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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第6章 銀河辺境大戦

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105/106

105.光速1万倍のゴミ捨て

 銀河輸送との戦争が始まっても、学園区から立ち去る学生はほとんどいない。

 僻地の学園に入学する学生は、他に選択肢がないか、野望の実現のためにここを選んだ連中ばかりだからだ。


 前者が猫耳や、それと同じくらい社会的地位が低い種族。

 後者が、明らかに高等教育を受けて実務経験まであるのに入学してきた連中(光翼人間が半数以上)だ。


『トラクタービーム切ります!』


『先に進路確認しなさい馬鹿っ!』


『こちら猫耳の下僕本部。猫ボートの2隻が独力での帰還が不能になりました。これより救助に向かいます』


 その、前者の連中に新しい役目(金を稼ぐ手段)が追加された。

 資源を特大デュプリケーターに突っ込んだときに出る『ゴミ』の投棄だ。

 投棄する方向は、銀河輸送が陣取る元ブラックマーケットの商業施設。

 投棄のスピードは光速の1万倍以上。

 要するに、戦略爆撃という名の嫌がらせだった。


「キン姉のお友達の案だけど、これって有効なの? 機動要塞なら簡単に迎撃できちゃうよね?」


『『『我々のような本物のAIと現代のAIを比べるのは止めなさい』』』


 ペット(機動要塞)は相変わらず態度が大きい。

 母港防衛に大きな貢献をしているのに人気と信用が低いのは、トーティ以外を見下すこの言動が原因だ。


「キン姉?」


「こいつらの性能だけは本物にゃ」


 ベリルに問われたキンは肩をすくめた。

 本来の仕事場は整備区なんだが、整備区では通信設備の能力が足りないと言ってここ数日はほとんど猫の巣号に籠もりっきりだ。


『『『にゃ』』』


 船長猫耳からの報告が到着する。

 『ゴミ』を数日間撃ち込まれ続けている、銀河輸送のデブリ網についての現状報告だ。


「お疲れ。今日は早めに戻っていいよ」


『『『にゃっ』』』


「うーん、遊びにいってもいいけど、サルくんのご両親に迷惑かけちゃ駄目だよ?」


『『『にゃ!』』』


 猫攻撃機は、攻撃手段が『棒』4本しかないという偏り過ぎた性能を持つ。

 敵からの攻撃は強力な加速力と航続力で躱すか、タキオン粒子を受け流す装甲でなんとかするしかない、設計者と運用者の正気が疑われる代物だ。

 だが、優秀な船長と強力な自力センサー持ちが搭乗するなら話は変わる。

 偵察、伝令、奇襲、攻撃。

 多様な任務を実行可能な超高性能機であり、遠方への日帰り偵察も旅行の足も軽々とこなす。


「あそこ、かなり高額のはずですが」


「実家割りが効くのはサルくん一家だけだもんね」


「にゃーは回数券買ってるにゃ」


「キン姉は半分以上仕事(残りはクマ狩り)でしょ? 内容が内容だから、直接やりとりするしかないもん」


 ベリルが『キン姉のお友達』と呼び、キンが『にゃーのダチ』と呼ぶのは、数年前から俺の実家を遠方から監視している自衛官たちだ。

 地球艦隊への肩入れと開拓星系への移住が進んでいるのに日本に残っているのは、キンとのコネを維持するためだ。


「自衛官というのはすごいですね。銀河での戦いを俺たち以上に理解してるんですから」


「サルくん。あの人たちは窓口になってるだけかもだよ?」


「にゃーと会うとき以外はずっと勉強だってぼやいてたにゃ。ベリルもサルも、あいつら以外の地表人を信用してねーから」


「だって、僕らが本当に危ないときに役に立つ助言をくれたの、あの人たちだけじゃん。役に立たなかったならマシな方で、僕らの害になる情報を渡そうとした奴らがいっぱいいたもん!」


「あのときは酷かったですよね……」


「サルの親も地表人にゃ?」


「あの2人はもう銀河通商の人間ですよ。特にお袋、星系管制と気が合う部下をやってますから、俺が気付いていなかっただけでヤベー人だったみたいです」


「話がずれてるにゃ。作戦はうまくいってるにゃ?」


 俺もベリルも立場が高くなり過ぎていて、たしなめることができる人間がほとんどいなくなっている。

 (本人も地位が高いとはいえ)以前と変わらず接してくれるキンは、非常に有り難い存在だ。


「昨日までは『このまま』削りきれると思ってたんだけどねー」


「膜型デブリと中身入りデブリの数が、昨日と比べてかなり増えています。最初ほどの数ではありませんが、この回復速度は無視できません」


「にゃ? ダチの分析だと……回復するならデュプリケーターで生産している可能性あり、って書いてるにゃ」


「に゛ゃあ……。振り出しに戻っちゃったかあ」


「いえ、銀河輸送に奥の手を切らせたといえるかもしれません。キンさん。この量のデブリをこの期間で新造するには、どのサイズのデュプリケーターが必要ですか?」


「特大デュプリケーターが最低1つにゃ。特大より小さいデュプリケーターだと効率が悪いから、すげー数が必要にゃ」


「特大!? キン姉、それほんと?」


 ベリルがキンに詰め寄る。

 押されたキンが席から押しのけられそうになる。


「陛下、落ち着いてください」


「ベリルの奇襲をくらうとは、にゃーも鈍ったにゃ……」


「落ち着いてなんていられないよサルくん! 特大デュプリケーターだよ! いくらすると思ってるの!? 1つでも拿捕できたら、この戦争の収支が黒字、は無理だけど常識的な赤字ですむかも!」


