第五十九話「リドルが、全部しゃべった」
五十九話目です。
アルドで、リドルが証言します。ベルクが動かした結果です。内側から、状況が崩れ始めます。
物語が、一気に動く話です。テンポを意識して、短い場面を積み重ねながら書きます。
では、どうぞ。
翌朝、ガレスに呼ばれた。
「アルドから、連絡が来た」とガレスは言った。
「リドルの件ですか」
「そうだ。リドルが、昨日の午後、公式な場で証言した。全部、話したそうだ」
「全部、というのは」
「政変の経緯、エン山採掘計画の詳細、鉱山局の上層部が主導したという事実。全部だ」
カナが、記録帳を開いた。
「ベルクさんが、動かしたんですね」
「そうだ。ベルクが証拠を集めて、リドルに提示した。リドルも、利用されたという側面があった。証拠があれば、話す理由が生まれた」
「リドルが話したことで、状況が変わりますか」
「変わる」とガレスは言った。確信を持って言った。「アルドの議会は、今頃、混乱しているはずだ。鉱山局の上層部が、責任を問われる。エン山採掘の計画が、公式に問題になる」
「エイラとダロは」
「釈放される可能性が高い。不当な拘束だということが、証明されたから」
カナが、少し目を閉じた。
「良かったです」
「ベルクも、動ける状態に戻るかもしれない」とガレスは言った。
「ベルクさんは、今どこにいますか」
「昨夜の連絡では、リドルと一緒に、議会に向かったとあった」
「議会に」
「お前が持っているエイラの書類を、議会に提出する必要がある。ベルクが、それを求めているはずだ」
「持っていきます、私が」
「お前が、アルドに戻るということか」
「そうです。書類を届けて、直接確認します」
「急いだ方がいい。議会の動きは、速いことも遅いこともある。証拠が早く届けば、早く決着がつく」
「分かりました。今日中に、出発します」
◇
オルトが、地図を持ってきた。
「最短ルートは、これだ」とオルトは言った。
「山越えですか」
「そうだ。昨日来た道より、一日短い。ただし、道が険しい」
「問題ないです」
「シロに乗っていくか」
シロが、すでに準備している顔をしていた。
「乗せてもらえますか」
シロが、腰を低くした。
「ありがとうございます」
カナが、言った。
「私も、一緒に行きます」
「体は大丈夫ですか」
「大丈夫です。それと、私の証言も、議会に必要かもしれないです。記録係として、直接話した方が、説得力があります」
「それは、確かにそうですね」
ミアが、手を上げた。
「私も行きます」
「ミアさんも」
「記録係が二人いた方が、心強いです。それと、私の記憶の中にある内容が、追加の証拠になる可能性があります」
センが、腕を組んだ。
「私も、行く理由ができた」
「センさんも」
「カナとミアを、一人で行かせるわけにはいかない。護衛は必要だ」
「全員で行きますか」
「全員で行く」とカナは言った。
ガレスが、それを聞いていた。
「良いな」とガレスは言った。
「ガレス王は、来ませんか」
「セルドの王が直接行くのは、まだ早い。ただし、私の書状を持っていけ」
「書状、というのは」
「セルドの王名で書いた、アルドへの声明だ。エン山採掘について、セルドとして反対する声明だ。これがあれば、単なる内政問題ではなくなる」
「外交問題として、提出できます」
「そうだ。アルドの議会が、国際的な問題として扱わざるを得なくなる」
オルトが、書状を持ってきた。
「さすがです」
「お前が来ると分かった時点から、準備していた」とガレスは言った。
「早いですね」
「農地の問題は、待てない。お前に、教わった」
「また、私が言ったことが返ってきましたね」
「覚えていた」とガレスは言った。少し笑った。
◇
出発の準備をしていたとき、デルが来た。
セルドの老人、デルだった。
「また来たな」とデルは言った。
「またお会いしましたね」
「ガレスから、聞いた。アルドに戻るそうだな」
「そうです」
「竜は、どうしている」
「卵を守っています。採掘が再び問題になっていますが、今回で止まると思います」
「止まるといいな」
「止めます」
「また言い切った」とデルは言った。
「言い切るようにしています」
「良いことだ。年を取ると、言い切れることが少なくなる。若いうちに言い切っておけ」
「そうします」
デルが、懐から何かを出した。
小さな瓶だった。
「これを、持っていけ」
「何ですか」
「山の薬草から作った薬だ。疲れたとき、飲め。体が、少し楽になる」
「ありがとうございます」
「礼はいい。竜の話を、聞かせてくれたから。あの竜が、子どもを守っていたという話は、嬉しかった」
「また来ます。セルドの川が、戻り続けているか、確認しに来ます」
「来い。次に来るときは、もっと水が増えているといい」
「増えています。きっと」
「言い切ったな」とデルは言った。また笑った。
「ありがとうございます」
デルが、ゆっくり歩いて戻っていった。
九十近い老人が、静かに歩いていた。
「デルさん、長生きしてください」と届かない声で言った。
◇
シロの背中に乗って、山道を急いだ。
カナとミア、センが後ろを歩いた。
山を越えると、アルドの平原が見えた。
「速いですね、シロ」
シロが耳を動かした。
「疲れていますか」
シロが尻尾を振った。
