第二十五話 それでもわたくしも似合っていますわ!!
王宮からの帰り道、クラリッサは馬車の中で腕を組んでいた。
髪からリボンがなくなったので、いつもより少し顔まわりが軽く見える。
本人はそれが少し不満らしく、何度か髪に触れていた。
「わたくしのリボン、殿下に差し上げてしまいましたわ」
ジャンは言った。
「自分でやったんだろう」
「そうですけれど」
「惜しいのかい」
「惜しいですわ。あの青は、わたくしに似合っておりましたもの」
「王女殿下にも似合っていたじゃないか」
クラリッサは少し黙った。
「ええ」
そして、そっぽを向いた。
「まあ、殿下の方が少しだけ似合っていたかもしれませんわ」
モルガナが静かに言った。
「お嬢様が他人の方を上と認めるとは、青いリボンにも功徳がございましたね」
「功徳?」
「ありがたい働き、という意味でございます」
「知っていますわ。その言い方が嫌なのです」
ジャンは窓の外を見ていた。
「ジスラン・ド・モーヴリニーは、厄介だね」
「でしょう?」
「君の感覚は、今回は早かった」
「今回は?」
「毎回早いけど、今回は特に」
クラリッサは少し得意げになった。
「彼は、何がいけないのでしょう」
「大声で何かを奪うわけじゃない。命じるわけでもない。セラフィーヌ殿下が自分で選んだように見える形で、選択肢を狭めている」
「嫌ですわね」
「かなり嫌だ」
ジャンは珍しく、はっきりと言った。
クラリッサは彼を見た。
「あなたがそう言うなら、本当に嫌な方ですわね」
「僕が言わなくても、君は嫌だと思っただろう」
「ええ。でも、ジャンが言うと報告書になりそうで信用できます」
「褒められている気がしない」
「褒めていますわ」
モルガナが言った。
「お嬢様にしては、かなり褒めておいでです」
「僕も功徳を積んだのかな」
「もう少しです」
「まだ足りないのか」
クラリッサは馬車の小窓から、遠ざかっていく王宮を見た。
白い壁。
高い窓。
そこにまだ、青いリボンをつけた王女がいる。
「ジャン」
「何だい」
「殿下は、大丈夫かしら」
ジャンはすぐには答えなかった。
馬車が橋を渡る。下の水路に夕方の光が揺れていた。
「大丈夫ではないかもしれない」
彼は言った。
「ただ、今日のことで少しは変わるかもしれない」
「少し?」
「リボン一つ分くらい」
クラリッサは不満そうな顔をした。
「少なすぎますわ」
「でも、ゼロではない」
その言葉に、クラリッサは黙った。
指輪も、椅子も、詩も、手袋も、リボンも。
どれも小さい。
けれど、小さいものが人を粗末にするなら、小さいものが人を少し救うこともあるのかもしれない。
クラリッサは、髪にない青いリボンの位置に、もう一度だけ手をやった。




