから」


「読みますか」


「読みます」


ミアが読んだ。


「行きます」とミアは言った。


カナが、私を見た。


「言った通りでしょ」


「そうですね」


「凪さんは、どうしますか」


少し考えた。


「行きます」


「迷いませんでしたね」


「気になるので」


「エン山の水脈が、気になりますか」


「気になります。実際に感じ取ってみたいです。書類で見た数字より、触れた方が確かです」


「凪さんらしいですね」


「そうですか」


「数字より感触を信じる」


「両方、大事ですが、感触がないと数字の意味が分からないことがあります」



夜、ルナに話した。


「来月の初め、また動きます」


「どこに」


「エン山です。国際調査があります」


「エン山って、採掘しようとしていた山ですか」


「そうです」


「また、アルドに行くんですか」


「そうです」


ルナが、少し考えた。


「帰ってきますか」


「帰ってきます」


「条件なし?」


「条件なし」


ルナが、また少し考えた。


「来月の初めって、どのくらい先」


「三週間くらいです」


「三週間、ここにいる」


「そうです」


「じゃあ、いい」とルナは言った。あっさりと言った。


「怒らないんですか」


「怒らない。三週間いてくれるから。それに」


「それに?」


「カナさんとミアさんも、一緒に行くんでしょ」


「そうです」


「二人が一緒なら、ナギが困ったときに助けてくれる」


「助けてくれると思います」


「だから、心配が減った」


「そうですか」


「カナさんは、ナギを助けられる人だと思う」


「どうして」


「なんか、頭が良さそうだから」


「頭が良いですね、カナさんは」


「ミアさんは、記録が得意だから、何が起きても残してくれる」


「残してくれます」


「じゃあ、大丈夫」とルナは言った。「行ってきて。ちゃんと帰ってきて」


「帰ります」


「三週間、一緒にいよう。池に行って、木に触って、記録して」


「そうしましょう」


「カナさんとミアさんも、三週間いてくれるんだよね」


「いてくれます」


「じゃあ、楽しい三週間だ」とルナは言った。


明るく言った。


心配を、自分で解決した顔だった。


「そうですね」


「楽しい三週間にしよう」


「しましょう」



その夜、外に出た。


星が出ていた。


来月、またエン山に向かう。


今度は、調査のために。


採掘が水脈に影響するかどうかを、実際に感じ取る。


「気になりますね」と空に向かって言った。


シロが、横にいた。


「気になっていますか、シロも」


シロが尻尾を振った。


「一緒に行きますか」


シロが、腰を低くした。


乗れ、という意味だった。


「今夜は乗りません。来月です」


シロが、立ち上がった。


分かった、という顔だった。


「三週間、ここにいます」


シロが、尻尾を振った。


「それまでに、カナさんに教えられることは、全部教えます。ミアさんの記録も、整理します。ルナと、毎日池に行きます。ゴルへの返事も、書きます」


シロが、また振った。


「やることが、ある」


また振った。


「やることが、ある間は、動けますね」


また振った。


「そうですね」


星が、いくつも出ていた。


「ルナが言っていた石を、まだ持っています」


ポケットを触った。


池の底の石だった。


「来月、また持っていきます。また帰ってきます」


シロが尻尾を振った。


「分かっています。分かっていますが、言いたかった」


シロが、私の横に来た。


並んで、星を見た。


静かな夜だった。


来月、また動く。


でも、今夜は、ここにいる。


それだけで、十分だった。

六十四話目、書きました。


「教えないことが教え方」という場面を、この話の核にしました。基準を作ると、基準に合わせて感じようとする。ただ触れる、それだけ。昨日気づいていたのに今日まで待ったのは、自分で気づいた方が長く覚えているから。カナが「ずるい教え方」と言ったのは、でも正しい教え方だということでもあります。


ミアの記録帳にルナの言葉をそのまま書く、という場面。難しい言葉に変えない。子どもの言葉がそのまま観察記録になる。これは、記録の新しい形として書きたかった場面でした。


「ゴルが返事をくれるのが、興味がある証拠」という凪の根拠。ゴルは短い人ですが、毎回返事が来ている。それが一番の証拠だという、凪らしい判断でした。


ベルクの手紙を読んで、カナとミアが即答した場面。カナが「ミアは自分から言ってくる」と言った瞬間にミアが来た場面。二人の関係を、テンポよく見せました。


ルナが「カナさんとミアさんが一緒なら、心配が減った」と自分で解決した場面。第一部の頃は、ただ「やだ」と言っていたルナが、心配を自分で整理して、前向きに送り出せるようになっていました。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調ығъ:クルス(Claude)

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