15章
コインロッカーから回収してきたカバンを床に置いた。そして、カウンターで名前を告げる。ホテルのチェックイン時間から30分ほど経っており、他に宿泊客はいないようだった。
チェックインの用紙に名前と住所を書き込む。宿泊先を転々とするようになってから、同じホテルには、同じ偽名を使用していた。次回の利用時に不審がられないためのリスクヘッジだ。
このホテルは初めての利用だった。少し考えて「立花芳雄」と記入する。
「カバンをお持ちします」
従業員の申し出を断り、自分で持つ。5階の客室に通され、大浴場の開放時間、非常時の避難経路、フロントへの連絡方法を伝えると彼女は部屋を出ていった。
お湯を沸かし、部屋に用意されていたドリップコーヒーを淹れる。缶コーヒーとは違う香りが立ち昇る。そのコーヒーを飲みながら、窓の向こうの景色に目を向けた。
眼下に広がる街並み。遠くには東京湾を行き交う大型船が見える。電車が駅に滑り込み、駅の反対方向へと滑り出す。
駅前通りを様々な車両が行き交い、公園の外周には違法駐車の車両がびっしりと並んでいた。
4人目の特定は、完全に手詰まりだった。
キャッチから、ホストクラブの情報を聞き出す作戦は、失敗だった。あいつらには、後ろ暗い何かがあるはずだ。だが、もう、キャッチから迫るのは無理だろう。
会員制のホストクラブを嗅ぎ回っている男がいるという情報は、彼らで共有されたはずだった。何か、他の手が必要だった。
加藤殺害のあと、あのイートインには行っていない。以前、張り込みのために、コンビニに入ろうとした。その時、見覚えのある二人組が入店していった。それは、スナック裏の捜査にも、神社の捜査にもいた二人だった。
何か方法があるはずだ。今更、あとには引けないし、この人生で他に為すべきこともない。
そう考えていたら、スマホにショートメールが届いた。
『佐伯さん。警察はあなたの履歴書を入手し、偽名「立花芳雄」を把握しています』
事件を重ねるたびに、執拗に出頭を勧めてきた発信者だ。そのメッセージはいつも一方的で、私の居場所を特定しようとする意図は感じられなかった。結局、家にいる間に警察は来なかった。
罠、ではないと思った。直感ではない。警察が組織として、このメッセージを送る意味がなかった。
念の為スマホの電源を落とす。次に使う時は充分に距離を稼いだ後だ。
内線が鳴り出す。
飲みかけのコーヒーはそのままに、カバンを持って廊下に出る。エントランスはもとより、他の出口も全て張られていると思うべきだ。
廊下に設置された消火栓。その起動ボタンをプラスチックのカバーごと押し込む。
非常ベルは鳴らなかったが、作動したシャッターの降りる音が響く。金属を軋ませるその音を背中に聞きながら、非常階段へと向かった。
非常ドアを開けると、外壁に沿って設置された外階段の踊り場に出た。下を覗いてみると、どうやら直接駐車場に出られるようだった。
ドアを閉めると重い金属の軋みは遠ざかり、風に乗って街の音が届いてきた。素早く見える範囲を確かめ、警察らしき人影を探すが、それらしいものは見えなかった。大通りの方向を確かめ、階段を駆け下り始めた。
踊り場を回る度に、もつれそうになる足を、どうにか蹴り上げ、一気に下っていく。肺から吐き出される空気は熱く、膝にかかる衝撃が背骨を伝わって、全身に広がる。
1階の扉を開け、駐車場へと飛び出す。乱れた息を整えながら、意識してゆっくりと歩き始めた。走り出したい衝動を抑えて、大通りを目指す。
周囲からはただ、歩いているだけの宿泊客に見えるよう、歩調と視線をコントロールした。
火災警報を作動させても非常ベルは鳴らなかった。そこは誤算だった。宿泊客が廊下に飛び出し、騒ぎが広がれば、逃げる隙は確保できるはずだった。
しかし、ベルが鳴らなかったなら、それはそれで、フロントでは警報の発令に気づくのが遅れるはずだと思っていた。サイレンは聞こえてこないので、自動通報システムも備えていない旧式のものなのだろう。
