第十八話 慈善家の顔
茶会は、つつがなく始まった。
少なくとも、最初は……
ミロシュは、非常に如才なかった。老婦人には椅子を勧め、子供には膝を折って目線を合わせ、寄付をする貴族には感謝を述べ、召使いにも柔らかく声をかける。
どこを見ても、善い人である。
善い人すぎて、クラリッサは落ち着かなかった。
「ジャン」
「まだ早い……まだ早いよ……」
「まだ何も言っておりません!」
「言うための息を吸った」
「あなた、わたくしの呼吸にまで口を出すの?」
「被害を減らすためなら何だってしたい」
クラリッサは少し離れた場所で、ミロシュが子供たちに菓子を配っているのを見た。
小さな女の子が、籠から焼き菓子を一つ受け取る。
ミロシュはその子の頭に軽く手を置き、優しく微笑んだ。
周囲の夫人たちが感嘆する。
「なんてお優しい」
「ヴラニェク様は本当にご立派だわ」
「若いのに、よく貧しい者たちへ心を砕いておられる」
クラリッサは、その言葉を聞きながら、少し首を傾げた。
何かが引っかかる。
ミロシュは、子供の手を取った。
その子の手は少し汚れていた。庭で遊んだのか、爪の間に土が入っている。子供は緊張しているのか、ミロシュを見上げて小さく笑った。
ミロシュは、その手を両手で包み、優しく頷いた。
その場面は絵になる。
とても絵になる。
絵になりすぎるほどだった。
そして、その直後だった。
ミロシュは子供から離れ、召使いに視線だけを送った。
召使いはすぐに近づき、銀の小盆を差し出す。
盆の上には、新しい白い手袋が置かれていた。
ミロシュは、先ほど子供の手を取った手袋を外し、新しいものに替えた。
ほんの一瞬。
ほとんど誰も気づかないほど自然だった。
だがクラリッサは見た。
指輪の削り跡を見つけた目で。
半歩後ろの椅子を見つけた目で。
名前のない詩を読み直した目で。
彼女は、ミロシュの白い手袋を見た。
「ジャン」
クラリッサの声が低くなった。
ジャンはすぐに彼女を見た。
「何か見たね」
「あの方、手袋を替えましたわ」
「手袋?」
「子供の手を取ったあとに」
ジャンはミロシュの方を見た。
白い手袋は、もう新しくなっている。先ほどまでのものは、召使いが盆に載せて下げようとしていた。
「汚れたからかもしれない」
「そうですわね」
クラリッサは言った。
「汚れたと思ったのでしょうね」
ジャンは黙った。
その言い方で、彼にも意味が伝わったらしい。
モルガナも横から、静かに見ていた。
「お嬢様」
「何かしら」
「まだ言葉にしない方がよろしいかと」
「なぜ」
「言葉にすると、戻せません」
「戻す気があるかどうかは、まだわかりませんわ」
クラリッサはミロシュを見つめた。
彼は、また別の子供に菓子を渡している。
笑みは柔らかい。姿勢は低い。言葉も優しい。どこからどう見ても慈善家だった。
ただ、その手袋だけが白すぎた。




