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第六話 武門の屋敷

 クルシュナ家の屋敷は、王都の北側にあった。


 ラ・ギーズ家の屋敷が古い優雅さを残しているのに対し、クルシュナ家は重かった。

 門は黒い鉄で、壁は灰色の石。

 庭には花よりも刈り込まれた低木が多く、窓は大きいのに、光が中へ入る前に礼儀を問われているようだった。


 クラリッサは馬車の窓からそれを眺め、鼻を鳴らした。


「趣味が悪いですわ!! まるで要塞!」


 向かいに座っていたジャン=バティスト・ド・シャトノワは、眠そうに目を開けた。


「……貴族の屋敷だよ」


「わたくしには、敵を迎える準備に見えます」


「君はだいたい、どこへ行っても敵を作るからね。屋敷側の用心かもしれない」


「ジャン、あなたは少しわたくしに冷たいですわ」


「長年の経験で、ちょうどいい温度を覚えただけだよ」


 ジャンが同行しているのは、王宮の仕事ではなかった。


 彼の本業は王宮記録局の文官である。

 だが、今日もここにいるのは、やはりベランジェに頼まれたからだった。


「ジャン様」


 モルガナが言った。


「本日も、お手数をおかけいたします」


「モルガナさんが丁寧に言う時は、たいてい面倒が大きくなるんだよなあ」


「今回は、まだ始まっておりません」


「始まる予定はあるんだね」


「お嬢様が同席なさいますので」


「否定できないのがつらい」


 クラリッサは不満そうに二人を見た。


「わたくしを挟んで、勝手に不穏な相談をしないでくださる?」


「不穏なのは相談ではなく、君だ」


「ジャン」


「わかった。黙る」


 馬車が止まった。


 扉が開き、冷えた石の匂いが入ってくる。

 クルシュナ家の家令が、まるで兵の点呼を取るように一礼した。


「ようこそ、ラ・ギーズ伯爵令嬢。シャトノワ殿。モルガナ殿」


 クラリッサは微笑んだ。


 外面だけは、非常に美しい。


「本日はお招きいただき、光栄ですわ」


 ジャンが横で低く言った。


「その調子で最後まで頼む」


「わかっておりますわ」


「君の『わかっている』は、信用ならないんだよなあ」


「ジャン!」


「はいはい、もう何も言いませんよ」


 広間へ案内される途中、クラリッサは屋敷の中を見回した。

 壁には剣、盾、古い軍旗が飾られている。

 肖像画の男たちは、どれも口を固く結び、見る者に何かを命じているようだった。


「この家の絵は、どれもわたくしを叱っている気がしますわ」


 モルガナが小声で返す。


「心当たりが多いからでございましょう?」


「少しは否定なさい! どっちの味方ですの?」


「肖像画に嘘はつけません」


 やがて、食堂の前で一人の青年が待っていた。


 ラドヴァン・ド・クルシュナ。


 背が高く、肩幅が広い。

 黒に近い茶色の髪を短く整え、濃い灰色の礼服を着ている。

 顔立ちは整っていた。

 だが、その整い方にも規律があった。

 笑う時でさえ、どこまで口角を上げるべきかあらかじめ決めているようだった。


「クラリッサ嬢」


 彼は一礼した。


「お会いできて光栄です」


「こちらこそ」


 クラリッサは礼を返した。


 ラドヴァンの目は、彼女を上から下まで見た。

 失礼なほどではない。

 しかし、見られているというより、確認されている気がした。

 まるで、受け取った品が注文通りか確かめているような目だった。


 クラリッサは、そこでもう少し嫌になった。


「ジャン」


 小声で呼ぶ。


「……」


「ジャン!!」


「まだ早いよ……ついたばかりじゃないか」


「まだ何も言っておりませんわ!!」


「何か言うための呼び方だった」


「人を勝手に読みすぎですわ」


 ラドヴァンは、二人のやり取りを見て少し眉を動かした。


「シャトノワ殿とは、親しいのですね」


「幼なじみですわ」


 クラリッサは当然のように言った。


「ジャンは、昔からわたくしの後始末が得意ですの」


 ジャンは額を押さえた。


「なんて紹介だ」


 ラドヴァンは淡く笑った。


「なるほど。信頼できる方が近くにいるのは、良いことです」


 その言い方は丁寧だった。


 だがクラリッサには、どこか引っかかった。


 言葉は優しいのに、置き場所を決められた気がした。


 彼女は黙った。母との約束を思い出したからである。

 黙って観察。

 非常に難しいが、今日はまだ始まったばかりだった。


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