第二十話 王宮からの手紙
夕方、ヴラニェク家へ送る返書の文面が整えられた。
ベランジェは疲れ果てていたが、今回は泣かなかった。
少しだけ強くなったのかもしれない。
あるいは、疲れすぎて涙も出なかったのかもしれない。
その時、また家令が現れた。
ベランジェの顔が、はっきりと怯えた。
「まさか」
家令は深く頭を下げた。
「王宮より、お手紙でございます」
その場の空気が変わった。
クラリッサも、さすがに背筋を伸ばした。
「王宮?」
オルタンスが封蝋を見る。
「ヴォークラン王家の封蝋ね」
ベランジェは震える手で封を切った。
読み進めるうちに、彼の表情は青ざめるというより、白くなった。
「セラフィーヌ・ド・ヴォークラン王女殿下より……クラリッサ宛てに、茶会への招待だ」
クラリッサは目を瞬いた。
「セラフィーヌ殿下から?」
ジャンは少しだけ眉を寄せた。
「珍しいね」
モルガナが静かに言った。
「王女殿下は、以前からお嬢様にお心を寄せておいででした」
「わたくしに?」
クラリッサは、少し得意そうな顔をした。
「まあ。当然かもしれませんわね」
モルガナが即座に言った。
「今の一言で、当然から少し遠ざかりました」
ベランジェは手紙を読み終えた。
「王女殿下の婚約に関する内々の茶会らしい。相手は……ジスラン・ド・モーヴリニー」
ジャンの顔が、少しだけ真面目になった。
「モーヴリニー家か」
「知っておりますの?」
クラリッサが聞いた。
「王宮に近い家だ。礼儀正しく、慎重で、評判も悪くない」
「また評判ですの」
クラリッサは小さく言った。
それから、手紙を受け取った。
紙は美しく、文字は控えめだった。香りはほとんどない。だが、文面の最後に、小さくこう書かれていた。
――できれば、青いリボンをつけて来てください。
クラリッサは首を傾げた。
「青いリボン?」
モルガナが少しだけ目を細めた。
「王女殿下のお好きな色でございます」
ジャンは言った。
「今度は君の婚約ではない」
「ええ」
クラリッサは手紙を見つめた。
「でも、何か嫌な予感がしますわ」
ジャンはため息をついた。
「君の嫌な予感は、最近よく当たるから困る」
クラリッサは胸を張った。
「わたくしの目は高価ですもの」
モルガナが静かに言った。
「お口の方は、もう少し安くしていただきたいものです」
クラリッサ・ド・ラ・ギーズの四度目の縁談は、白い手袋一つで終わった。
そして次の騒ぎは、彼女自身の婚約ではなかった。
青いリボンを結んだ王女が、静かに助けを求めていた。