まだ、運は尽きていない。そう、強く感じた。
大通りを横切り、そのまま路地を先まで進む。上から確認した通り、小さな公園があった。外周をずらっと、社用車や自家用車が駐車していた。
その中に、3台タクシーも止まっていた。そのうち2台は回送になっていて、運転手はシートを倒して寝ていた。
残りの1台は空車表示だったが、運転手は競馬新聞を広げていてこちらに気が付かない。仕方ないので、助手席の窓を軽くノックした。運転手が窓を開ける。
「すみません、乗れますか?」
運転手は新聞から目を逸らすことなく答えた。
「今、休憩中なんですよね」
言外に乗せないと言ったに等しい。改めて「空車」になっていることを確かめた。
「でも、空車ですよね?」
運転手は新聞をたたんで、こちらを見た。休憩だと言われたにも関わらず、客が諦めない場合、考えられることは二つ、本当に何も知らないか、仕組みとルールに相当詳しいかだ。
運転手がドアを開けたので、スライドドアが開き切ってから、カバンを持って乗り込んだ。
「行き先は?」
「千種駅です。少し急げますか?」
「この時間なら、大通りを行くより、境町を回った方が早い。少し高くなるけど構わないかい?」
「お願いします」
「お客さん、領収書はいるの?」
「いえ、特には」
「じゃあさ、3000円ちょっとかかるから、2500円でいいよ」
運転手はそう言いながら、「回送」にして走り出した。ウインカーすら出さない。
この後、警察はホテル周辺で聞き込みや、監視カメラを探し始めるはずだった。徒歩、自転車、バス、タクシーとあらゆる移動方法を想定して、私の足取りを追うことになる。
バックミラーの横に取り付けられている、ドライブレコーダー用のカメラを確認した。車内と車外を同時に撮影しているはずで、音声も録音しているだろう。
以前、雑談に紛れさせて保存期間を聞き出したら、1日か長くても2日ということだった。誤差はあるにしても、全てのタクシーがそんなものだと思って良いだろう。
窓を流れる景色を眺めながら、このままうまく逃げ切れる、そう感じ始めていた。タクシーは大通りを離れ、歓楽街に向かっている。運転手の言う通り、大通りは混雑がひどくなりだした。
直接、タクシーに乗り込む目撃情報がなかった場合、取れる手は限られるはずだ。
タクシー会社を取りまとめる業界団体経由で、場所をホテル周辺、時間を午後4時から4時半に絞って、情報提供の協力を依頼する方法が1つ。
監視カメラやNシステムを使って、通過したタクシーを自力で特定し、1台1台所属する会社に問い合わせて情報提供を依頼する方法がもう1つだ。
そして、どちらの場合でもタクシー会社に協力する法的な拘束力はない。
この男はメーターを使わず、売上を懐に入れるつもりだ。リアルタイムで運行システムに送信される、位置情報や乗車・降車のパラメータも全く意味をなさない。
タクシーは境町に差し掛かり、信号待ちのために停車した。
派手目の化粧に、露出の多い服、ブランドもののバッグを持った女性が、歓楽街に向かって横断歩道を渡っていく。色合いも歩く姿もさまざまだったが、彼女たちの仕事は似たり寄ったりだった。歓楽街はこれからが本格的に目を覚ます時間だった。
加藤と同僚の会話を思い出す。風俗嬢とホスト、夜職同士の繋がりについての会話。
『俺はパス。金がもったいない。払った金は、ホストに貢ぐかブランドバッグに変わるだけだぞ』
確かそう言っていた。
キャッチに金を掴ませて情報を得る方法は失敗だった。経営側には何か探られたくない、後ろ暗いことがあるのかもしれない。
では、反対側、客として通っている女性たちはどうか。会員制のホストクラブに繋がる情報を持っていないか。
悪くない考えだと思った。試してみる価値はあるだろう。
運転手は駅のロータリーで車を停めた。財布から3000円抜き出し、手渡した。お釣りはとっておいてくれと言って車を降りた。運転手は初めて笑顔を見せた。
