133 魔物除けを作りますわよ!(3)
「実は……、」
「実は?」
どんな魔物なのかと、息を飲む。
ハルムが神妙な面持ちで口を開く。
「リーフだそうです」
リーフ?
キョトンとする。
「リーフというと、あのリーフですの?」
「そうですね」
「ハルム!?あのリーフは人間を食べますの!?」
「食べませんよ!?」
「…………」
結局、アセリアの勘違いだったというわけだ。
夕方。
カゴにたくさん入れたハーブ団子と、壺のような容器を持ち、村人たちは畑の周りを歩いた。
沈んでいく夕陽の中に、強いハーブの匂いが広がっていく。
アセリアはハルムと並んで歩いた。
夕陽の中で、アセリアとハルムの影が長く伸びていく。
「畑を守るためだったのですわね」
「そうですね。毎年この時期になると、取れた作物を取りに来るそうですよ。だから、苦手な匂いで一杯にしておくのだそうです」
「そうですの。わたくし、てっきり……」
「てっきりなんですか?」
ハルムの顔が少し笑っている。
執事のくせこんな風にからかうなんて、ほんと、生意気な執事ですわね。
ちょっとむっとしながら、アセリアがハルムの顔を下から覗き込んだ。
アセリアの言葉を続けたのは、ハルムの方だった。
「てっきり、人間を食べるかと思いましたか?」
「そ、そんなことありませんわ」
ハルムが少し黙る。
そこで話は、終わったかと思いきや。
ハルムが、まるで関係ない話を始めたような面持ちで口を開いた。
「そういえば、昔、王都の貴族女性の間で、こんな劇が流行っていましたね。おどろおどろしい屋敷に住む魔物が、町を襲うんです」
アセリアが余計にむっとする。
確実にわかって言ってるじゃありませんの!
「そして……、その魔物は人間の子供を……」
「そ、そんな話知りませんわ!わたくしが演劇を観たことがないのは、ハルムだってご存じのはずじゃありませんの」
そんな言い訳をしたけれど、ハルムはどう見ても信じてはいない顔で、
「そうでしたね」
なんて頷いた。
絶対にわかっていってるじゃありませんの……。
作業と同時に、日が沈んでいく。
まるで、このお香を焚くことで、太陽を沈めているみたいだ。
真っ暗な夜の中で、二人は並んで歩いた。
村の人たちが持つランプの灯りが、そこここに見えた。
「……これが、夏の夜なのですわね」
「そうですね」
ハルムも、辺りを眺めた。
「お嬢様は、王都の夜を知っていますか?」
「……?」
王都の夜など、アセリアは知りはしない。
演劇を観たことすらないのに、夜の街を出歩くわけがなかった。
「知りはしない」
「私もです」
「あら、そうですの?」
「意外ですか?」
「いいえ」
王都の貴族の息子たちは、夜中もサロンなどに入り浸っていると聞いてはいたが、ハルムがそこに足を踏み入れていたイメージが湧かないのも本当の話だ。
「では、私たちの夏の夜はこれですね」
アセリアは、村の夜を見渡した。
聞こえるのは作業の声。見えるのはランプの灯り。
ふっと笑う。
「そういうことに、なりますわね」
そんなちょっとロマンチックな夏の夜なのでした。




