第ニ話 僕は、心を良心に作られる。
神とは、⬛︎の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎である。
神は、存在しなければならない。
必ずは、この世に存在しないと、いけない。
【187年11月24日】
―名もない子は3歳になった。
3歳になっても…名前は与えられなかった。彼の呼び名は、主…それだけだった。
「パパー。にひぃ」
「パパですよー。たかーいたかーい。」
「ずいぶん大きくなったなぁ。」
パパと呼ばれた者は、ジャン=マルクと言う。
見た目は、40歳前後の人間だ。焦げ茶色の髪で、所々に白髪が混じっている。オールバックがよく似合っており、顔立ちはキリっとしてる。顎には整えられた髭、レッドアイに左眉に古い縦傷の跡がある。黒い聖職者服。袖口や裾は使い込まれている。肩には枢機卿の地位を示す、控えめな赤い刺繍。腰には実戦用の短剣とレイピアだ。使っている武器ブランドは、葬儀社製の武器。静かなる婚礼と致命的な円舞曲。装飾よりも実用性を重視。手袋は片方だけ外していることが多い。赤子に触れるとき、鎧や冷たい手袋で怖がらせないために。血で汚れた手を見せない為に。
去年まで大司教だったジャンは、枢機卿にまで、登り詰めて、聖騎士の役職にもなった。そして一昨日から正式に育神官になられた。
「パパはねー。仕事に疲れてクタクタだよー。」
「パパ、ボロボロ、。」
「ここ周辺に入って来た悪魔を2体退治してたんだ。一人でやったから、とても手こずったよ。」
「おたいじしたの?」
「今日はね、外骨格の人型だよ。」
「この歳にもなって、肉体戦を覚えないと、外骨格型を倒すのに一苦労するんだ。」
「パパ、つづき、つづき、」
「はい。主よ。待っててくださいね。」
ジャンは、途中まで読んでいた絵本を取り出した。王の中の王。この絵本は、どことなく突然現れた主人公のエルヴィンが平等の大地を築き上げて、数々の奇跡を起こす。煙の民を率い、国民の不満を聞き、王が皆を幸にする内容だった。
「―そして、エルヴィン王は、王の中の王と、国中に広まり、忙しい毎日がやって来ました。エルヴィン王は、苦笑いをするも、民の為に全力で幸せを届けましたとさ。」
パチパチ。
「王様なる。」
「お、こんな人になりたいのか?」
「うん。なれる?。」
「…主なら簡単になれるよ。」
「なったら、マムキャンディ、まいにち食べる。」
「良い光だね。だけど毎日は、健康に悪そうだな。」
「つぎは、このほん。」
「はいはい。どれどれー。」
ジャンは、純白の王子様の絵本を読み聞かせする。
「ある所に、純白の肌を持った男の子が居ました。ですが、その男の子は、記憶がありません。そんな所に、ある人が来ました。それは王様です。その王様の肌は、男の子のように、純白の肌をしていません。灰人の肌や、人間の肌の色など、どれも当てはまる肌色ではありませんでした。純白の肌を待つ男の子は、王様に無礼な態度を表しました。王様はそれを見て笑い――そして、純白の肌を持った男の子は、王様のお陰で王子様になられましたとさ。」
「終わり。」
「そのあと、なにしたの?。」
「……王子様はね。貪欲に忠実になられたのだよ。」
「よいこと?」
「良くはないけど、彼にとっては必要な事だったよ。されど、王様になっても…貪欲に生きないでね。皆んなを幸せにできなくなるから。」
「みんな、しあわせにする。」
「それじゃあ、王になる為に勉強しようか。今から文字の勉強だよ。」
「あーい。」
ジャンに読み書きを教えてもらい、名もない子は、一度見ただけで聞いただけで瞬時に覚えた。学習能力が高く、ジャンに関心してもらう。
ジャンも嬉しかっただろう。ヨハネ教を支えてくれる人柱が、こんなにも覚えが早く、頼れる存在にならると、信じられるから。
【188年5月27日】
ジャン=マルクは、名もない子に、神についての心得を教える。もう、神の器を作れる年だ。この年から理想の神について、教えを説けば、自然に形変わるだろう。
