98.
よろしくお願いします。
「待て、待て、待て―――今、なんだって??」
「だから、白々しいわよ。獣人との間に子供まで作っているくせに、竜ともだなんて。節操がないにもほどがあるわ。汚らわしい!」
「はああああ????」
俺の驚愕を姫は鼻で笑い飛ばした。
態度が悪いのはどっちだ。
しかし、俺が竜と関係を持つだなんて、そんなアブノーマルな趣味は持ち合わせていない。しかもなぜか、マヤまで俺の子供だと思われている?!
「積年の恨み、思い知るがいいわ!」
姫が大きく手を上げると、一気に空間が覆われたのがわかる。空気が変わるのだ。
魔力結界。
先日、サジェストが囲まれたものと同じだ。むしろ、あれよりも強力に思える。
「あなたが、魔法士だって知ってるんですからね。どう、これで観念なさい?」
外にいれば、好き放題魔法が使えるので壊すことは容易いが、中に閉じ込められると魔法の一切が使えないので結界を壊すことができない。
「どうして、叔父さまに加担したの。あなたほどの力があれば小国なんてどうでもいい存在でしょうに」
「なんでそれが分かって、俺が子持ちってことになるんだ?」
「え?」
「だから、俺はそもそも巻き込まれただけだ。あんたが昔拐われたから助けただけだし、ドラゴンは冒険者と馬鹿にされたからちょっと呼んだだけだし。それがまさか10年以上も放置されてるだなんて知らなかったんだ。俺が国に関わっても良いことなんか何もないだろ」
「巻き込まれた? 知らなかった? 良いことがない?」
「そうだ、俺は無関係だ」
「無関係ですって?」
ぷるぷると震え始めた姫の様子は尋常ではなく怒り狂っていることを雄弁に物語っている。
「私を助けたふりして王城に深く入り込んだのはあなただし、ドラゴンを召喚して城やら王都やらを混乱させたのはあなた。こうして子供を使ってドラゴンを消したのもあなただし、今目の前にいるのもあなたなのよ?!!」
彼女が指摘した内容は確かに俺なのだが、悲しいかなそこにつながりはないんだ。
行き当たりばったりの無計画で成り行き任せの行動なのだが、この様子では信じてもらえそうにない。
冷静に考えればおかしいことだらけだと思うんだが。
そもそもドラゴン消したのに、わざわざ報奨金目当てで戻ってくる馬鹿がいるのか?
「竜人も獣人も見かけよりも年いってるんだ。俺はまだ25歳だぞ。なんで、そんな大きな子供が二人もいると思われてるんだ…」
「何言ってるの、あなた40前でしょうに」
「はあ? このジャリがき! 調べるならもっときっちり調べろ!」
どうもおかしいと思ったんだ、25歳で見た目10歳以上の子供が二人もいるだなんて。
まあ頑張れなくもないが、13~15歳なんて深淵の大森林の魔物退治に明け暮れて王国と揉めて魔王斃して国王とギルマスに復讐して市長を締めあげてた時期だろう。そのうえ、子供まで作ってる余裕なんてないない。
まさか、俺の年齢が正しく伝わっていないだなんて!
「一国の王女捕まえての暴言、許されなくてよ?!」
「うるさい! 杜撰に調べて無実の人間を貶めてる時点で頭の悪いクソガキだろうが」
「また言ったわね、もういいわ。反省もないのだもの、やってしまいなさい!」
姫の合図により、俺の体中に激痛が走る。
「きゃん!」
「ぐうっ」
「むっ」
マヤもネロもグラドも短い悲鳴をあげているので、俺と同様に痛みを感じているのだろう。
「魔力結界の中でも反応できる特殊魔道具よ。あなたの元お仲間がくれたの、便利でしょう? さあ、叔父さまと何を契約したのか話しなさい!」
魔力結界の中でも使える魔道具なんて相反する物が作れる元お仲間だなんて一人しか心当たりがない。本当にろくなことに力を使わない男だ。
バンク・バンパーめ!
天才の名をほしいままにしていた魔道具師は、もともと陰湿で陰気だったが、その狂喜が俺に向けられた時、異常性が増したように思える。
いろいろな場所で、様々なトラップを仕掛けていそうだ。
人がせっせと仕事をしている間に、こそこそ何をしているんだと文句を言いたい。
強い痛みに意識がなくなったのだろう。
力なく倒れこんできたマヤをしっかりと抱きかかえながら、俺はぐっと奥歯を噛み締める。
今日はマヤと楽しい国外散歩になるはずだった。
マヤの好きなものを買ってやって一緒に食べて、おいしいって笑うマヤを眺めて日ごろの疲れやストレスを解消できると想像して。
腕の中のマヤはすっかり意識を失っているが、時折痙攣のように体を強張らせる。
痛みはまだ続いているのだろう。
だらりと垂れる銀色のしっぽとぺたりと伏せられた耳が、憐れですらある。
体の奥から沸々とした怒りがわいてくる。腹が熱くなって、耳鳴りもするようだ。
ああ、どうしてよく調べもせずにこんな危険な場所にマヤを連れてきてしまったのか。
浮かれていた自分を、殴り殺してやりたい。
「お前の叔父の名前はなんだ?」
調べればわかるだろうが、そんな時間も惜しい。
視線を向ければ、イアラセイが一歩後ろに下がる。顔面蒼白といったところだが、構っている余裕もない。
「今更、なにを…グレンバーグ・ファン・メルケでしょう?」
告げられた名前を瞬時にサーチにかけるが、魔力結界の中だと思い出した。
盛大に舌打ちして、俺は気合を放った。
ばりんと見えない壁が壊れる音がする。
「な、あなた魔法士でしょう?!」
「違う職業がないとも言ってないだろう。『サーチ』グレンバーグ・ファン・メルケ」
魔力結界は見えないけれど、武闘家のレベル40で得られる『気迫』という技で壊すことが可能だ。
いつでも脱出できるという油断が、マヤに苦痛を与えてしまったと反省しきりだ。魔力結界の中だから、物理攻撃しかできないと高をくくっていた。
マヤに回復魔法と眠りの魔法をかけてそっと抱き上げる。
腕の中にすっぽりとおさめて、やすらかな表情で眠るマヤから視線を外した。
「さて、覚悟はできてるんだろうな?」
ダグラスがここにいれば、どちらが悪役かわからないとでもこぼしそうだ。
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