171 劇が始まりましたわ(4)
「嵐の日 霧の中
孤独を救ってくれたのは 花のような君だった
真っ白なだけの森の中 その笑顔で色をつけた」
これは暗唱ですわ。暗唱ですわ。暗唱ですわ。
アセリアは心の中で唱える。
唱えておかないと、あの瞳におかしくなってしまう。
まるで本当に自分に言われてるいるような気がしてしまう。
そんなわけないのに。
けれど、あまりにもハルムが熱のこもった瞳でこちらを見てくるから。
声は棒読みだけれど、なんだか本当に、愛を囁かれているみたいで。
ダメですわ。ダメですわ。ダメですわ。
こんなところで詩の内容を真に受けて、赤面するわけにはまいりませんの。
けれど。
ああ、わたくしは、ハルムに言われたかったのですわね。
愛しいという言葉を。
「あなたの命がとこしえに 幸せであれと願いましょう
あなたの窓辺にいつまでも その声が響くようにと」
喉の奥が痛くなる。
ハルム、あなたは、…………わたくしを攫っていってはくれませんの?
物語はそこで終わりだ。
ミルデとセインはそれが当たり前であるかのように舞台の真ん中で手を繋ぎ、にこやかな笑顔で、深いお辞儀をした。
アセリアも、ハルムのお辞儀にあわせてカーテシーをしてみせる。
「キャーーーー!!」
「素敵ーーーーー!!!!」
「いよぉ、よかったぜー!」
たくさんの声が届く。
大歓声と拍手の中、アセリアとハルムは、子供たちと、もう一度お辞儀をしてみせた。
これで全ての出し物は終わり、舞台では誰かが気まぐれに楽器を弾いては、誰かが飲み比べ対決をする場所になった。
「ほらほら、おやすみなさい」
アセリアは、子供たちが寝る部屋で、子供たちに左右を挟まれたままベッドの上に座り途方にくれていた。
「いやー!アセリアちゃんと寝るのー!」
ソフテが腕に絡みつく。
「わかりましたわ」
結局アセリアは、ベッドの真ん中でみんなに囲まれたまま横になるハメになってしまった。
「アセリアちゃん。アセリアちゃんは、好きな人、いる?」
ここぞとばかりに恋愛話を持ち込んできたのは、ミルデだった。
ふわっと特定の人物が思い出され、口ごもってしまう。
「何てことを聞きますの」
「だって、寝る前は恋のお話って決まってるの」
「……そうなんですの?」
「うん」
知りませんでしたわ、そんな文化があるなんて。
ハルムとはしたことありませんでしたわね。
した方がいいんですの?
いや、そんなにうまくそんな話ができる気がしない。
ハルムには、この文化のことは言わないでおこう。
「私はね、アセリアちゃんたちみたいな夫婦が目標なの」
「わたくしたち、みたいな?」
「そう!アセリアちゃんとハルムはね、すっごく仲良しだもんね!」
「……そうですかしら」
「うん!絶対そう!」
「……そうですの」
なんと言えばいいかわからないまま、アセリアはできる限り顔を逸らした。
夜は更けていく。
窓の外からは、いつまでも陽気な声が響いていた。
いよいよラストスパートでいこうと思います!!