「主は、皆を救うための道であります。なので、主は、道を踏み外さないでください。貴方様は、誰に対しても優しくあり続け、誰も見捨ててはいけません。弱い人でも側で寄り添ってあげてください。嫌な事をされても、相手が敵でも、復讐をすることなく、愛してください。人がどんなに失敗しても、罪を犯しても、主として赦し愛すのです。誰もが、愛されるべき存在であり、見返りを求めてず、無条件なる愛を注ぐのです。目の前に現れる全ての人を愛してあげてください。主よ。」
「それが貴方様の、主としての道です。」
「主、たいへん?」
「…大変ですね。疲れることは沢山あるでしょう。無理をすることもあるでしょう。この世界は、優しい無関心に溢れています。
「幸せできる?」
「主が、無条件の愛を注がれる人にならばできます。優しい無関心な心を持ってはだめです。この心は、人を愛する力を消滅させ、誰も愛することができなくなります。」
「やさしいむかんしん?」
「何ひとつ愛がない、冷たさの優しさです。ですから主は、皆に愛を与えてあげてください。」
「パパ、きて。」
名もない子は、両手を広げてハグのポーズを取った。ジャンは、微笑みながら優しく抱きしめた。
【188年12月9日】
―名もない子は4歳にもなった。
実は、名もない子は、誰一人として同年代と会ってはいない。全て、大人達と4年間も過ごしていた。
「パパ、友達欲しい。」
「友達かぁ。…友達ねぇ。友達を作る時は、人数じゃなくて、誰と過ごすのかが大事だよ。」
「いっぱい友達いた方が良く思う。」
「絵本は、友達、多ければ楽しそう。」
「友達、沢山、作れば幸せ。」
「………それも一理あるけど。」
「パパはね…。一ヶ月前に、友達に裏切られたんだ。今でもショックで…この気持ちは、とても暗いんだ。」
「なんで、裏切られた?。」
「なんで裏切られたと思う?」
「うーん。…………分かんない。」
「意地悪な問題をしたな。」
「理由は言えないが、理想を求めたのさ。」
「はいち?それって凄いの?」
「とても凄いよ。彼が唯一の生き残りだからね。」
「理想を背負いながら、孤独に戦い。仲間の重さを剣に宿した…誰よりも剣は重く、勇猛果敢で、厳格で忠実な最強の騎士だった。彼を言葉で表すなら、希望と勇敢に相応しいぐらいに。」
「悪い人には思えない。」
「僕も表して。」
「主を言葉で表すと、切望と光明です。主は、皆なの主であり、ヨハネ教を導いてあげる偉大なる存在です。ですが、皆んなの期待に応えようと無理しなくても良いのです。」
「『僕』を表して。」
「さようですか。すみません。」
「主を言葉で表すなら…表すなら…俺には言えません。また機会があれば、言ってあげます。」
「パパ、また、ごまかす。」
「ごめんなさい。言えない事を、どうか許してください。」
「その人、次は、敵?」
「敵にはならない。決して。」
「主は、覚えられる歳ではなかったが、いつも隣で守ってくれた人だよ。また…いつか、その人に会うことはあるだろう。その者の名前は―。」
「―ですので、次に会う時は、敵同士ではありません。警戒なさなくとも十分です。もう暗くなりましたし、寝ましょうか。」
「主よ来てください。」
「ほんとだー。パパみたい、暗い。」
「あは…。俺の心は、そこまで暗くないですよ。」
「パパ、いつ友達できる?。」
「…………主が、もうちょっと大きくなるまでです。それまで我慢強く待っててください。待つことは、重要ですから。」
「ぅぅん。分かったぁ。」
ジョン=マルクは、名もない子をベットの上で横にならせて、毛布をかけた。蝋燭の火は消さないまま、名もない子を見守るように、椅子に腰をかけてた。そして、互いが寝た。その扉の向こうには、二人の聖騎士が護っていた。
閉ざされた部屋は、スヤスヤと寝息だけが聞こえていた―。
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