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第二十三話 ジスラン・ド・モーヴリニーという男

 王宮は、ラ・ギーズ家の古い屋敷とも、クルシュナ家の石のような屋敷とも、リュザンクール家のサロンとも違っていた。


 広い。


 白い。


 そして、人の目が多い。


 磨かれた床に窓からの光が反射し、柱の影が長く伸びている。

 壁には王家の歴史を描いた大きな絵が掛けられ、廊下の奥では近衛兵が動かずに立っていた。

 侍女たちは静かに歩き、文官たちは書類を抱え、貴族たちは声を落として笑っている。


 すべてが、美しく整えられている。


 整いすぎている。


 クラリッサは、自然と背筋を伸ばした。


「王宮は、いつ来ても肩が凝りますわ」


 ジャンが横で言った。


「肩だけで済むならいいんだけど」


「どういう意味?」


「ここでは、軽い言葉が重く扱われるからね」


「わたくしの言葉が重く?」


「君の言葉は、普段から重いというより、強いんだよ」


 モルガナが続けた。


「お嬢様。王宮では、投げる前に一度お手元をご確認くださいませ」


「わたくしを石投げの子供のように言わないで」


「石よりよく飛びますので」


 案内されたのは、王女の私的な小広間だった。


 窓辺には薄い白の帳が下り、低い卓には菓子と茶が置かれている。

 広間というより、室内の庭のようだった。

 花は少ない。香りも控えめ。けれど、椅子の布地や小さな花瓶に青が使われている。


 セラフィーヌ・ド・ヴォークラン王女は、その青の中に座っていた。


 彼女は、淡い金の髪を後ろでゆるくまとめ、白に近い水色のドレスを着ている。

 顔立ちは華やかではない。

 だが、目元に静かな美しさがあった。

 春の朝に、まだ誰にも踏まれていない雪を見つけた時のような、頼りなさと清らかさがある。


「クラリッサ様」


 王女は立ち上がった。


「来てくださって、ありがとうございます」


 クラリッサは深く礼をした。


「殿下のお招きですもの。喜んで参りましたわ」


 王女の目が、クラリッサの髪に留まった。


 青いリボン。


 その瞬間、セラフィーヌはほんの少し微笑んだ。


 本当に少しだけ。


 だが、それはクラリッサにもわかった。


「つけて来てくださったのですね」


「ええ。似合うでしょう?」


 ジャンが横で低く言った。


「そこは、殿下への返事として少し強い」


 セラフィーヌは小さく笑った。


「ええ。よくお似合いです」


「ほら、ジャン」


「王女殿下を味方につけないでくれ」


 王女はジャンにも挨拶した。


「シャトノワ様も、ようこそ」


「お招きいただき、光栄です。私は付き添いですので、どうぞお気遣いなく」


「クラリッサ様の付き添いは、大変でしょう」


 ジャンは一瞬だけ言葉に詰まった。


 クラリッサが即座に言った。


「殿下、ジャンは昔から慣れておりますわ」


「慣れていることと、楽であることは違う」


 セラフィーヌはまた、少しだけ笑った。


 その笑い方を見て、クラリッサは心の中で少し安心した。


 王女は、まだ笑える。


 ただ、どこか疲れている。


 その時、扉の外で控えめな声がした。


「ジスラン・ド・モーヴリニー様がお見えです」


 セラフィーヌの指が、わずかに膝の上で動いた。


 クラリッサはそれを見た。


 青いリボンの時と同じくらい、小さな動きだった。


 扉が開く。


 ジスラン・ド・モーヴリニーが入ってきた。


 彼は王宮に似合う男だった。


 背は高すぎず、低すぎず、服装は華やかすぎず、地味すぎず、声は大きすぎず、小さすぎない。

 すべてがちょうどよかった。

 ちょうどよすぎて、かえって人の形をした規則のように見える。


 年齢は三十に近いだろう。

 クラリッサよりかなり年上で、セラフィーヌよりももちろん上だった。

 目は薄い灰色で、笑う時もその奥があまり動かない。


「セラフィーヌ殿下」


 ジスランは深く礼をした。


「本日もお招きいただき、光栄です」


「こちらこそ、モーヴリニー様」


 王女は静かに答えた。


 それから、クラリッサたちを紹介する。


「こちらは、クラリッサ・ド・ラ・ギーズ様。こちらはジャン=バティスト・ド・シャトノワ様。そしてモルガナ」


 ジスランは順に礼をした。


「ラ・ギーズ嬢のお名前は、よく伺っております」


 クラリッサは微笑んだ。


「まあ。良い噂ですの?」


 ジャンが小声で言った。


「絶対聞かない方がいい」


 ジスランは穏やかに笑った。


「たいへん率直な方だと」


「便利な言い方ですわね」


「悪い意味ではありません。王宮では、率直さは貴重です」


「王宮では、という言い方が少し怖いですわ」


「怖がる必要はありません」


 ジスランの声は柔らかかった。


「ただ、言葉には置き場所があります。どこへでも置けばよいものではありません」


 クラリッサは、少しだけ目を細めた。


 椅子の時と似ている。


 置き場所。


 また誰かが、何かの場所を決めようとしている。


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