疲れていない、という意味だった。
「頼りになります」
都が、遠くに見えてきた。
「状況が、どうなっているか」
シロが、前を向いた。
行けば分かる、という顔だった。
「そうですね」
走りながら、考えた。
リドルが証言した。鉱山局の上層部が、責任を問われている。エイラとダロが、釈放されるかもしれない。ベルクが、議会に向かっている。
全部が、同時に動いている。
「今が、一番大事な時間ですね」
シロが、また速くなった。
同意する、という速さだった。
「急ぎましょう」
◇
都の手前で、ラグル族に会った。
待っていたような立ち位置だった。
「連絡ですか」
ラグル族が、小さな布を咥えていた。
受け取って、開いた。
ベルクからだった。
「エイラが釈放された。ダロも、釈放された。議会に、今日の午後、証拠を提出する場が設けられた。急いで来い。お前の証言が必要だ」
「今日の午後」
シロが、速さをさらに上げた。
「急ぐんですね」
シロが振り返らなかった。
当然だ、という後ろ姿だった。
後ろを振り返った。
カナたちが、走っていた。
「午後に、議会で証拠を提出します」と叫んだ。
「分かりました」とカナが叫んだ。
全員で、走った。
◇
都の門を通った。
昨日と違って、厳しくなかった。
むしろ、門番が道を開けてくれた。
「ベルク調査官から、話が来ています。通ってください」
「ありがとうございます」
都の中が、前と違った。
市場が、開いていた。
人が、出てきていた。
声が、戻ってきていた。
「変わっていますね」
「リドルの証言が、広まったんですかね」とカナが追いついて言った。
「そうかもしれないですね。空気が変わっています」
「重さが、なくなっています」
「なくなりましたね」
ミアが、記録帳に書きながら歩いた。
「都の空気が戻ってきた、と記録します」
「そういうことも、記録するんですね」
「空気の変化が、一番大事なことを示します。数字より、空気が変わったことを書きたいです」
「良いですね」
センが、周りを見ながら歩いた。
「本当に、変わった。昨日は、こんな顔をしていなかった」
「人は、希望があると、顔が変わります」
「お前が持ってきたのか、希望を」
「みんなが、それぞれの場所で動いたからです」
センが、また少し笑った。
「本当に、言い切らないな、自分のことは」
「そういう性格なので」
「ガレスに言われただろう、受け取れと」
「言われました」
「受け取れ」
「受け取ります」
「良し」
◇
議会の建物に向かった。
前を歩いていたシロが、止まった。
建物の前に、人が立っていた。
ベルクだった。
「来たか」とベルクは言った。
「来ました」
「早かった」
「急ぎました」
ベルクが、カナを見た。
「カナ」
「ベルク様」とカナは言った。
「怪我はないか」
「ないです」
「記録帳は」
「あります」
「ミアが守ってくれたか」
「守ってくれました」
ベルクが、ミアを見た。
「良くやった」
ミアが、少し目を赤くした。
「ありがとうございます」
「泣くな」
「泣いていません」
「目が赤い」
「赤くないです」
「赤い」
「少しだけ」とミアは言った。
ベルクが、少し口の端を上げた。
「入るぞ。時間がない」
「エイラさんとダロさんは」
「中にいる。待っている」
「全員いますか」
「全員いる。あとは、お前が来るだけだった」
私が最後だった、ということらしかった。
「急いで来ました」
「間に合った」
「間に合いました」
ベルクが、扉を開けた。
「行くぞ」
中に入った。
議会の建物だった。
大きかった。
天井が高くて、石の壁が並んでいた。
人が、たくさんいた。
議員たちと、関係者たちと、記録係たちと。
全員が、こちらを見た。
「凪です」と私は言った。「アルドの農地と、セルドの川のために、来ました」
静かだった。
でも、その静けさは、昨日の都の重い静けさとは違った。
聞いている静けさだった。
「話します」
ベルクが、横に立った。
カナが、記録帳を持って立った。
ミアが、追加の記録を持って立った。
センが、後ろを守るように立った。
シロが、私の横に来た。
全員が、揃った。
「始めましょう」
五十九話目、書きました。
リドルが証言した、という情報から始まって、全員でアルドに戻り、議会に乗り込む、という展開を一話でまとめました。テンポを意識して、場面を短く切り替えながら書きました。
ベルクとカナの再会は、あえて短くしました。長い感情的なやりとりより、「怪我はないか」「記録帳は」という実務的な確認の中に、二人の関係が出ていると思います。
ベルクとミアのやりとり「泣くな」「泣いていません」「目が赤い」「赤くないです」「赤い」「少しだけ」。こういう短い会話が、緊張した場面の中の空気を少し変えます。
デルとの別れ際の「言い切った」というやりとりも入れました。凪の変化を、別のキャラクターが毎回確認する形で出しています。
都の空気が変わっていた場面。数字では表せない変化を、ミアが「空気が変わったことを書きたい」と言って記録した。それが記録係の仕事です。
次話は、いよいよ議会での証言です。全部が一つの場所に集まります。
また明日。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)




