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それからというもの、きっちり三日に一回、その散歩コースを歩くと、その日が平日であれば必ず私は女の子に会い、話をするようになった。女の子と話をして初めて私は分かったのであるが、女の子が踏切の前にいるのはお父さんが会社から帰ってくる日、つまり平日だったのである。女の子は平日には必ず、いつもあの踏切の前にひとりで立って、彼女の父親を待っていたのである。
*
「やあ」
「・・・」
「またお父さん待ってるの?」
「・・・」
「今日は次の電車で来るといいね」
「たぶん来るで。今日は水曜日やから、お父さん早帰りの日やもん」
「そうなんだ」
「・・・」
「・・・」
「昨日はお母さんの誕生日やってん」
「へえ、そう」
「うん。だからな、お父さん昨日も早帰りしてきてくれてな、ロマンチック街道(近くにあるイタリアンレストランの名前)に連れて行ってくれたんや」
「へえ、よかったね。何食べたの?」
「カルボナーラとマルゲリ―タとペペロンチーノ」
「ずいぶん食べたね」
「アホか、三人でシェアしたんや。でもお父さんがサラダも食べろ、デザートも頼めって言うからお腹いっぱいになってもうてな」
「そっか、良かったね」
かんかんかんかんかんかんかんかん・・・
・・・たたんたたん、たたんたたん
「あ、来た!」
どどんどどん、どどんどどん、ごとごとごとごと・・・
「・・・・・・!」
たたんたたん、たたんたたん・・・
「見えた?お父さん、やっぱり三両目に居ったで」
「うーん、ちょっと分からなかったな」
「えーなんで」
「ごめんごめん」
「まあいいや、じゃあ私帰るな。またね!」
*
「こんにちは」
「うん、こんにちは」
「今日もお父さん?」
「せやで」
「次で来るかな」
「わからんなあ。・・・こないだ、授業参観やったんやけど(この日はすでに九月に入っていた)、お父さん観に来てくれたんやで、会社休み取って」
「そうなんだ、よかったね」
「でな、泣くねん」
「え、なんで?」
「私が手え挙げて先生の質問に答えるとな、教室の後ろで他のお母さんたちに混じって立って、うっ、うって口ふさいで泣きよるんや。後で聞いたら、私がしっかり授業受けて先生の質問にも答えてるのに感動したんやって」
「はは、おかしいね」
「私恥ずかしかった。でな、授業終わって家に帰ったらな、お父さんが居って、私のこと呼んでな・・・」
「・・・で、私がお父さんの箸の使い方もおかしいって言ったら、お父さん何も言えなくなって口パクパクさせてな」
「はは、そっかそっか。・・・あ、来たよ、今度は乗ってるかな」
かんかんかんかんかんかんかんかん・・・
・・・たたんたたん、たたんたたん・・・どどんどどん、どどんどどん、ごとごとごとごと・・・
「・・・・・・!」
たたんたたん、たたんたたん・・・
「居た?」
「居ったで!手え振ったやん。なんや、また見れなかったん?まあええわ、お父さん帰ってくるから私帰るな、じゃあね!」
*
女の子は私に会うたび父親の話をした。平日には必ず父親の帰りを待っていることと言い、よっぽど父親のことが好きなのだろうと推察された。
夏が終わりそろそろ秋が足を忍ばせてやってくる頃になっても、私は飽きもせず散歩の途中で女の子に会い、会うと必ず足を止め、父親の話を聞きながら一緒に電車を待った。その頃私の小説作りはいよいよ頓挫し、私はすっかり参った気分になっていたから、少女がいつも話してくれる明るい父親の話に、癒しを求めていたのかも知れない。




