137 そんなロマンスがありますの?(1)
牧場の片隅で、アセリアは、ウィンリーとミラ、ベラが頭を突き合わせ、コソコソと何かやっていることに気付いた。
「何してるんですの?」
声をかければ、
「きゃああ!」
と、三人が揃って驚きの声を上げる。
バサバサっとミラの膝の上に広がったのは、一冊の本だった。
「ア、セリアちゃん」
ウィンリーはたじろぎ、ミラがニヤつく。
「一緒に読もうよ〜」
「ミラ……」
ベラが呆れた声を出したけれど、アセリアが読むことに反対することはなかった。
いそいそと座り込むと、三人が周りに集まってくる。
「これね、商人さんから買った小説なの」
アセリアの手に渡されたのは、ワインレッドの布張りの本だ。
「これが、小説……」
正直、アセリアは小説というものを読んだことがない。
いや、民話を集めたものを何冊か勉強がてら読んだことはあるが、あれは小説といえば小説だったか。
「何の本ですの?」
と、表紙をめくると、タイトルが書いてあった。
『夫を亡くしたミラノが幸せになるまで』
「……?」
人生論か何かですかしら。
「読んでいいよ」
と三人に見守られながらアセリアはページを捲る。
読み進めるごとに、どんな話なのか理解できてくる。顔が熱くなる。冷や汗が出てくる。
物語は、夫を亡くして3年になるミラノの恋愛物語だった。筋肉が目立つ年下の男性と夜の街で出会い、その後アピールされるのだ。
そして……二人が……。
……なんでですの?
アセリアは、目をみはる。
夜の池の畔。
偶然に触れ合う手。
見つめ合う二人。
言葉を必要としない世界。
そして……、熱く触れ合う唇……。
な、なんでですの!?
何の同意も意思表示もなく、なんでそうなりますの……?
アセリアにだって、恋愛というものの存在は知っている。
夜会の女性たちの話も恋愛関連の噂が多かった。
夜会をしている屋敷の裏庭で、こそこそとくっついている二人組を見かけることもちょくちょくあった。
けれど……、恋愛がこんなものだったなんて。
震える手でそのページをじっと見つめていると、周りの三人がコソコソと呟き出した。
「動かなくなっちゃったじゃん」
「ちょ、ちょっと刺激が強かった?」
「大丈夫……じゃない……?」
「こ、こういう本なのですね」
「うん」
「こ、こういう状況は、よくあるものなんですの?」
「こういう?」
「なんの同意もなく……、く、唇を重ねることですわ」
質問すると、
「う〜ん……」
三人は三人とも腕組みをして悩みだしてしまった。
「そうでもないわ」
とサックリ言ったのはウィンリーだった。それにあとの二人が続く。
「ちゃんと同意取ることもあるよ」
「『キス、してもいいかな』とか」
「なるほどですわ」
アセリアは、またその二人が唇を重ねているページをじっと見る。
「……なるほどですわ」
もっと先を読むとアセリアちゃんは卒倒するかもしれません!




