表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

15

八回目の朝。

目覚めてすぐ、最低限の支度を始めた。

もう、頭痛や咳が残っていないか、いちいち確かめることもしなかった。


(災いの病で死ぬのは二回目だけれど、慣れって怖いわね……)


夜着から着替え、髪を整える。

すると、扉を叩く音が響いた。


「どうぞ」


声をかけると、すぐに扉が開いた。


「おはよう、エステア」


いつもどおりの挨拶とともに現れたフェルの姿に安心する。

それと同時に……気まずい気持ちになった。


「おはよう、フェル。その、前回は……余計なことをしてしまったわね、私」


「余計なこと?」


「……離れのなかに、勝手に入ったことよ。あなたが殺されると思ったら、つい……それで結局、私のほうが先に殺されてしまって」


ぽつりぽつりと言い訳をすると、フェルがなんでもなさそうに笑った。


「僕を助けようとしてくれたんだろう? できれば、あまり無茶はしてほしくないけれど……それもエステアらしいよね」


「私らしい、って……なんだか、はぐらかされているみたいだわ」


「違うよ」


フェルは、少しだけ声を落とした。


「助けようとしてくれたことは嬉しかった。ありがとう、エステア」


そんなふうに言われて、ますます申し訳なくなる。

それなのに、心臓が一度、変に跳ねた。


(……いま、どうして)


彼に責められなかったから、安心しただけ。

きっと、それだけのはずだ。

そう思おうとしたのに、なぜかフェルの顔をまっすぐ見ていられなかった。


「さて、僕だけの不意打ちは失敗したことだし……次の作戦を考えようか」


彼の声に軽さが戻る。

けれど、次は私もただ見ているわけにはいかない。

メルディアの気を引くために、またあのおぞましい姿と対峙することになる。


(私のなかの封印の力は当てにならないし、上手くできるかもわからない……でも、やるしかない。これ以上、フェルだけに負担をかけたくない)


それから、離れのメルディアを相手にどう動くかを、フェルと話し合った。



 ◇ ◇ ◇



結果から言うと、定例の儀の前にメルディアを殺すことはできなかった。


私が気を引いたり、正面から挑んだり、いっそセオドリクが来るのを待ってみたり……もう十回以上は試した。

それでも、どうしてもあと一歩届かなかった。


そのたびに私は殺される。

慣れることのない痛みと苦しみの記憶だけが積み重なり、そのぶん、心が少しずつ削られていくようだった。


ついに、朝起きてすぐ夜着から着替える気力すらなくなった。

私の部屋に来たフェルは、寝台に座り込んだままの私を見て、珍しく少しだけ眉を寄せる。


「……大丈夫?」


「大丈夫ではないけれど……これ以上どうしたらいいのか、さっぱり思いつかないわ」


何度試しても足りないもの。

すぐに思いつくのは、私のなかにあるはずの封印の力だった。

それさえ使えれば――でも、使えない。

その理由まで、自分のせいのような気がしてきた。


(私の、なにが悪いのかしら……)


思わず、両手で顔を覆う。

そんなことをしたってなにも進まないのに、もう限界だった。

考えれば考えるほど、頭のなかがぐちゃぐちゃに絡まっていく。


「うう……」


目の前にフェルがいることすら忘れて、低く唸る。

――ふいに、ぽんと軽く、肩に手が置かれた。


「エステア」


いつのまにか、私のそばまで来ていたらしい。

顔も向けずに聞き返す。


「……なに?」


「いいこと思いついた」


その言葉に、私は勢いよく顔を上げた。


「なに!?」


「とりあえず、部屋を出ようか」


「……えっ?」


フェルはそのまま、扉へ向かう。


「ちょっと待って。いいことって、作戦の話じゃないの?」


「まあ、ある意味では」


「ある意味ってなによ……ちゃんと説明して」


「いいから。考え込んでる時に部屋に閉じこもってても、ろくな案は出ないよ」


そう言いながら、フェルは扉を開けた。


「まっ、待ってよ! 私まだ、着替えてもいないのだけれど……!?」


「大丈夫。誰にも見られないようにするから」


「そういう問題かしら……?」


戸惑いながらも、結局私は夜着のまま彼のあとを追った。



 ◇ ◇ ◇



連れていかれた先は、屋敷の裏庭だった。

巻き戻りが始まる前、フェルはいつもここの古い大木の上で昼寝をしていた。


「ここに来るのも、体感でいつぶりかねぇ」


大木のそばでそんなことを言うと、フェルは軽く地面を蹴った。

白いローブがふわりと揺れたかと思うと、彼の身体はもう太い枝の上にあった。

葉の隙間から差し込む朝の光が、枝の上のフェルを淡く照らしていた。


「……って、突然連れてきておいて、ひとりで勝手に登っちゃうってどういうことなの!?」


あまりに予想外で、ついツッコむ。


「君もおいでよ。手を貸すから」


枝の上から、手が差し出される。


「……」


どうやら、登るしかないようだった。

渋々その手を取ると、途端にふわりと身体が浮く。

気づけば、太い枝の上に引き上げられていた。


「ど……どうやったの?」


「さてね」


そのままフェルは、私を支えながら、大木をもう少し上へと登っていった。

彼は人ではないにせよ、それでもローブを着たまま器用に登るものだな、と思った。


「ここがお気に入りなんだよね」


彼が示したのは、幹から横へ大きく張り出した太い枝だった。

その付け根に近いあたりは、人が座ってもびくともしなさそうに見えた。


「ほら、座って」


「ここに……?」


「もし落ちたら、拾うからさ」


「落ちないようにしてよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