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第十五話 慈善家アレルギー

 ミロシュ・ド・ヴラニェクという名は、王都では評判がよかった。


 評判がよい、というだけでクラリッサ・ド・ラ・ギーズは少し身構えた。


 評判というものは、焼き菓子の粉砂糖に似ている。

 上から白く降りかければ、焦げたところも多少は隠れる。

 もちろん、本当に良い菓子もある。だが、焦げを隠すために白くされているものもある。


 クラリッサは、それを経験で知っていた。


 指輪。椅子。詩。


 このところ、彼女の縁談はどれも、見た目だけは綺麗だった。


 そして、だいたい中身が面倒だった。


「慈善茶会ですって」


 クラリッサは朝の食卓で招待状を眺めながら言った。


「善いことをするために茶を飲むのですか。ずいぶん便利ですわね」


 ベランジェ・ド・ラ・ギーズは、もう娘の言葉に一つ一つ驚く力を失っていた。


「クラリッサ。ミロシュ殿は本当に評判のよい方だ。孤児院にも寄付している。施療所にも支援している。昨年の洪水の時には、被災地へ食料を送ったとも聞く」


「それは立派ですわ」


「ならば、なぜその顔をする」


「立派すぎるからですわ!!」


 ベランジェは匙を止めた。


「立派すぎる?」


「ええ。善人すぎる方の隣に立つと、わたくしが悪人のように見えるではありませんか」


「またか……」


「重要なことですわ」


 モルガナが、背後で水差しを置いた。


「とはいえ、比べる相手が立派すぎますと、お嬢様が不利なのは事実でございます」


「そこは否定してほしいですわ」


「無理に否定すると、嘘が大きくなりますので」


 クラリッサは不満げに頬を膨らませた。


 オルタンス・ド・ラ・ギーズは静かに紅茶を飲んでいた。

 彼女は、娘の縁談が三度続けて破談になったにもかかわらず、表向きの落ち着きを保っている。

 だが扇の数は確実に減っていた。

 ラ・ギーズ家の備品の中で、いま一番犠牲になっているのは母の扇だった。


「クラリッサ」


 オルタンスは言った。


「今回は、相手の善行を笑うような真似はなさいませんように」


「笑ってなどおりません」


「顔が笑っていました」


「これは警戒ですわ」


「警戒と侮りは、あなたの顔ではよく似ます」


 ベランジェが慌てて間に入った。


「今回は、ジャン君にも同行してもらう」


 クラリッサは予想していたように頷いた。


「でしょうね」


 モルガナが言った。


「お嬢様の縁談には、もはや火消し役が必要でございます」


「わたくしは火事ではありません」


「火元でございます」


 ベランジェは弱々しく咳払いをした。


「ジャン君には、ヴラニェク家の寄付事業と、今回の縁談条件について少し見てもらう。ミロシュ殿は評判が良いとはいえ、前回までのこともある。念のためだ」


「お父様」


「何だ」


「最近、わたくしよりジャンを信用していませんこと?」


 ベランジェは沈黙した。


 オルタンスも沈黙した。


 モルガナも沈黙した。


 沈黙というものは、時にたいへん雄弁である。


「誰か否定なさい!」


 クラリッサは叫んだ。


「お嬢様」


 モルガナが静かに言った。


「信頼は、積み重ねでございます」


「わたくしだって積み重ねておりますわ」


「破談を」


「モルガナ!」

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