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お嬢様は追放されました!  作者: 大天使ミコエル


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133/153

133 魔物除けを作りますわよ!(3)

「実は……、」

「実は?」


 どんな魔物なのかと、息を飲む。


 ハルムが神妙な面持ちで口を開く。


「リーフだそうです」


 リーフ?


 キョトンとする。


「リーフというと、あのリーフですの?」

「そうですね」


「ハルム!?あのリーフは人間を食べますの!?」


「食べませんよ!?」


「…………」


 結局、アセリアの勘違いだったというわけだ。




 夕方。

 カゴにたくさん入れたハーブ団子と、壺のような容器を持ち、村人たちは畑の周りを歩いた。

 沈んでいく夕陽の中に、強いハーブの匂いが広がっていく。


 アセリアはハルムと並んで歩いた。

 夕陽の中で、アセリアとハルムの影が長く伸びていく。


「畑を守るためだったのですわね」

「そうですね。毎年この時期になると、取れた作物を取りに来るそうですよ。だから、苦手な匂いで一杯にしておくのだそうです」

「そうですの。わたくし、てっきり……」

「てっきりなんですか?」


 ハルムの顔が少し笑っている。

 執事のくせこんな風にからかうなんて、ほんと、生意気な執事ですわね。


 ちょっとむっとしながら、アセリアがハルムの顔を下から覗き込んだ。


 アセリアの言葉を続けたのは、ハルムの方だった。


「てっきり、人間を食べるかと思いましたか?」

「そ、そんなことありませんわ」


 ハルムが少し黙る。

 そこで話は、終わったかと思いきや。


 ハルムが、まるで関係ない話を始めたような面持ちで口を開いた。


「そういえば、昔、王都の貴族女性の間で、こんな劇が流行っていましたね。おどろおどろしい屋敷に住む魔物が、町を襲うんです」


 アセリアが余計にむっとする。

 確実にわかって言ってるじゃありませんの!


「そして……、その魔物は人間の子供を……」


「そ、そんな話知りませんわ!わたくしが演劇を観たことがないのは、ハルムだってご存じのはずじゃありませんの」


 そんな言い訳をしたけれど、ハルムはどう見ても信じてはいない顔で、

「そうでしたね」

 なんて頷いた。


 絶対にわかっていってるじゃありませんの……。



 作業と同時に、日が沈んでいく。

 まるで、このお香を焚くことで、太陽を沈めているみたいだ。


 真っ暗な夜の中で、二人は並んで歩いた。

 村の人たちが持つランプの灯りが、そこここに見えた。


「……これが、夏の夜なのですわね」


「そうですね」


 ハルムも、辺りを眺めた。


「お嬢様は、王都の夜を知っていますか?」


「……?」


 王都の夜など、アセリアは知りはしない。

 演劇を観たことすらないのに、夜の街を出歩くわけがなかった。

「知りはしない」


「私もです」


「あら、そうですの?」


「意外ですか?」


「いいえ」


 王都の貴族の息子たちは、夜中もサロンなどに入り浸っていると聞いてはいたが、ハルムがそこに足を踏み入れていたイメージが湧かないのも本当の話だ。


「では、私たちの夏の夜はこれですね」


 アセリアは、村の夜を見渡した。

 聞こえるのは作業の声。見えるのはランプの灯り。

 ふっと笑う。


「そういうことに、なりますわね」

そんなちょっとロマンチックな夏の夜なのでした。

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