決済に交通系のICカードやネット決済、クレジットカードは使っていない。それらは全て個人情報と紐づいていて、いつ、どこで、何を買ったかが全て記録に残る。現金にはその心配はなかった。
駅のコインロッカーにカバンを入れた。陽の傾きはじめたロータリーを行き交う人々に紛れ、目についたコーヒーショップに入った。
スマホを充電しながら宿を探したが、ビジネスホテルに空きはなかった。5軒目まで調べて、手を止めた。
なぜ、ホテルに警察が来たのか。
改めて考えてみた。
どこかの時点で捕捉され、尾行されていた可能性は低いと思った。
自宅を処分したあと、住所は変えていない。彼らもとっくにそのことは知っているはずだ。ならば、後をつけて居場所を特定することに意味はない。その場で任意同行させれば済む話だ。
スマホの通信履歴や位置情報を辿った可能性も低い。
名も知らぬ男は明らかに警察関係者だ。もし、裁判所の許可が下りていたら、あのメッセージが届くはずがない。
だとしたら、ホテルの人間が警察に通報したのだろう。
池田の時か小西の時に、どこかで監視カメラに捕捉されていたのだろうか。
3人目の犠牲者が出たことで、特捜本部が編成された。
報道では無差別で愉快犯という警察発表をそのままに、勝手気ままに犯人像を予想していた。警察内の誰かが3人の共通点に気づき、私にたどり着いた。マスコミには情報を流さずに、包囲の輪を縮めてきたということだろう。
池田の時と小西の時の自分を思い返し、席を立った。
スーツ一式とネクタイ、ビジネスシューズ、リュック、さらに度の入っていないメガネを購入して着替えた。自分でも驚くほど雰囲気が変わり、警察が持っている佐伯辰雄のイメージから、距離を取ることには成功しているはずだ。ひょっとしたら、キャッチたちの目もごまかせるかもしれない。
思い立って歓楽街に足を向ける。太陽が完全に沈み、原色の人工的な光源が街を彩り始めていた。
今夜の宿はラブホテルにすることにした。
目的は2つあった。
従業員と顔を合わせることなくチェックインできるし、事前の予約も必要なかった。
もう1つは、風俗嬢から情報を入手すること。
しばらくこの歓楽街を拠点にして、毎日続ければ、必ずホストに詳しい女性がいるはずだと考えた。キャッチから情報を得るという賭けは、それが空振りだった時に改めて考える。
手近なホテルに定めて、入り口で空室状況を確認すると中に足を進めた。夜も早い時間にもかかわらず、8割方の部屋が埋まっていた。料金をちらりと確認すると、パネルのボタンを押した。
室内は落ち着いた雰囲気で、ベッドの広さと浴室の広さを除けば、ビジネスホテルとさほど違いはなかった。上着を脱いで、ネクタイを緩めた。着慣れていないせいか、肩が張っていた。
従業員と顔を合わせていないということと、出入りが完全に看過されることは同義ではない。
駅から少し距離のある、歓楽街のラブホテルを男1人で利用し、朝まで1人というケースは極めて稀なはずだ。
いずれは須賀駅周辺のホテルを避けてビジネスホテルを利用するとしても、とりあえず今晩は誰かが気に留めるような行動は取らない方がいいと考えた。仮に警察が調べに来たら、印象に残った私のことが最初に告げられるはずだった。
男が1人でラブホテルを使う理由は、容易に想像できた。十中八九、性的なサービスを利用するためだ。
全くそんな気分ではなかったが、最後の男を見つけるためにはどんな手でも使うつもりだった。
デリヘル嬢を呼んで、サービスを受ける。
ホストの情報を持っていれば話は早いし、本人が知らなくても噂くらいは耳にしているかもしれない。
やるべきことは決まった。
ホテルの従業員に怪しまれないようにする。だが、同時にここに来る女性に怪しまれてもいけない。心がけて普通に接する必要があった。
スマホでこの地域に派遣可能な店を調べてみた。ずらっと並んだ店名の数に正直驚いた。
想像していたよりも、だいぶ多かった。