「ですから落ち着いてください。拿捕は『拿捕に成功する前に敵の手で破壊されるかもしれない』不安定なビジネスです。拘りすぎるのは本当に危険なんです!」


「特大デュプリケーターならどのメーカーのでもめちゃくちゃ頑丈にゃ。光速の10万倍の『棒』以上の威力じゃねーと、重要な部分には傷も入らねーにゃ」


「拿捕を最優先に作戦を修正します!」


 俺は光速で手のひらを返し、全力を尽くすことを陛下とキンに約束した。



  ☆



 国家元首であるベリルは当然だが、なし崩しに艦隊部門のトップ(あるいは世話役)をしている俺も、目の前の作戦にだけ集中はできない。


「新装甲を多用することで投入可能なエネルギーを増量! さらにパイロットを自力センサー持ちに限定することで、光速の50万倍での戦闘が可能になります!」


 光翼人間が俺の前で熱弁を振るう。

 そのままデュプリケーターで生産できる精度の設計図を持ち込み、生産コストも維持コストもかなりの精度で予測して持参している。

 学園区を飛び級卒業する前の経歴は不明だが、キンが以前『こいつたぶん軍で設計とかやってた奴にゃ』と言っていた、現在は整備区の平職員(次の人事で昇進予定)だ。


「君、却下されるのが分かって提案しているでしょう。1隻当たりのコストが大きすぎ、俺でも体調が悪いときは操縦に失敗しかねない設計です。しかも出撃ごとにエンジン入れ替え必須? 正気ですか」


「そのリスクを許容できるだけの性能だと自負しております!」


 目と光翼の輝きがマッドサイエンティストとしか表現しようがない。

 いくら有能でもこんなのは置いておけないので解雇するしかないな、と俺が思ったタイミングで別の設計図が提示された。



◆ CAT PATROL BOAT

船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:2 / 船倉:0 / 兵装:3



「猫攻撃機をベースに、兵装を入れ替えた設計ですか。猫攻撃機の半分のコストで戦力は10分の1以下?」


 繰り返しになるが、俺の前にいるこいつは、能力だけは優秀だ。

 それに、ある意味で恐ろしいことに、悪意は一切感じられない。

 そんな奴が、無意味な情報を俺に渡すとは思えない。


「兵装は、新装甲で造った弾丸専用の自動機関砲です。技量の低い船長やパイロットでも操縦可能な設計です」


 光翼人間のテンションが、直前と比べて非常に低い。

 先程の設計が渾身の一作なら、この設計はやっつけで造った雑仕事と言わんばかりだ。


「もしかして、猫耳や光翼人間以外でも操縦可能なよう、居住性を上げているのですか?」


「はい。劣勢なときは母港まで逃げ帰ることを前提にした、つまらな……んんっ、堅実な設計です」


 悪意が感じられないので、この光翼人間にとっては『つまらない設計』というのが本音なのだろう。

 個人的に文句を言いたい内容は大量にあるが、艦隊部門のトップとしては『解雇など論外』で『大量の飴を与えてでも猫耳王国に留まってもらう必要がある』人材だ。


「2番目の設計は正式採用します。今支払ったのは臨時ボーナスの一部です。残りは実際に運用した後で支払われるよう手配しておきます。……今後は、こういう設計もしてください」


