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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第三部  作者: マスター


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第五十八話「ガレス王は、すでに動いていた」

五十八話目です。


セルドに着きます。交渉をするつもりで来たら、向こうはすでに動いていた。


準備していたものが必要なかったとき、でも準備が無駄ではなかった、という話です。


では、どうぞ。

セルドに着いたのは、翌日の昼過ぎだった。


山を越えて、平原を抜けて、都の門に着いたとき、門番が私を見て言った。


「凪様ですか」


「そうです。なぜ知っているんですか」


「ガレス王から、来たら通すように言われています」


「来ることが、分かっていたんですか」


「ラグル族から、連絡が来たそうです。昨日の夜に」


「昨日の夜に」


シロが、私を見た。


ラグル族が先に届けた、という顔だった。


「そういうことですか。ありがとうございます」


「お待ちしていました。すぐに、王宮に案内します」



王宮に通された。


ガレスの間に入ると、ガレスが立っていた。


オルトも、横にいた。


「来たか」とガレスは言った。


「来ました。急いで来ましたが、もう知っていたようですね」


「ラグル族から、連絡が来た。アルドで政変があり、凪が向かっていると」


「そうです。話したいことが、あります」


「聞く前に、一つ言っておく」


「なんですか」


「セルドは、すでに動いた」


「どういう意味ですか」


ガレスが、オルトを見た。


オルトが、書類を出した。


私に見せた。


「これは」


「アルドへの公式確認書だ。セルドの王名で出した。アルドの農地と水脈に関する政策について、セルドとして正式な説明を求める文書だ」


「もう出したんですか」


「昨日の夜に、使者を出した。今頃、アルドに届いているはずだ」


「手紙が届く前に、動いていたんですか」


「川が減ったとき、凪が助けてくれた。それで、信じた。凪から連絡が来た時点で、何かが起きていると判断した。詳しい話を待たずに、動いた」


「早い」


「農地の問題は、待てない」とガレスは言った。「去年の秋に、凪が言っていた。農地の回復には時間がかかる。だから、問題が起きたら早く動かないといけない、と」


「私が、そう言いましたか」


「言っていた。それを、覚えていた」


私は、少し黙った。


「ありがとうございます」


「礼はいい。詳しい話を聞かせてくれ」



全員で、席についた。


カナが、記録帳を出した。


ガレスが、カナを見た。


「その方は」


「カナといいます。農務局の記録係です。アルドで、記録を守るために捕まっていました。凪さんが助けてくれました」


「記録係が、捕まっていた」


「今回の政変の本当の目的を、説明します」とカナは言った。


ガレスが、前のめりになった。


「言え」


カナが、記録帳を開いた。


「エン山という山が、アルドの北にあります。その地下に、大規模な鉱脈があります。鉱山局が、五年前から注目していました」


「エン山の採掘が、目的か」


「そうです。採掘を阻んでいたものが、農務局の確認権限でした。採掘が農地の水脈に影響するとなれば、農務局が確認を拒否します。だから、農務局の権限を奪おうとした」


「権限を奪うために、政変を起こした」


「そうです。リドルを落とし、ベルクを封じ、エイラの権限を制限した。全部が、エン山採掘のためでした」


ガレスが、オルトを見た。


「エン山の採掘が始まれば、どうなる」


「水脈が変わります」と私は言った。「エン山の西側に、アルドの主要農地があります。その農地全体を支えている地下水脈が、エン山の下を通っています。掘れば、農地が干上がります」


「アルドの農地が、干上がる」


「それだけではないです。エン山の水脈は、国境を越えて、セルドの川の水源にもつながっています」


ガレスの顔が、変わった。


「また、川が減るということか」


「そうなる可能性が高いです」


「せっかく、戻ってきた川が」


「また減ります。竜が守ってくれている泉も、影響を受けるかもしれないです」


ガレスが、机を叩いた。


前回会ったときと、同じ叩き方だった。


「許せない」


「そのために、来ました。これを見てください」


エイラの書類を出した。


「農務局の文書です。エン山採掘の申請書があります。農務局の確認欄に、判が押されていません。法的に、採掘は不認可の状態です」


ガレスが、書類を受け取った。


読んだ。


「これは、正式な農務局の文書か」


「そうです。エイラ農務局長が、私に渡してくれました。確認できていない採掘は、始められないという証拠です」


「エイラという人間は、今どこにいる」


「アルドで、捕まっています。書類を私に渡して、自分は残りました」


ガレスが、また書類を見た。


「記録もあります」とカナが言った。「エン山周辺の水脈調査記録です。採掘が水脈に影響することを、示す内容が入っています」


「全部、揃っているな」


「揃っています。後は、これをどう使うかです」


ガレスが、立ち上がった。


「オルト」


「はい」とオルトが言った。


「昨日出した確認書に、追加の文書を加える。エン山採掘に関する農務局の確認状況について、具体的に説明を求める文書を出せ」


「承知しました」


「それと、アルドの隣国に、連絡を取れ。エン山問題は、アルドだけの問題ではない。他の国にも、水脈への影響がある可能性がある」


「隣国にも」


「複数の国から、同時に確認を求めれば、アルドも無視できない」


オルトが、急いで出ていった。


ガレスが、私を見た。


「凪、今のアルドの状況を、正直に教えてくれ」


「正直に言います。ベルクという調査官が、リドルに証言を求めに行っています。成功すれば、内側からも動きが出ます。エイラとダロが、捕まっています。二人が捕まったことが、不当な拘束の証拠になる可能性があります」