その中から1つの店を選ぶ。
並んだ写真から本当の年齢は測りかねたが、なるべく歳のいった女性の多い店を探した。
年齢を重ねているからといって、業界経験が長いとは限らなかったが、あまりにも若すぎる女性よりは確率が高いのではないかと思えたからだ。
当たりをつけたサイトにアクセスして電話をかけた。
「はい、お電話ありがとうございます。当店のご利用は初めてですか?」
「はい」
「ありがとうございます。お決まりの女の子はいますか?」
「いえ」
「でしたら、ぜひ遊んでもらいたい娘がいます。今なら指名料なしでご案内できますが、いかがでしょうか?」
「……じゃあ、それでお願いします」
時間は設定されている一番短いものにした。60分以下はないと言うので、それでいいと伝えた。
ホテル名と部屋番号を伝えたら、15分ほどで部屋のドアがノックされると言った。
結果は芳しくなかった。
1人目は、支払いの時に、さりげなくプリントアウトした写真を落としてみたが、何の反応もなかった。ホストクラブには興味がないと言っていた。当然、噂も知らなかった。
翌日に呼んだ2人目は、写真をじっと見たが、写真の男は知らないと言った。ホストクラブの話題は、はぐらかされてしまった。嘘か本当か判断できなかった。
3人目は、稼ぎのほとんどをホストクラブに貢いでいたが、写真の男も会員制のクラブも知らないと言った。
この街には、この街で生きていくためのルールがあるのだ。誰しもが後ろ暗さを抱えて、生きていた。
今日で4日目。
財布は確実に軽くなっていくのに、今のところ収穫はゼロだ。何か他の手段を講じる必要があるかもしれない。
ドアをノックする音が響いた。
ホテル側には一声かけているはずで、ごく一般的な男性の1人客として、記憶されることもないのだろう。
ドアを開けると極普通の女性が立っていた。会社帰りのような服装で、歳は30前くらい、少なくとも20代前半には見えなかった。もしかしたら、本当に会社帰りなのかもしれない。
前の3人とは明らかに違う雰囲気を纏っていた。どこにでもいそうな風貌の女性が、職業として性的なサービスを提供しているのだ。
スマホの画面に並んだ店の数と、それぞれに所属している女性の数を思い出す。目の前の女性も透明な壁で、社会から自分を隠して、にこやかに笑っているのだろうかと思った。
「あの、中に入れていただけますか?」
伏せ目がちにそう言ったが、口元は少し微笑んだように見えた。これでは、彼女に見惚れていたと思われたかもしれない。
ドアを開けたままで、招き入れるまでに時間をかけすぎた。不自然な印象を与えてはダメだ。
「ええ、もちろんです。どうぞ」
声音を調整して、自然に映るよう努めた。
「失礼します」と言いソファに座った女は「マミ」と名乗った。あれこれと話しかけてくるが、適当に作っている受け答えが、おかしく聞こえないように気をつけた。
先に支払いを促されたので、財布をポケットから出して札を数枚抜き出した。今回は、一緒にプリントアウトした写真を床に落とさなかった。
「じゃ、シャワーいこっか」
そう言いながら、私の手を取る。4人目のこの女性も空振りだったら、本格的に何か別の手を考える必要があるかもしれない。
毎晩、数万円の金を、したいわけでもない行為につぎ込むのは愚かだった。
この3日間、同じ店の違う女性を指名していた。時間帯も一緒だ。
どこか待機をする場所があるなら、写真を見せて会員制のホストクラブを探る客の噂が広まるはずだと思ったからだ。
だが、それが私の読み間違いだったら、いつまでもこんなことは続けていられない。
お互いに服を整えて、残りの時間はただおしゃべりをするだけだった。どう切り出すかを考えていた。
「お客さん、延長しない?」
彼女がそう、告げる。
「充分に満足したよ。ありがとう」
彼女は黙ってしまった。
ちらりと時計を確認した。全く意図がわからなかった。
床を見つめていた視線を上げ、じっとこちらを見据えてくる。
