136 劇の練習をいたしましょう!(3)
かくして、練習は始まった。
「『ここはどこでしょう』」
ミルデはかわいい乙女を演じてくれている。
そしてセインも、
「『あの少女は誰だ?』」
澄ましたユニコーンを演じてくれている。
台本が読めない子供たちは、その都度年上の文字が読める誰かに教えてもらって台詞を繰り返していた。
そんなことをするのはキリがないのでは、なんていうのは杞憂で、子供たちはなんだかんだで自分の台詞を呟きながら覚えようとし、実際徐々に台詞を覚えてきた。
そんなところへやって来たのはハルムだった。
「お嬢様。こんなところで練習していたんですね」
「ええ。すごいですのよ」
「本当に。劇らしいものができるものなのですね」
「みんな頑張ってくれてますもの」
そう言いながら、転がっている丸太の隣をポンポンと示す。
ハルムはやおらその場所に腰掛けた。
舞台は、最後の口上に移っている。
「『きっと私は待ち侘びていたのです』」
ミルデが舞台の真ん中で声を上げる。
「本当に、乙女のようですわ。わたくし、演劇を見るのは、これが初めてですの」
アセリアの言葉に、ハルムも頷く。
「私もです」
けれどすぐ、ハルムは何か思い出した顔をした。
「ああ、でも」
その言葉に、アセリアがハルムを見る。
「あの最後の口上は、聞いたことがあります」
最後の口上とは、乙女が最後のユニコーンに向けて放つ詩のことだ。
「ああ。あれは、有名ですものね」
「いいえ。そうではなく」
ハルムがアセリアに向かって柔らかな視線を向ける。
「授業でやったお嬢様が読んだ詩のことですよ」
その言葉に、アセリアはついポッと熱くなってしまう。
そんなもの、覚えてましたの?
「わたくしも、覚えてますわ。あなたの、ユニコーンの詩」
「それは光栄ですね」
と、ハルムは少し笑った。
確かにアセリアは覚えていた。
それは、こんな現代向けの演劇ではない。
二人しか生徒がいない授業の中で読まされた詩だった。
この劇の元になった長い長い歌だ。
この劇の中でも、その詩は読まれる。
それが、劇の最後の登場する乙女の歌とユニコーンの歌だった。
そんな記憶があることがなんだかおかしくて、アセリアは口元を引き締めるため舞台へ視線を向けた。
あの頃は、こうして会話をすることなんてなかった。
存在すら、お互いにあまり認識していなかったはずだ。
けれど今、こうしてそれを思い出し、笑い合っている。
……思い出なんてないと思ってましたけれど、案外あるものですわね。
会話をすることはなかった。ただお互いそこにいただけ。
それなのに。それでも。
共通の記憶があるだけで、こんなにも嬉しいものなのですわね。
最近二人、仲が良いですね!




