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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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15/21

第六十三話「カナが、集落に残ると言った」

六十三話目です。


翌日の話です。カナとミアが、集落を歩きます。そして、予想外のことを言います。


帰ってきた後に、また次が動き始める。でも今回は、違う形で動きます。


では、どうぞ。

翌朝、カナが早くから起きていた。


集落の外縁を、一人で歩いていた。


私が起きて外に出ると、カナが木に手を当てていた。


「おはようございます」


「おはようございます」とカナは言った。振り返らずに言った。


「何をしていますか」


「感じてみています」


「木をですか」


「そうです。凪さんが、触れば分かると言っていたので」


「分かりますか」


「少し分かります。これは、元気ですね」


「そうですね。この木は、今年に入ってから、特に良くなっています」


「ルナが毎日来ていたからですか」


「そうだと思います」


カナが、手を離した。


次の木に向かって、歩いた。


「凪さん、一つ聞いていいですか」


「なんですか」


「この集落の状態を、数字で言うと、今どのくらいですか」


「二十二か、二十三くらいだと思います」


「出発前は、二十一くらいでしたね」


「そうです。ルナが続けてくれたので、上がっています」


「二十が、自分で回れる状態でしたね」


「そうです。二十二、三というのは、安定して循環している状態です」


「じゃあ、凪さんがいなくても、大丈夫ということですか」


「大丈夫だと思います」


「では」とカナは言った。木から手を離して、私を向いた。「次に、凪さんが動けます」


「そうなりますね」


「動く予定は、ありますか」


「今のところ、まだ決まっていないです。気になることが出てきたら、動きます」


「一つ、提案してもいいですか」


「どうぞ」



カナが、近くの岩に腰を下ろした。


私も、横に立った。


「私と、ミアが、この集落に少し残りたいです」


「残る、というのは」


「農地の確認は、ダンさんのところに行けば、ひとまず終わります。でも、次の仕事が、まだ決まっていないです。アルドの調査部門が、今、混乱しています。リドルが失脚して、新しい体制になるまで、しばらくかかります」