「いいから、延長して。それから、私にもあなたが持っている写真を見せて」
私はどんな顔をしていたのだろう。一瞬がとても長く感じられた。
このマミという女性は、3人の誰かから私の噂を聞いたに違いない。
「どういうことか、話して欲しいのだが」
「もう、時間が足りないわ。延長ってことでいいよね?」
延長料金を支払うと彼女は店に連絡を入れた。
改めてソファに腰をおろすと、タバコを取り出して口に咥えた。強くライターを握った指は、間接照明の下でも白く見えた。
「ここのところ、噂になってるのよ。どこかの店にガサが入るんじゃないかって。何かを探っている人たちがいるって、裏ではみんなピリピリしてる」
そう言うと、煙を吐き出した。細く長い煙は、ゆっくりと広がりながら天井へと昇り、部屋の空気に溶け込んでいく。
話を聞きながらキャッチたちの行動を思い出す。あれは彼らにとって正しい防衛行動なのだろう。そして、現場を納めた男たち。彼らがこの街を探っているのだろうか。
「会員制のホストクラブを探してるのよね? あなたは、遊び慣れていないし、楽しんでるようにも見えないわ」
「ああ」
財布の中から写真を抜き出して渡した。彼女は一瞥し、震える手で写真を返した。
タバコを吸い込み、目を閉じた。何か、心に溜めていたものを吐き出すように、さらにゆっくりと煙の筋を伸ばした。
「やっぱり。――これはスターダムのセイヤよ。少し前の写真だと思うけど、メッシュの入り方や、アクセサリー。見間違えるわけもないわ」
「えっ」
思わず声が出てしまった。
「おととい来たユキちゃん、彼女がこの世界に入るきっかけを作った男よ」
彼女は小さくため息をついた。
「そして、私がここにいる理由もそうよ。もし、今日もフリーで注文が入ったら私にしてって、内勤に頼んでおいたの」
彼女はセイヤにハマってしまい、月々の給料ではとても支払いが追いつかなかった。挙げ句の果て、消費者金融にも手を出したが、それにも限界はあった。
金がなくなると、セイヤという男は見向きもしなくなったそうだ。
「あの店、悪い噂しか聞かないわ。まあ、私が見えていなかっただけかもしれないけど」
「悪い噂って、女性から搾り取る以上のことを?」
彼女は目を開いてから、細めた。こちらの心の奥底を、直接見られるような心地悪さを覚える。
「私からはそれ以上のことは言えない」
よくはわからないが、最後の男がそのセイヤという男なら調べる必要がある。感情を抑え、冷静に情報を処理した。
「あなたが彼を追う理由はそういうことなんでしょ?彼を恨んでる女の子もたくさんいるわ。あんな店、なくなればいいのよ」
店の場所、大まかな営業時間を手短に聞く。
「ありがとう。なんとかなりそうだ」
彼女は細い指で灰皿にタバコを押し付け、表情が切り替わった。
「……あんたたちって、こんな調べ方もしたりするのね。これって経費で落とせたりするの?」
どうやら誤解しているらしい。だが、わざわざ否定するのも違う気がして、黙っていた。
彼女はただ、自分の論理で話しているだけだ。私に協力しているつもりも、まして共犯になっている自覚もない。彼女には、私がキャッチたちを追っていた男たちと同類に見えるのだろうか。
「まあ、いいわ。それじゃ、続きをしましょう。プロとして、お金だけもらって何もしないなんて、私にはできないわ。この仕事、私に向いてたみたい。今は毎日楽しくて感謝してる」
そう言って、笑顔をみせた。
会員制のホストクラブという特殊性が、困難さをさらに深めていた。店の場所は聞き出せた。だが、ホストクラブの営業時間はあってないようなものだった。0時を過ぎたら風営法違反なはずだが、明け方まで営業していることもざらだった。
セイヤという男は、毎回違った女と、店の前に待たせていたタクシーで帰った。しかも、他のホストたちも見送りのために出てきて、タクシーが発車するまで離れなかった。
とても、今までのやり方は、通用しそうもなかった。




