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第十四話 四度目の正直……

 ラ・ギーズ家へ戻ると、ベランジェはすでに青ざめていた。


 まだ何も聞いていないのに、青ざめていた。


 経験とは、人を賢くもするが、弱くもする。


「クラリッサ」


「お父様」


「どうだった」


「詩に名前がありませんでしたわ」


 ベランジェは目を閉じた。


「今度は、名か」


 ジャンが後ろから言った。


「同じ詩を複数の令嬢に送っていたようです」


 ベランジェは目を開けた。


「それは……」


「騒ぎになります」


 ジャンは淡々と言った。


「ただ、こちらが騒ぎを起こしたというより、向こうの不手際がサロンで露見した形です。リゼット・ド・フレルモン嬢とヴィオレーヌ・ド・クルセル嬢も同じ詩を受け取っていたので、ラ・ギーズ家だけの問題にはなりません」


 ベランジェは長椅子に座り込んだ。


「それは、良いことなのか悪いことなのか」


「あえて申し上げるなら、悪いことが分散した状態ですね」


「慰めにならない!」


「事実ですから、しょうがない」


 クラリッサは胸を張った。


「つまり、わたくしはまた正しかったのですわ!!」


 オルタンスが階段の上から降りてきた。


「その言い方をすると、正しさが目減りします」


「お母様」


「けれど、同じ詩を複数の令嬢に贈る男と婚約しなかったのは賢明です」


 クラリッサはぱっと笑った。


「では、今日は褒められたのね」


「今日は、という言い方がすでに危ういわね」


 モルガナが静かに言った。


「奥様、褒め言葉は小分けになさった方がよろしいかと。お嬢様は一度に与えると、すぐ舞い上がります」


「そうね」


「わたくしを砂糖菓子のように扱わないでくださいませ」


 ジャンは、またテーブルの端に座って記録を整え始めた。


「さて、どう書くか」


 クラリッサはすぐに寄ってきた。


「美しく書きなさい」


「三度目だね、それ」


「今回は名前の問題ですわ。とても詩的に書けるはずです」


「書類に詩情は不要だ」


「では何と書くの」


 ジャンはペンを持ち、少し考えた。


「婚約候補者による同一詩文の複数令嬢への送付、および個別性を欠く求愛表現により、縁談継続の意思なし」


 クラリッサは眉を寄せた。


「つまらないですわ」


「つまらない方が使える」


「では、欄外にこう書いて。愛の詩には名前を書け」


「欄外に書くなと言っている」


「でも、わかりやすいでしょう」


 ジャンは少し黙った。


 それから、小さく息を吐いた。


「わかりやすいのは認める」


 クラリッサは勝ち誇った。


「ほら」


「ただし、書かない」


「ジャン」


「絶対に書かない」


 モルガナが茶を置いた。


「ですが、お嬢様にしては、良い標語でございます」


「でしょう?」


「玄関には掲げないでくださいませ」


「なぜ?」


「来客が減ります」


 ベランジェが弱々しく言った。


「もう減っている気がする」


 その場に、短い沈黙が落ちた。


 誰も否定しなかった。

 

 何も言えるはずがなかった。


 そこへ、廊下から家令の足音が近づいた。


 ベランジェの肩が跳ねた。


 ジャンは目を閉じた。


 クラリッサは、さすがに少し身構えた。


 家令が扉を開ける。


「旦那様。新たなお手紙でございます」


 ベランジェは、ほとんど呻くように言った。


「今度は、どこだ」


 家令は封蝋を確かめた。


「ヴラニェク家でございます。ミロシュ・ド・ヴラニェク様より、慈善茶会へのご招待とのことです」


 モルガナが静かに言った。


「慈善家として名高い方でございますね」


 クラリッサは少し顔をしかめた。


「慈善家?」


 ジャンが目を開けた。


「嫌そうだね」


「善人すぎる方は苦手ですわ」


「なぜ」


「隣に立つと、わたくしが悪人のように見えるではありませんか」


 モルガナが即座に言った。


「見え方だけの問題ではございません」


「モルガナ!」


 ジャンは鞄を閉じた。


「慈善茶会か」


 彼は小さく呟いた。


「詩よりはましだといいけど」


 クラリッサ・ド・ラ・ギーズの三度目の縁談は、名前のない詩とともに終わった。


 そして四度目の災難は、白い手袋と、善意の笑顔を身につけて近づいてきた。


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