「ベルクさんが、整えてくれると思いますが」


「時間がかかります。その間、私とミアがここにいれば、ルナの記録を一緒に整理できます。ガルさんの記録とも、合わせられます。それと、もう一つ理由があります」


「なんですか」


「カナさんに、学びたいことがあります。木の感触を感じ取ること、水の流れを見ること。凪さんから聞いた話を、実際に教えてもらいたいです」


「私から、ですか」


「そうです。凪さんが直接感じ取ることは、私にはできないかもしれない。でも、感じ取り方を教えてもらえれば、少し近づけると思います」


「感じ取り方を教える、というのは」


「ルナに、教えたでしょう」


「ルナには、特に教えたつもりはないですが」


「それが、凪さんの教え方ですね」とカナは言った。「特に教えていない。でも、横にいて、一緒に動く。それで、伝わる」


「そうなっていましたか」


「そうなっていました。私にも、同じことをしてほしいです。横にいて、一緒に動いてほしい」


「分かりました」


「残っていいですか」


「大歓迎です」


「ミアも」


「ミアさんも、もちろん」


カナが、少し安心した顔をした。


「ありがとうございます」


「カナさんが残ってくれると、ルナが喜びます」


「そうですか」


「ルナは、カナさんのことを、会う前から気にしていました。記録を守るために捕まった人、と思っていたから」


「大げさな話になっていますね」


「ルナにとっては、大げさではないです。記録を守ることが、どれほど大事か、ルナは知っています。自分でも、毎日続けているから」


カナが、また少し目を細めた。


「会いたかった理由が、分かりました」



ミアに話すと、すでに知っていた。


「先輩から、聞いていました」


「カナさんが、先に言いましたか」


「はい。残ることを決めてから、私に話してくれました」


「ミアさんは、どうですか」


「残ります。記録がたくさんあります。ルナさんの記録も、ガルさんの記録も、合わせて整理したいです。それと」


「それと?」


「アオとルミの記録を、もっと詳しく書きたいです」


「精霊の記録」


「今まで、精霊の記録は、ほとんどなかったと思います。生態が分かる記録が残れば、後の人たちが精霊を理解する助けになります」


「ルナが、一番良い観察者ですね」


「ルナさんと一緒に、毎日池に行きます。ルナさんが感じたことを、私が言語化します。二人の仕事になります」


「そうですね」


「楽しみです」とミアは言った。


「ミアさんが楽しみ、というのは、仕事として楽しみですか」


「仕事として楽しみです。でも、それだけではないです」


「どういう意味ですか」


「ルナさんと、友達になれる気がします」


「なれます」と私は言った。


「言い切りますね」


「ルナは、全員と友達になるので」


「全部、友達になれる、ということですね」


「ルナの言葉です」



センが、出発すると言ったのは、昼前だった。


「私は、戻る」


「ベルクさんのところにですか」


「そうだ。あいつが、また何かに巻き込まれているかもしれない。見ておかないといけない」


「ベルクさんは、大丈夫だと思いますが」


「大丈夫でも、見ておく。それが、私の借りの返し方だ」


「センさん、一つ聞いていいですか」


「なんだ」


「いつか、また来てくれますか」


「来る」とセンは言った。


「ルナに、約束しましたね」


「した。守る」


「ルナが喜びます」


「あの子は、約束を大事にするな」


「そうですね」


「良いことだ」とセンは言った。「約束を大事にする人間は、信用できる」


「ベルクさんも、そういう人ですね」


「そうだ。だから、借りを返し続けている」


センが、荷物を持った。


「また来い」とセンは言った。私に向かって。


「来ます」


「アルドに」


「行きます」


「言い切った」


「言い切りました」


センが、少し笑った。


「帰り道、気をつけろ」


「気をつけます。センさんも」


「私はいつも気をつけている。だから、生き残っている」


「そうですね」


センが、集落を出た。


ラグル族が、三頭ついていった。


「あの子たちも、センさんについていくんですね」とルナが言った。


いつの間にか、横にいた。


「友達になったんでしょう」


「ラグル族、すぐに友達になるね」


「そういう生き物なんだと思います」


「私に似てる」


「そうですね」


ルナが、センの背中を見ていた。


「また来てくれるかな」


「来ます。約束してくれましたから」


「約束は守る人に見えた」


「そうですね」


「じゃあ、来る」とルナは言った。



昼食の後、ルナがカナを池に連れていった。


ミアも一緒に行った。


私は、一人で集落の周りを歩いた。


久しぶりに、一人で歩いた。


木に触れた。


元気だった。


土を触れた。


柔らかかった。


水の流れを感じた。


流れていた。


「良いですね」と独り言を言った。


誰もいなかった。


でも、言った。


「二十三くらいですね」


木が、風に揺れた。


「帰ってきましたね、本当に」


シロが、いつの間にか横にいた。


「いましたか」


シロが尻尾を振った。


「ずっとついてきていましたか」


また振った。


「私が一人のとき、いてくれるんですね」


シロが、横を歩いた。


「ありがとうございます」


集落の北側まで来た。


春の花が、咲いていた。


ルナが以前、「春咲き」と名前をつけた花だった。


「まだ咲いていましたね」


シロが、花を嗅いだ。


「好きですか」


シロが、顔を上げた。


どちらでもない、という顔だった。


「正直ですね」



夕方、池から全員が戻ってきた。


ルナが、興奮した様子だった。


「ミアさんがすごかった」とルナは言った。


「何がですか」


