1か月、全部、いっぺんに
私の提出したリストを見た先生の反応は、私の予想とは全く異なるものだった。
先生は眼鏡の奥の目を丸くし、呆れたような、あるいは諭すような口調で言った。
「おいおい、これはやりすぎでしょう。校庭五十周なんて無理だ。せいぜい十周から二十周ぐらいで十分だよ。正座だって、三十分もしたら足を痛める。十分にしなさい。それに丸坊主なんて、お前、漫画じゃあるまいし……」
先生は、私を苦しめたいわけではなかった。
深く反省している私の様子を見て、むしろ過剰な自傷行為を止めようとしてくれたのだ。
意固地になった少年の頑なさを宥めるように、先生はペンを執ると、
「校庭二十周を、三日間続ける。これでどうだ?」
と、現実的な妥協案を提示してくれた。
今でも、自分がなぜあんな態度を取ってしまったのか、本当の理由は分からない。
ただ、先生から「そんなにやる必要はない」「漫画じゃあるまいし」と、自分の深刻な決意をどこかいなされるような言葉を聞いた瞬間、私の中に眠っていた強烈な「あまのじゃく」が目を覚ましてしまった。
(先生は、僕のいじめの重大さを分かっていない。僕は、こんな生易しい罰で許されていいはずがないんだ)
反発心と意固地さが、私の口を勝手に動かした。
「じゃあ、どれか一つじゃなくて、ここに書いたやつ、全部いっぺんにやります」
「なんだって?」
先生は顔をしかめた。
「全部です。丸坊主も、ランニングシャツも、給食抜きも、正座も、掃除も、五十周も、全部まとめて一か月間やります」
先生は当然、猛反対した。
「そんなことができるわけがないだろう! 体を壊したらどうするんだ。学校としてもそんなことは認められない」
しかし、反対されればされるほど、私の頑なさは頑強な城壁のようになっていく。
「やらせてください。僕が悪いことをしたんです。それくらいしないと、反省になりません!」
押し問答は延々と続いた。
最後には、先生の方が根負けしたような顔になった。
どうせ小学生の思いつきだ、一日二日で音を上げて「やっぱり無理でした」と泣きついてくるに違いない――先生の脳裏に、そんな計算が働いたのかもしれない。
「……まあ、そこまで言うなら、やってみれば。無理だと思ったらすぐにやめるんだぞ」
先生のその言葉を引き出した瞬間、私の中で、奇妙な戦いが始まった。
◇
昭和の時代、いじめが発覚しても、今のようにすぐに親が学校に呼び出されるようなことはなかった。
ただ、先生から我が家へ、事の顛末を知らせる電話は入っていたようだった。
内容は分からなかったが、その日の夕方、私が帰宅したとき、家の中は奇妙に静かだった。
両親は、私に対して何も言ってこなかった。
何も知らないのではない。私の性格を、誰よりも熟知していたからだ。
私は居間に座り、意を決して、今日学校で決まってきた「一か月間の罰」の内容を、両親に向かって一から説明した。
今振り返れば、この告白の時間が、これから始まるどんな肉体的な罰よりも精神的につらかったかもしれない。
自分が友達にいかに酷いことをしたか。
そしてそのために自分をどれほど痛めつける約束をしてきたか。
話を聞いた父親は、いじめの事実そのものについては厳しく私を叱責した。
しかし、私が言い出した罰のメニューについては、深く介入しようとはしなかった。
ここで真っ向から反対すれば、私がますます意固地になって引き下がらなくなることを、父は痛いほど知っていたのだ。
「先生もやめておけと言っているんだろう。そこまで突飛なことをする必要はないんじゃないか」
父は軽い反対の言葉を口にしただけだった。
そして母親は、私の頑固さに半分呆れ、半分諦めたような、いつものトーンで言った。
「……言い出したら聞かない子だからねえ」
母はそれ以上、私を説得しようとはしなかった。
ただ静かに立ち上がり、「じゃあ、床屋へ行きましょう」と私を促した。
◇
近所の床屋の椅子に座り、鏡の中に映る自分の姿を見つめる。
それまでの私は、いわゆる「坊ちゃん刈り」と呼ばれる、前髪をきれいに切りそろえた髪型をずっと続けていた。
バリカンを持った店主が近づいてくる。
その時、傍らに立っていた母親が、もう一度だけ、本当に小さな声で言った。
「今ならまだ、やめといてもいいんだよ」
それが、母が私に差し出してくれた最後の救いの一手だった。
しかし私は、鏡の中の自分の目を見つめたまま、小さく首を振った。
ジジジ、と鋭い音がして、バリカンの刃が私の頭皮に触れた。
一瞬間にして、私の頭の真ん中に、青々とした一本の道が剃り上げられた。
もう後戻りはできない。
髪の毛が床にハラハラと落ちていくたびに、私は自分の選択の重さを、冷たい現実として噛み締めていた。
当時、クラスには野球部の子など、丸刈りの男子が何人かいた。
だから客観的に見れば、坊主頭自体はそれほど奇異な格好ではなかったかもしれない。
けれど、ずっと長めの髪で過ごしてきた自分にとっては、鏡に映る剥き出しの頭頂部は、耐え難いほどに恥ずかしく、そして見慣れないものだった。
第2章をお読みいただきありがとうございました。 バリカンが頭皮に触れたあの瞬間の冷たさは、今でも忘れられません。引っ込みがつかなくなった私は、ついに翌朝、あの格好で門をくぐります。 次回、第3章「罰の始まりと、中庭の対峙」。いじめてしまった友人との、忘れられない瞬間を描きます