「内側からも、外側からも、動かす」


「そうです。一方向からだけでは、時間がかかります。両側から同時に動けば、早い」


「うまくいくか」


「分かりません。でも、やります」


「言い切るようになったな、お前」とガレスは言った。


「最近、そういう言い方をするようにしています」


「誰かに教わったか」


「色々な人から、少しずつ」


ガレスが、また座った。


「一つ、確認させてくれ」


「なんですか」


「お前は、転生者だ。アルドの問題に、なぜそこまで関わる」


「気になるからです」


「気になる」


「エン山が採掘されれば、農地が干上がります。川が減ります。人が困ります。それが気になります。気になれば、動きます」


「損得がない」


「ないです」


ガレスが、少し考えた。


「そういう人間が、一人いるだけで、世界が変わることがある」


「そうですか」


「今回、セルドが動けたのは、お前が動いたからだ。お前が来なければ、私たちは川が減ったことに、気づかないままだったかもしれない」


「川が減っていることに、気づいていましたよね、ガレス王は」


「気づいていた。でも、原因が分からなかった。お前が来て、原因を示してくれた。だから、動けた」


「竜が、本当の原因を教えてくれたんです」


「竜が」


「竜が、泣いていた理由が分かったから、川の問題が解決できました。竜がいなければ、私にも分からなかったです」


ガレスが、また少し考えた。


「お前は、いつも誰かのおかげだと言うな」


「本当のことなので」


「自分の力を、認めない」


「認めていないわけではないですが」


「認めろ」とガレスは言った。珍しく、強く言った。「お前が来なければ、竜にも会えなかった。お前が来なければ、採掘の問題も分からなかった。お前が動いたから、全部が動いた。それを、ちゃんと受け取れ」


私は、少し黙った。


「分かりました。受け取ります」


「それでいい」



その夜、宿に戻った。


カナが、隣に座っていた。


「疲れましたね」


「疲れましたが、動けます」


「カナさんは、本当に疲れていないんですか」


「疲れています。施設に五日いた疲れが、まだ残っています。でも、動くことが、一番の回復になります」


「そういうものですか」


「私はそうです。止まると、考えすぎます。動いていた方が、楽です」


シロが、私たちの横で、丸くなった。


「シロは疲れていますね」


「三日で来てもらいましたから」


「シロが乗せてくれたんですか」


「そうです。山の外の草原を、走ってもらいました」


「ラグル族に乗ったのは、初めてですか」


「初めてでした。速かったです」


「シロが、それを許したのは、信頼しているからですね」


「そうだと思います」


カナが、シロを見た。


「会ったことがなかったですが、ミアから色々聞いていました。シロのことも」


「どんなことを聞きましたか」


「精霊を驚かせる、という話を聞きました」


シロが、耳を少し下げた。


「昔のことです」


「ミアが、書いていました。シロが精霊に鼻を近づけすぎて、精霊が引っ込んだ、と」


「記録に残っているんですか、そのことが」


「残っています」


シロが、また耳を下げた。


「記録は、後で笑いの種にもなりますね」


「なります」とカナは言った。「だから、良いことも、失敗も、全部書きます」


「全部が記録になる」


「全部が記録になります。後で読む人が、判断します」


「後で読む人というのは」


「分かりません。でも、誰かが読む。そのために、書き続けます」



夜中に、ラグル族が来た。


アルドからの連絡だった。


「どうしましたか」とシロに聞いた。


シロが、外に出た。


私も出た。


ラグル族が、何かを咥えていた。


受け取って、開いた。


ベルクからだった。


短かった。


「リドルが、証言する意思を示した。明日、公式に話す。エイラとダロの釈放を、要求する。状況が、動き始めた」


「動いた」


シロが尻尾を振った。


「ベルクさん、やりましたね」


また振った。


「全部が、一度に動いています」


外は、暗かった。


でも、どこかで、何かが動いていた。


アルドで、ベルクが動いていた。


セルドで、ガレスが動いていた。


隣国に、オルトが連絡を送っていた。


カナの記録が、証拠として残っていた。


エイラの書類が、法的根拠になっていた。


全部が、つながっていた。


全部が、動いていた。


「もう少しです」と空に向かって言った。


誰もいなかったが、言った。


シロが、私の横に来た。


もう少し、という顔だった。


「帰りたいですね。ルナのところに」


シロが、尻尾を振った。


「帰ります。全部が終わったら、帰ります」


また振った。


「約束します」


シロが、空を見た。


星が出ていた。


アルドの星と、セルドの星は、同じ星だった。


全部が、つながっている夜だった。

五十八話目、書きました。


「ガレスがすでに動いていた」という展開。交渉をしに来たら、向こうはすでに準備していた。凪が言った言葉を、ガレスが覚えていた。「農地の問題は待てない、早く動かないといけない」。自分の言葉が、別の場所で実を結ぶ。これも「全部がつながっている」の一つの形でした。


「受け取れ」というガレスの言葉。凪がずっと「誰かのおかげ」と言い続けてきたことへの、強い言葉での返しでした。謙遜することと、自分の役割を認めることは、別のことです。ルナに続いて、ガレスも同じことを言った。


ベルクがリドルを動かした、という連絡が夜中に来た場面。ベルクが「いる」と約束して、実際に動いた。記録が人を救うことがある、とセンが言っていた通りの展開でした。


シロの「精霊を驚かせた記録」がカナの記録帳に残っていた場面。シロが耳を下げた。笑える記録が、物語に少し空気を入れました。


次話では、アルドの状況が急変します。リドルの証言で、何かが動く。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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