106.戦争しながら新人訓練
『にゃぁぁぁっ!?』
『ここどこっ!?』
『助けてぇっ!』
以上の叫びはすべて、猫巡視船の船長やパイロットの叫びだ。
葉巻型小型船がデブリ網を抜けて迎撃に現れた時点で動揺し、操縦を失敗する者が続出した。
「さ、サルくん。ここまで酷いとは思わなかったんだけど?」
「敵の小型船の攻撃は猫巡視船にはほとんど通じません。今は戦闘訓練のつもりで作戦を続行させましょう」
「先輩、いくらなんでも不味くないっすか? 猫巡視船の加速力と航続力も、猫攻撃機と変わらないっす。明後日の方向へ飛んだら戻れないっすよ」
◆ CAT PATROL BOAT ※通称「猫巡視船」
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:2 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ 葉巻型小型船 ※敵船
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:3 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:2
「そこは俺と猫の巣号を信用してください。エネルギー切れになる前に母港へ向かうよう遠隔操縦しています。指揮用の船としても素晴らしいですよ、猫の巣号は」
ただ居住性が高いだけでなく、大量のエネルギーが必要な即時通信を多用できるほどエネルギー容量が巨大なんだ。
その分、維持費や補給費用が高額ではあるが、今回に限らず、戦場でも戦場外でも非常に役に立つ船だ。
『ベリル。サル。今からトラクタービーム装備の高速船を設計するにゃ。……死んでも飛びっぱなしってのは、ヤな死に方にゃ』
母港のキンから、静かな声で連絡があった。
俺たちを責める意図がないのが、余計につらい。
「「……はい。ごめんなさい」」
改造を終えた猫の巣号に40隻も搭載して作戦を開始した俺たちは、失敗を認めて頭を下げていた。
◆ CAT'S NEST MK3(40/40) ※猫攻撃機20隻と猫巡視船20隻を搭載
船体:6 / 跳躍:3 / 航続:6 / 装甲:3 / 居住:5 / 船倉:1 / 兵装:4
☆
以前より事故の可能性が大きくなっているのは俺たちの失敗ではあるが、まだ致命的な失敗ではない。
致命的な事故は発生していないし、猫巡視船を任された船長とパイロットの成長は、爆発的といっても過言ではない。
「先輩を初めとする強力な自力センサー持ちからの手厚い支援を常時受けながら、攻撃力を除けば帝国の一線級の船を自由に動かしてるっす。これで成長しないなら最初から見込みがないっす」
スッスのコメントがかつてないくらいに辛い。
非番のときは『『『にゃあ』』』と鳴いて寝転んでいるか遊んでいるかの船長猫耳たちが、珍しく真顔で頷いているので、スッスの発言は事実なのだろう。
「範囲だけなら星系規模のデブリ網を20隻でなんとかしようとするのは、普通なら非常識なんだけどね」
「そこは設計と相性ですね。同格の船相手には歯が立たない代わりに、弱い相手には非常に強い船ですから」
猫の巣号に搭載された猫巡視船20隻のうち、現在飛行中の猫巡視船は14隻だ。
そのうち、攻撃中が7隻で、船長が『だいたいあのあたり』と指定した範囲にある膜型デブリや中身入りデブリを次々に破壊し、破壊しきれないときも衝撃で敵の意図していない方向へ押し流す。
半分以上自動で狙う兵器なので、多少狙いが甘くても問題ない。
撃ち出す弾は非常に小さいので、撃ち尽くすまでに攻撃できる回数が非常に多い。
そもそも、『棒』を使うような相手ではないのだ。
対空砲か、対空砲より少しだけ強力な砲で足りる。
(中身入りデブリを破壊するときは、自力センサー持ち抜きで戦う方がいいかもしれませんね)
巡視船パイロットに含まれる新人下僕や若手下僕(彼女たちは社員でもある)のことを考え、俺は精神の健康維持に対する補助を増やすよう、手配することを決めた。
「ところでスッス。サルくんとその距離でいいの? ブルネットお姉ちゃんにあとで殺されない?」
最近、スッスの距離感が近い。
ブルネットよりは遠いんだが、これで『男女の関係はない』という事実を言っても信用されない程度には近い。
『ベリルちゃん。私に対する誹謗中傷はやめてちょうだい。スッスのことは信用しているわ。ねえ、スッス?』
「はいっす! 奥方さまの信頼は裏切らないっす!」
「ねえサルくん。信用と信頼って違うよね? 人間関係だいじょうぶ?」
