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第二話 腐れ縁の幼馴染は苦労している

 シャトノワ家とラ・ギーズ家の付き合いは古い。


 主従ではない。


 シャトノワ家はラ・ギーズ家の家臣ではなかったし、ラ・ギーズ家も彼らを使用人のように扱ったことはなかった。

 けれど、古い伯爵家には、古い紙が多い。

 領地の境界、婚姻契約、持参金の証書、王宮へ提出する家門記録。

 そういう、読み間違えると十年後に祟る書類を前にすると、ラ・ギーズ家は昔からシャトノワ家を頼った。


 ジャン=バティスト・ド・シャトノワは、そのシャトノワ家の息子だった。


 今では王宮記録局に勤める文官である。

 仕事は地味だが、書類を読む目は確かだった。

 本人は出世に興味が薄く、できれば定刻に帰り、温い茶を飲み、誰の人生にも深く関わらずに済ませたいと思っている。


 もちろん、人生は本人の希望をあまり尊重しない。


 特に、クラリッサ・ド・ラ・ギーズが近くにいる場合は……


 その日、ジャン=バティストは王宮の命でラ・ギーズ家に来たわけではなかった。

 ベランジェから、ヴォルブリュック家との婚約契約書と持参金条件を見てほしいと頼まれていたのである。


 古い家同士の付き合い。


 父の代からの縁。


 幼なじみの家の頼み。


 こういうものは、命令よりも断りにくい。


 ジャン=バティストは、それをラ・ギーズ家で何度も学んでいた。


 彼が控えの間で契約書を読んでいると、扉が勢いよく開いた。


「ジャン!」


 クラリッサが入ってきた。


 彼を親しい者だけが、ジャンと呼ぶ。

 もっと正確に言えば、彼女は幼い頃から当然のようにそう呼んでいた。

 ジャン=バティストが何度か訂正を試みたこともある。

 しかし、クラリッサにとって訂正とは、相手が余計な抵抗をした記録でしかなかった。


「やっぱり来ていましたのね」


 ジャンは顔を上げた。


「来ていたよ。君のお父上に頼まれたからね」


「では、ちょうどいいですわ。今日、わたくしに何かあったら助けなさい」


「僕は婚約契約書を見に来ただけだ」


「同じことです」


「かなり違う」


「わたくしの婚約に関することですもの」


「君は昔から、物事の分類が乱暴だ」


 クラリッサは彼の手元の書類を覗き込んだ。


「何かわたくしに不利なことは書いてありまして?」


「不利というほどではない。持参金の支払い時期、宝飾品の所有権、婚約破棄時の返還条件。普通の範囲だね」


「婚約破棄時?」


 クラリッサの目が光った。


「そこを詳しく」


「詳しくしなくていい。今日は破棄しない予定だから」


「予定は変わるものですわ」


「変えない努力をしてほしい」


 そこへ、モルガナが入ってきた。


「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」


「今行きますわ」


 クラリッサはジャンを振り返った。


「ジャン、すぐ近くにいるのよ」


「契約書のためにはね」


「わたくしのためでもよろしいですわ」


「君は昔から、自分と書類を同じ箱に入れたがる」


「わたくしの方が書類より美しいでしょう」


「扱いづらさは同じくらいだ」


 モルガナが静かに言った。


「書類は燃やせば片づきます」


「モルガナ」


「失礼いたしました。言葉の上だけでございます」


 ジャンは小さく息を吐いた。


「僕は今日、平穏な仕事を望んでいる」


 クラリッサは優雅に微笑んだ。


「望むのは自由ですわ」


「それを君に言われると、絶望に近い」

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