第七話 僕は、物に過ぎなかった。
神は、⬛︎⬛︎だけの存在である。
神は、道具だ。
⬛︎が⬛︎である限り。
⬛︎は⬛︎であり続ける。
【190年8月1日】
僕は、今…ナーシャと一緒に逃げている。
双燈院から抜け出した。それまでは、皆んなと仲良くティーパーティーをしていた。突然として幸せが壊れた。
まだ………クッキーを一口も食べていないのに…。
「主様!早くこちらに来てください!裏切り者が近くまで来ました!!もうあの人らの事は考えないでください!。」
ナーシャは、僕の手を強く掴みながら、今まで見た事ない、焦りを顔に表せていた…。僕は、そんなナーシャを見る事しかできなかった…。でも僕は、後ろを振り返る…皆んなが肉壁となり、時間を稼いでいた……。
ナーシャと僕は、緑色の草が生えている地面を、足で蹴りながら渡っている。これが草原と呼ばれる場所なのか。
「っ、はぁはぁっ。」
「こっ…ここまで来れば、ふぅはぁ…あいつらは。」
皆んなが僕の為に命を落とした。
ナーシャは、息切れしてる。運動なんて得意じゃないのに…。距離的に、それほど大きく遠くは離れていない…。
「あいつらは…。僕が狙いなんだよね。ナーシャ。」
「僕がいるから、皆んな不幸になるんだよね。」
「今はっ、そんな話をする場合では―」
「はっきり言ってほしい。」
「確かなことは答える。それがナーシャなのに…。」
「濁してほしくない。」
「………すぅーー…ふぅー…。」
「分かりました…。主様は―」
答えようとしたナーシャの頭が、地面に落ちた。
僕の足の底にいる。ナーシャが死んだ。
初めて僕は、目の前で人が死ぬのを目にした。
こんな、あっさりに…死ぬんだ。
「何言おうとしてんだ、この女は…馬鹿にも程がある。言おうとしてなければ、新生ヨハネに迎え入れたのにな…。体つきは極上品なのに実に残念だ。」
ナーシャを殺した人は、鎧を全身に身を纏っていた。全体的に白い鎧で、綺麗な線をカクカクに描きながら金の装飾が施されている。鎧は、傷だらけだった。それほど歴戦を歩んだ証だ。身長は、僕の3倍近くあり、大きい巨体は、その鎧のせいで余計に大きく見えた。片手にはナーシャの首を切ったであろうツヴァイヘンダー。その人の声は男性的だった。20代後半は、ありそうな声だ。その男は、僕の前に立ち、大きい影が僕を包み込む。僕はそれが、無意識に怯えてしまった。体が少し震えてしまう。
「どうして、ナーシャを殺したんだ。」
「どうして…皆んなを殺したんだ…。」
「ナーシャを…っそんな目で見るな…。」
「ナーシャは…ナーシャは…来年に結婚する予定だったんだ…。」
「この女にとても懐いていたのか…。これは申し訳ないことをしたなぁ。でもこれは全て、貴方様のためです。」
「あ…私めのしたことが、忘れていました。まずは自己紹介からですね。」
その男は、地面に伏せ、片方の膝を地面につけた。礼儀正しく上の者を敬う…。その仕草は、僕を主として見ているのか、それとも、謝罪をしているのか曖昧だった。その騎士の礼は、悔しくも綺麗だと思えた。
「私めの名前はド・サクス=コブール=ゴータ…レオポルドと、お呼びください。」
「どうか私めがした事を赦さないでください。これも全て貴方様…主のためたのです。どうして泣くのですか?泣かないでください。」
レオポルドと言う男は、血が少し固まったガントレットで、僕の涙を拭う。仲間の血が僕の肌に付着した。怒りが収まらない…。
「主よ、さぁ。おいでください。」
僕が何か言う前に、僕は、逃げられないくらいの力で腕を握り締められた。きつく握られて、痺れる感覚が走る。僕を物同然で扱う人は初めてだ。とても痛い。
「離せ…離せよっ!この人殺し!なんで身内同士で殺し合うんだよ!」
僕が、何を言っても反応を示さない。いくら罵倒してもピクりともしない。機械的に動く無心の人だ。レオポルドは、来た道を戻っている。なぜ双燈院なんかに戻る…もうあの場所が崩れ落ちるのを、この目で見た…。壁は崩れ落ちて砂埃が舞っていた…。そんな場所に戻りたくない…あの者達を見たくない…。
双燈院に着いた……着いてしまった…。
見たくない。見たくない。こんなの…見たくないっ。
歯を食いしばって見ることしができない…。
僕は…何もできない…。
クリス…ホルム…スカラン…ザジ…――――ワキム…。
どれも…見せしめの様に吊るされていた。
「これは、主を誑かそうとした者の末路なのです。」
「私らめは、そんなゴミ同然の者達を粛清しなければいけません。」
全てが終わっていた…。もう誰一人として、死んでほしくなかった人が…。
新生ヨハネと言っていた男の隣に、異端審問官がいる。こいつらグルだった…。もう…僕が知っているヨハネ教は、跡形もなく消えている。
「次は、教皇にお会いしましょうか。教皇様は、お優しい方でよ。私に慈悲を与えてくださった、偉大なる人です。…あ、主様も偉大な人ですよ。」
「まさか…教皇は、変わっ―」
「そうですとも。今日は、新しい教皇の誕生なのです。忌々しいジャン=マルクを殺してからは、まぁ計画が、トントンに進みました。私らめを元気づけたのは主のおかげです。見てください、教皇を。」
僕が憂いを抱く時間さえ与えてくれなかった…次々に衝撃的な情報が耳の中に入る。レオポルドが指差す方を見ると、老人が見慣れた教皇の服を着ていた。こちらに近づいて来る。
「主よ…初めてお会いでき、光栄です。」
「儂の名前は、ボルトロードでございます。深き、深きと感謝と繁栄を…。それと7歳になられておめでとうございます。儂らは、この時を深く、深くと切望しておりました。」
もう話が入ってこない………僕は、期待を込めながら、また瓦礫に目を移す。………誰も生きていなかった…。
「おっとと、そちらに目をやられては駄目ですぞ主よ。あの者らは―」
「それは、私めが言いました。」
「おお。そうか。なら話が早い。」
「儂はの、主の誕生日に出席したかったのだよ。なので、誕生日プレゼントを持ってきた。主が、あの者らに与えられなかった物をプレゼントしてあげよう。気になるか?。」
「気に…ならない…返して……友達…返して…ナーシャとクリス…返して…返して…。」
「これは、可哀想に…もう既に奥深くと毒されたのですね。儂が、その心を救ってあげましょう。」
「レオポルド、やれ。」
教皇が、そう告げるとレオポルドは、僕を気絶させた。
一瞬にして意識がなくな―。
「困ったものだな。随分と懐いていやがった。」
「教皇よ、本当に殺すのですか?」
「人を殺すのは、いとも簡単だ。煮ごこりの如く脆くて崩れやすい。そして殺された者は、扱いやすい。」
「下準備はできているよな?レオポルド。」
「言われなくても、とっくに準備できてます。」
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