「私がルミのことを話したら、全部書いてくれた。私が言った言葉を、そのまま書いてくれた」


「記録係ですから」


「でも、私の言葉をそのまま書く、というのが、なんか良かった。難しい言葉に変えなかった」


「子どもでも分かる言葉で残す、ということですね」


「そう。前に、私がナギに言ったことが、ミアさんが守ってくれた」


「ルナが言ったことが、ミアさんに伝わっていましたね」


「ナギを通じて」


「そうですね」


「全部つながってる」とルナは言った。


「そうですね」


カナが、私の横に来た。


「今日、池に行って、分かったことがあります」


「なんですか」


「ルナが毎日来る理由が、分かりました」


「どういう理由ですか」


「来たくなる場所だからです。精霊がいて、水がきれいで、静かです。でも、それだけじゃないです」


「それだけではない」


「ルミが、待っています。ルナが来ると、ルミが来る。来るものを待っている人がいる場所は、来たくなります」


「そうですね」


「記録も、同じかもしれないですね」


「どういう意味ですか」


「記録を読んでくれる人がいるから、書きたくなる。ルミがルナを待っているように、誰かが読んでくれることを信じているから、書き続けられる」


「良い言い方ですね」


「凪さんが話してくれたことを、考えながら池を見ていたら、思いました」


ルナが、二人の話を聞いていた。


「ルミは、私を待ってくれているの?」


「そう見えましたよ」とカナは言った。


「毎日来るから、覚えてくれているんだよね」


「覚えています。今日も、すぐに来てくれましたよね」


「うん」とルナは言った。嬉しそうに言った。「すぐに来た」


「ルナが、ちゃんと来ているから、ルミが来てくれます」


「続けることで、つながりが生まれる」


「そうです」


ルナが、また池の方を見た。


夕暮れで、池は見えなかった。


でも、見ていた。


「明日も行く」とルナは言った。


「行きましょう」


「カナさんも来る?」


「来ます」とカナは言った。


「ミアさんも」


「来ます」とミアは言った。


「じゃあ、全員で行こう」


「全員で行きましょう」



夜、ガルと話した。


「カナさんとミアさんが、しばらく残ってくれます」


「それは、良かったです」とガルは言った。


「ルナが喜びますね」


「すでに、喜んでいます。池から戻ってきてから、ずっと嬉しそうです」


「カナさんと、友達になりましたか」


「なったと思います。ルナが友達になる速さは、いつも早いので」


「全員と友達になりますね、ルナは」


「凪様が来てから、そうなりました」


「私が来てから、というより、ルナが元々そういう子だと思いますが」


「きっかけを作っただけですか」とガルは言った。


「またそう言うんですね」


「また言いました」とガルは言った。「ただ、ガレス王に言われたことも、聞きました。受け取れ、と」


「聞いていましたか」


「ルナから聞きました。ナギがガレス王に、受け取れ、と言われた、と」


「ルナに話していましたか、カナさんが」


「池の帰りに、話していたようです」


「そうですか」


「受け取れましたか、凪様は」


少し考えた。


「受け取っています。少しずつ」


「少しずつ、というのが、凪様らしいですね」


「急には受け取れないですが、受け取っています」


「それで、十分です」とガルは言った。


「そうですか」


「十分です。少しずつ変わっていく凪様を、見てきました。最初に来たとき、花を一本咲かせた転生者が、今は議会で証言して、国際問題を動かしています」


「ずれているところを、直していただけです」


「そのずれが、どんどん大きくなってきましたね」


「そうかもしれないですね」


「次は、どんなずれを直しに行くんですか」


「まだ分からないですが、しばらくはここにいます」


「しばらく、ですか」


「気になることが出るまでは、ここにいます。カナさんとミアさんに、色々教えながら」


「ルナも、嬉しいと思います」


「そうですね」


ガルが、窓の外を見た。


夜の集落が、静かだった。


「凪様、一つだけ言っていいですか」


「なんですか」


「ここに来てくれて、良かったです」


「こちらこそ、置いてもらえて良かったです」


「置いてもらえた、というのは」とガルは言った。


「きっかけを作っただけです、とは言いませんでした」


「言わなかったですね」


「少し、受け取れましたね」


「少しずつです」


ガルが、静かに笑った。


今夜は、柔らかい夜だった。

六十三話目、書きました。


カナが残ると言った場面を、今回の起点にしました。農地の確認だけでなく、「横にいて一緒に動いてほしい」という理由が、カナらしかった。記録係として、感じ取り方を学びたい。それを、特に教えないが横にいることで伝える、という凪の教え方を言語化した場面でした。


「記録を読んでくれる人がいるから書き続けられる、ルミがルナを待っているように」というカナの言葉。池を見ながら思いついた、という形にしました。自然の中にいると、こういう気づきが来ることがある。


センが去る場面は短くまとめました。センは多くを語らない人です。でも「約束は守る人間は信用できる」という一言で、センがベルクを信頼している理由と、ルナを評価している理由が、同時に出ました。


「受け取れましたか」というガルの問いに「少しずつ」と答えた凪。ガレス王に言われてから、少し変わってきている。ガルがそれを見ていた。


次話では、集落での穏やかな日々が続きながら、遠くから新しい気配が届き始めます。第三部の締めに向かっていきます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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