「はい! 努力はします!」


 マッドサイエンティストをやめるつもりはないと確信し、俺は内心大きなため息を吐いた。



  ☆



 懐かしい麦茶の香りが俺の精神を回復させる。


「お疲れさま、あなた」


「今日の仕事はこれで終わりっす!」


 ブルネットが俺に熱い麦茶を渡し、スッスが俺から猫の巣号の操縦権限を奪う。

 艦隊部門でも神聖猫耳王国でも序列は俺より下だが、俺の体調に関しては俺より権限が強いんだ。


「1日6時間労働は少なすぎませんか?」


「緊急時は別っすから、普段はしっかり休んでおくべきっす」


 戦闘などの緊急時は、俺が死にそうにでもならない限り、スッスでも俺を制止できない。

 だからこそ、平時の健康に関わる問題では、俺はスッスに逆らえない。


「ねえ、あなた」


「はい」


 俺は一口すすった茶を手に持ち、ブルネットの言葉を静かに待つ。


「もう、あの女に治療を依頼しましょう」


「……ブルネットは、それで良いのですか? 一度治療を受けてしまえば、次の要求は拒否できませんよ?」


「あなたに先立たれるよりはずっとマシよ。私には、耐えられないわ」


 俺が人間として生きて死ぬことで、嫌なら上位存在にならなくていいという先例になるつもりであることは、既にブルネットに話している。

 話したときは頷いていてくれたが、我慢できなくなった、いや、もとから必死に我慢してくれていて、もう限界になったのかもしれない。


「分かりました」


 俺は決断する。

 子供たちのためになるあらゆる手を打つ覚悟は変わらない。

 ただし、そのために妻の思いを踏みにじるなど、子供たちに対しても失礼すぎる。


「ブルネット。俺のためを思って決断してくださり、本当にありがとうございます」


 猫耳の文化は多夫多妻らしいが、ブルネット個人の価値観はどう見ても一夫一妻に近い。

 俺の治療のためにコランダムを許容するのは、断腸の思いでの決断のはずだ。


「うん」


 体を寄せてきたブルネットの背中を撫でながら、俺はスッスに目配せする。

 なんとなく羨ましそうな顔をしていたスッスが『はっ』として、まず、コランダムではなく、ベリルへ連絡する。


 俺はコランダムによる治療を受けると、能力に悪い影響がある可能性が高い。

 俺の自力センサーの性能低下は猫耳王国の戦力低下に直結するので、元首であるベリルの了解を得るのは、絶対に必要なことだ。


『いいよ!』


 ベリルからの返事は即座で、しかもとても軽かった。


「あの、陛下? こういうのはもっと迷ったりするのではないでしょうか?」


『サルくん。僕、姪ちゃんが悲しむのも、僕がブルネットお姉ちゃんに暗殺されるのも嫌だよ』


 ベリルが笑顔のまま、しかし目はシリアスで断言する。

 俺がそっとブルネットを見ると、強烈な情念を感じさせる目で、穏やかに微笑まれた。


『でもごめん。治療には賛成するけど、治療をするのは少し待って』


「ベリルちゃん?」


 ブルネットの声は、あたたかい響きなのに、俺もベリルもレーザーガンの銃口を突きつけられたような顔になった。


『治療したらサルくんの能力が落ちるかもしれないんだよね? だったら、銀河輸送と終戦条約を結ぶとき、サルくんの能力低下という名目での治療を条件に入れたら、僕らが譲歩していないのに譲歩したことにできると思うんだ!』


 ベリル陛下は非常に滑舌よく高速で言い切った。

 【見】る必要もなく、本気で言っているのは分かる。

 俺よりベリルとの付き合いが長いブルネットも当然理解したはずだ。

 ブルネットは、じっとベリルを見てその内心を読み取ってから、ようやく自然な笑みを浮かべた。


「構わないわ。でも、早めに戦争を片付けてね?」


『それはもちろん! あの機動要塞、遠くでも分かるくらいに強いビーコンを使いだしたんだ。キン姉のお友達も、星系管制も、広範囲から一カ所に艦隊を呼び寄せるための行動だって言ってる。だから、準備が整い次第、一気に攻め落とすよ』


 ベリルがふたつの中継映像を送ってくる。


 ひとつは膨大なデブリが漂う領域だ。

 商業施設だった巨大建造物は材料として使用され、最初の半分も残っていない。


 もうひとつは、猫耳王国の特大デュプリケーターから次々に生産される新型船だ。

 船長やパイロットとしての成績が優良な学生だけでなく、猫駆逐艦は乗りこなせても猫巡洋艦は乗りこなせないレベルの社員船長や社員パイロットが続々と乗り込み、試運転を始める。


「あら」


「これはなかなか」


 ブルネットと俺が驚きの声をあげる。

 亜光速を出した状態で、非常に小さな的に弾丸を当てている。

 『棒』はもちろんタキオン砲と比べても1弾あたりの威力は非常に低い。

 だが、1弾でも、敵のデブリを排除するのに十分な威力がある。


「キン姉には猫の巣号の空母機能を増強してもらってる。僕がぜんぶ準備を整えるから、サルくんは作戦に備えて体調を整えて」


 俺は納得し、命令を受け入れる。

 その言葉の響きや内容ではなく、適度な緊張と冷静な思考を感じさせる、ベリルの態度を信用する。


「先輩。治療終わるまで疲れちゃ駄目っすよ。自分も先輩に訓練つけてもらうのは、治療が終わるまで待つっす」


「なら私がサルさんを独り占めね。あなた、添い寝をお願いできるかしら」


 スッスから向けられるじっとりした視線を意識しながら、俺は、ブルネットと連れ立って寝室へ向かった。

◆ CAT'S NEST MK3(20/20)  ※猫攻撃機20隻を搭載。現在、空母機能の増強改造中

船体:6 / 跳躍:4 / 航続:6 / 装甲:3 / 居住:5 / 船倉:1 / 兵装:4


◆ CAT JAVELINEER ※通称「猫攻撃機」

船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:6



◆ NEW DESIGN

◆ CAT PATROL BOAT ※通称「猫巡視船」。自動機関砲を搭載

船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:2 / 船倉:0 / 兵装:3

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