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97.あらぬ疑い

よろしくお願いします。


老婆の長い話を聞き終えた俺の感想は、グラドって五大正竜より偉いのか、別格ってなんだ?という点だった。

まさか、勢いで呼び出した初めての召喚獣がそんな大物だと思うわけがない。そもそも追手がかからなかったのもグラドが引き受けてくれていた理由もあるだろうが、この国の情勢不安も噛んでいただなんて誰が想像できるだろう。


「グラド偉いの? クロは悪い人?」


話を聞き終えたマヤが、不思議そうに首をかしげている。

しぐさは胸を打つほどかわいいが、マヤさんちょっと黙っておこうか。


俺は決して悪人ではない。


しかも、まさかグラドを召喚したことが計画の一部だと思われているとは思わなかった。その姫の叔父とやらはやり手だ。隣国を引き込んでくるあたりもこの国の国王より頭がいい。


だが、今の話を総合すると引っかかることがある。


「そんなわけで、今この国は不安定で貨幣価値もだだ下がりなんだよ。むしろお客さんは冒険者のくせに何にもしらないんだね」

「まあ、ここから離れたところにいたからな」


アリッサあたりに言わせればもう少し政治を勉強しろと怒られそうだが。

書類をしたためたのはアリッサだから、その場合は盛大に言い返そう。


大人げなく決心していると、引っ掛かりが大きくなった。


「そうだ、書類だ!」


ネロはビーランド国の国王陛下に依頼されてグラドの討伐を受けたと言っていた。人も激減したが、王都の守りの要であるグラドがいなくなるように仕向けるものだろうか。


いや、あの国王がそこまで愚かだったとは思えない。


つまり、これを仕組んだ可能性が高いのはビーランド国王と敵対しているほうだ。


「まずい、マヤ、跳ぶぞ」


俺は慌ててマヤを抱えると、サーチで調べたネロの場所へと転移魔法を唱えるのだった。



・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・



「ネロっ」


俺が空間転移したとたん、剣の衝撃が俺の張った結界に弾かれた。

とっさに、ネロの小柄な体を抱きかかえる。


「え、なんっ―――」

「大丈夫か? どっか怪我してないか?」

「いや、怪我はない、けど」


目を回して必死で答えるネロの頭を乱暴になでて、俺はにかりと笑う。


「よし、よくやった。交代だ」

「え、ええ?」


俺が転移した先は王城の王の間のようだった。

取り囲む兵士の間からやや高くなった位置にふんぞり返っている国王が見える。10年以上まえにちらりとみただけだが、随分と疲れて見える。記憶の中よりもずっと老け込んだ姿には、一瞬の同情を覚えるが、俺には関係のないことだ。


「すまないな、情報不足だった。まさか、この国が内乱真っ只中だなんて知らなかったんだ」

「内乱?」

「まあ、詳しくはここから逃げ出した時に話してやる」


このまま転移を続けようとして、強烈な水魔法が俺に向かって放たれた。

もちろん魔法反射でしっかりと跳ね返しているが。


「やはりあなたの仕業だったのね、クロゥイン!」


鋭い声に視線を向ければ、魔法士の恰好をした少女が俺をまっすぐに睨みつけていた。ローブから覗く淡い金色の髪に、湖を思わせる深い翠の瞳は、記憶の中の少女と重なる。随分と大きくなったようだが、勝気な様子は変わらない。

杖を構えているところを見ると、魔法を放ったのは彼女のようだ。


俺の名前を知っているということは、間違いはないのだろう。


「久しぶりの挨拶にしては、えらく乱暴だな。まあ、お転婆な姫さまらしいが?」

「相変わらずの減らず口ね。冒険者は廃業したくせに口の利き方がなってないのは減点だわ」


昔は8歳くらいだった。すっかり成人して20歳を超えているはずだが、落ち着いた大人には見えない。


しかし、俺の経歴を知っているあたり、追手はかからなかっただけで、目をつけられていなかったわけではないようだ。

さすがに、見逃されるほど甘くはないらしい。


「この国をひっかきまわして、さぞかし楽しかったでしょうね?」

「いや、それ誤解だから」

「こうして姿を現しておいて誤解だなんて、よくも言えるわ」

「本当に偶然なんだがな」


まあ、グラドが動いた時点で偶然とも言えないのだが、事の発端は俺の本意ではない。

10年以上も何も知らなかったのだと言えば、ますます怒られる要素しかないだろうが。


「何が偶然よ、白々しい。自分の子供まで使うだなんて、恥をしりなさい。そもそも黒髪混じりの竜人だなんて父親が誰かすぐにわかるようなものでしょう」


はい?

今、この姫さま、なんつった??



お読みいただきありがとうございました。

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