128 嘘じゃないって言ってくれ
嘘じゃないよな。
なんども心の中で繰り返す。
昨夜、確かにアセリアは、俺と踊ると言った。
言った、よな?
……いや、あまり大きなことだと思いたくない。
大きなことではないはずだ。
相手は元公爵令嬢、どんな奴とだって、ダンスは踊ってきた。
相手が国家転覆を図る人間だろうと。王太子の婚約者の愛人に収まろうとする人間だろうと。
むしろ、そういう奴と、ダンスを踊ってきた。
それ以上の意味なんて、ないだろ?きっと。
ザクッ。ザクッ。
青い空の下で、刈り入れ作業を続ける。
刈り入れが終われば、次は脱穀の作業が待っている。
無言で作業を続けた。
それでも。と思う。
それでも、アセリアの隣を勝ち取った感覚は、消えるものではない。
期待はしてはいけないと、わかっているのに。
「ふぅ」
曲げていた腰を伸ばすために、背筋を伸ばす。
アセリアの状況を確認するため、そちらの方を見れば、「ふぅ」と聞こえそうな顔でアセリアが立ち上がったところだった。
そろそろ休ませたほうがいいだろうか。
そんなことを思っていると、
「アセリアちゃん!」
と、遠くからバルドがアセリアに駆け寄って行くのが見えた。
アイツ。
馴れ馴れしいよな。
アセリアは、そっけなくするんじゃないかと、そんな期待をする。
俺のダンスの申し入れを受けたんだから、なんて、やっぱり俺も調子に乗っていたんだろう。
けれど、アセリアは、少しだけ、照れたように笑ったんだ。
……なんだ、あれ。
俺には見せたことがない、また少し近づいたような表情。
気を遣わない態度。
俺の前では出さないような笑い声。
そしてアセリアは、一度こちらの様子を伺ってから、またバルドの方へ向き直った。
手で追い払うような真似をするけれど、表情は今までと違って嫌そうではなかった。
これじゃ……助けられないだろ。
アセリアがひょこひょことこちらへやってくる。
「ハルム」
名を呼ばれ、少しホッとしたのも束の間のこと。
あろうことかアセリアは、少し頬を火照らせ、
「そろそろ休憩してもよいですかしら」
なんて言ったのだ。
誰と。何処で。
「それなら私が、木陰までお連れします」
手を出したけれど、アセリアは少し躊躇し、困ったように笑った。
「大丈夫ですわ。お友達がついていてくれますもの」
耳を疑う。
ソイツがいるから、心配なんだよ。
けれど、ハルムはその後ろ姿を引き止めることはできなかった。
主人の決めたことに逆らうなど。
二人は、木陰の裏へと移動していく。
……なんか、近くないか?
ザクッ。ザクッ。
麦を刈る。
俺が。
俺が、ダンスのパートナーなんだよな。
そうだろ?
もうちょっと甘くなってほしかった。