「母港に戻り次第、妻には埋め合わせをします」
母港の防衛をペットたちに任せきるのは非常に不安なので、優れた射手でもあるブルネットに残ってもらっている。
司令猫耳も信頼はできるんだが、母港と猫の巣号の間の輸送を担当してもらっているので、母港が手薄だったんだ。
『後5分で到着します』
その司令猫耳からの通信が届く。
艦隊の構成は、母港の防衛艦隊から猫巡洋艦が数隻、あとは傘下運送企業の分遣艦隊と猫輸送船が数隻だ。
1隻1隻が大きいので、猫の巣号に所属する40隻より迫力がある。
「猫の巣号の船倉、もっと大きくした方がいいのかな? 一日一回の大規模輸送が必要って、作戦が破綻してると思うんだけど」
「輸送せずに、弾やエネルギーが足りなくなるたびに母港に戻ってもいいと思うっすよ」
ベリルもスッスも今日は俺にきつい気がする。
戦争しながら訓練するという無茶のせいだろうか。
「にゃ」
「にゃ?」
『にゃー』
船長猫耳が休憩と出撃を自発的に繰り返している。
誘われてついていく下僕の足取りは非常に軽く、事情を知らなければデートと勘違いしたかもしれない。
「あれはもうデートと思うっすよ」
「ノーコメントということにさせてください」
集中して【見】なくても、葉巻型小型船が作業のように打ち落とされていくのが分かる。
猫巡視船に恐れられる葉巻型小型船も、攻撃のためにこっちに近付いたときは、盾となるデブリ網が『薄い』ため、猫攻撃機の『棒』のよい的になるのだ。
「サルくん。猫攻撃機だけで戦ったときと全然ちがうね」
「こういうのは相性ですよ。たとえば、今の、加速力が落ちた猫の巣号では、猫攻撃機の集団には勝てませんからね」
勝ち目があるとしたら、最初から全力で逃げて、猫攻撃機のエネルギー切れを狙うくらいだ。
加速力が違い過ぎて、勝率は2割を切ると思う。
「先輩、そろそろ交代の時間っす。なんかあったら起こすっす」
「はい。後はよろしくお願いします」
俺はベリルに対しても頭を下げてから、艦橋と同程度の防御が施された『自宅』へ向かう。
「ソファーベッドでいいと思うんですけどね」
「おっちゃん。立場考えて、立場」
「偉い人が質素な生活すると勘違いする人が出てくるよ?」
外部からの目がないときの拿捕猫耳たちの態度は、いつもこんなものだ。
「なるほど。では立場を利用していい生活を楽しみましょうか。皆さんも天然食をどうです?」
「「おっちゃんのとこの食事は味が薄いよ……」」
この評価も、昔から変わらない。
俺は楽しくなって、今日は少し濃いめの食事を用意することにした。
☆
「すみません、遅れました」
「まだ寝てても良かったっすよ」
10時間以上寝ていたことに気付いて慌てて艦橋に向かい、俺は平然としたスッスたちに出迎えられた。
俺とは体力が違い過ぎた。
「サルくん。デブリの追加が止まったみたい。中身入りのデブリの追加は半日前から止まってる」
ベリル陛下は、戦場の監視をスッスに任せて母港から送られてくる報告書に目を通している。
延髄からのケーブルを船に繋げてから【見】てみると、作戦開始前よりほんの少し密度が低下したデブリ網と、商業施設があった場所に『何もない』のが見えた。
【見】えたのはそれだけではない。
デブリ網に籠もった、蜂の巣を思わせる形状の機動要塞や葉巻型宇宙船とは別方向に、ゆっくりと減速中(ただし現在の速度は光速の3万倍はある)の艦隊が、それぞれ別の方向に3つ【見】えた。
「猫巡視船はデブリへの攻撃を中止して猫の巣号へ帰還して! 猫攻撃機8隻は敵機動要塞の移動を警戒して猫の巣号で待機! 残りの12隻はサルくんの指示に従って遠距離攻撃! 僕からは以上!」
「サルです。今から情報を渡しますので、下僕のみなさんと相談しながら狙いたい相手を……はい、承知しました」
猫耳と下僕たちの仕事が早い。
俺の体が衰弱したのと、彼女たちの技術が磨かれたのの、両方の影響だろう。
「陛下。敵の増援はなかなかの戦力のようです」
「最初の艦隊ほどじゃないけど、タキオン砲搭載艦が多いね。でも」
ふたり揃ってにやりと笑う。
「エネルギー残量に余裕はなさそうです。銀河輸送は挟み打ちにするつもりだったのかもしれませんね」
猫攻撃機12隻が、超遠距離攻撃を開始する。
限界まで加速した上で『棒』4本を撃ち、エネルギー残量が0になる前に猫の巣号へ戻って補給を受けるという、ある意味で原始的なやり方だ。
俺の自力センサーと船長猫耳の射撃技術があっても、ここまで距離があると簡単には当たらない。
決して安くはない『棒』が次々に撃ち出されても、命中するのは多くて10本中2本のみ。
なお、『棒』10本で1隻か2隻の特大船を破壊するのは、費用対効果が良すぎる。
「サルくん。何隻か、拿捕できそうな船あるかな?」
「銀河輸送の船についての情報は集まりましたし、拿捕可能な状態で漂流中のタキオン砲搭載船が現時点で2……今3隻になりました」
「はやく戦闘を決着させて猫ボートの艦隊を呼ばないとだね。デブリ網の方は?」
「先程から、敵機動要塞がデブリを破壊しながら猫の巣号へ向かって加速を開始しました。生き残りの葉巻型特大船と葉巻型小型船は、敵機動要塞を盾にしてこちらへ向かっています」
「んー。よし。待機中の猫攻撃機8隻は、最初の敵艦隊に攻撃開始!」
命令の直後に8隻が飛び立ち、十分な速度に達した瞬間に1隻につき4本の『棒』を放つ。
既にデブリの位置は正確に把握しており、中身入りデブリの数も激減している。
膨大な数のデブリの隙間を縫うようにして『棒』が直進し、敵機動要塞への衝突コースに載る。
もちろん敵機動要塞も無策ではない。
優れた射手あるいはAIによりタキオン砲が操作され、衝突する前の『棒』が少しずつ破壊され、吹き飛ばされる。
だがすべての『棒』ではない。
1本目の『棒』が分厚い新装甲に埋まって停止する。
消しきれない衝撃が新装甲に細かな亀裂を生じさせる。
2本目、3本目と命中する『棒』が追加され、やがて敵機動要塞から放たれるタキオン粒子の量が減り始める。
結局、命中したのは『棒』32本中6本。
敵機動要塞はタキオン粒子を放つためのエネルギーを賄うこともできなくなったが、他の船は無事だ。
敵機動要塞の陰から葉巻型小型船が飛びだした。
葉巻型特大船も、敵機動要塞の陰から姿を現してタキオン粒子で猫攻撃機を狙う。
が、既に猫攻撃機は飛び去っている。
敵前で減速することを避けたのだ。
『隙を見せたな!』
生き残りの葉巻型小型船が、猫の巣号に向かってさらに加速した。
明らかに減速のことを考えていない。
当たれば、猫の巣号もただではすまない。
「猫巡視船出撃。適当に遊んであげて」
ベリル陛下の命令に従い、猫巡視船20隻が出撃する。
乗組員の入れ替えをしたため疲労は軽微。
エネルギーより弾の補給を優先したため残弾も最大だ。
宇宙という巨大な空間にばら撒くデブリ網とは違い、命中率が10割近い攻撃は『非常に有効なデブリ』として機能する。
葉巻型小型船は撃破はされないものの、猫の巣号への接近を徹底的に妨害された。
「陛下?」
「弾は節約しないよ。拿捕で補うことに賭ける。敵に手加減して部下を失うのはヤだからね」
「資金が足りないときは俺の財布からも出しますよ」
笑顔は浮かべていても冷や汗を流しているベリルに、俺は尊敬を込めた目を向け、トーティのペットどものせいでずいぶん減った口座残額を知らせる。
その直後にベリルの顔色がすごく悪くなったのは、正直、見間違いだと思いたい。
◆ CAT'S NEST MK3(40/40) ※猫攻撃機20隻と猫巡視船20隻を搭載
船体:6 / 跳躍:3 / 航続:6 / 装甲:3 / 居住:5 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT JAVELINEER ※通称「猫攻撃機」
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:6
◆ CAT PATROL BOAT ※通称「猫巡視船」。自動機関砲を搭載
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:2 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ CREW
ベリル |司令Lv3-[借金Lv1]※これまでの作戦の経費を負担
サル |操縦Lv6+[衰弱Lv4]※自力センサーあり
スッス |操縦Lv4-[医療Lv2]※自力センサーあり
拿捕猫耳ズ|整備Lv2+[白兵Lv2]
猫耳の下僕|操縦Lv3+[信仰Lv2]※自力センサーあり
船長猫耳ズ|猫語Lv2+[船長Lv3]※猫攻撃機に搭乗
新人下僕ズ|操縦Lv2 [信仰Lv1]※猫巡視船に搭乗。自力センサーあり
新人船長ズ|船長Lv2 ※平均LV ※猫巡視船に搭乗
新操縦手ズ|操縦Lv2+ ※平均LV ※猫巡視船に搭乗
◆ NEW DESIGN
◆ CAT RESCUE BOAT ※通称「猫救助艇」。装甲は薄いが船体は頑丈。トラクタービーム搭載
船体:3 / 跳躍:5 / 航続:6 / 装甲:1 / 居住:3 / 船倉:1 / 兵装:0




