↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/15

第08話_研修にはしない

制服に手を伸ばしてから、今日は学校がないと思い出した。


水曜の夕方。祝日でも、バイトの始まりは同じ四時半だ。俺はシャツを引っ張り出し、机の上のスマホを見た。

三輪とのトークは、昨日の夜のやり取りで止まっている。メニューの写真はまだその少し上にあった。


『トースト、昼のセットもあるんだって』


一昨日、彼女が聞き足した話だ。

何を食べるか選んだわけでもないのに、行ったことのない店のメニューが少し分かるようになっていた。


家を出る前に母へ、今日は七時まで、と伝える。帰りにパンを買えるか聞かれたが、店が閉まるかもしれないと言うと、じゃあ明日でいいとのことだった。

スマホをしまい、仕事用の鞄を持った。


こはくでは、入口の近くにベビーカーを畳んでいる客がいた。岸さんの声が厨房から聞こえる。

俺は奥へ挨拶をして、着替えに向かった。


三輪は先に準備を終えていた。私服の上着をしまい、髪をまとめている。


「お疲れ。今日もよろしく」

「よろしく。外、暑かった?」

「歩くとちょっと」


そこで会話は終わった。手を洗って持ち場へ出ると、俺は追加の水を運び、三輪は空いた席を片づけた。


夕食前の客が帰り始めるまで、まとまって話す暇はなかった。

最後の注文の時刻を過ぎ、俺たちは岸さんへ仕事を引き継ぐ。打刻して着替えたあと、三輪が裏口のところで俺に声をかけた。


「日曜って、もう予定ある?」

「今度の?」

「うん。三日」


仕事の鞄を肩へ掛けながら、頭の中で日付を確かめた。

土曜は今日と同じように店へ来る。その翌日は休みだ。


「まだないよ」

「じゃあ、ひだまり、一緒に行かない? この間の店」


彼女はそう言い、鞄からスマホを取り出した。


「店の勉強にもなるし」

「休日も働くの?」


つい口にすると、三輪の指が画面の上で止まった。

俺を見て、少し口を開く。


「違う。今のはなし」


スマホを持った手が下がる。


「榎本と食べに行きたい」


冗談の続きが出てこなかった。

入口の脇に寄っていたのに、背筋だけが仕事中みたいに伸びる。


「うん。行く」

「……行ける?」

「行きたい。あのプリン、気になってるし」


プリンの話をしたら、ようやく言葉が続いた。


「三輪がタルト食べて、俺がプリンにすれば、両方どんなのか分かるな」

「でも、榎本トーストも見てたでしょ」

「それは昼飯の分で」

「あ、別なんだ」


三輪が笑う。俺も笑った。

彼女はスマホを上げ直し、メニューの下の方を指で広げた。


「セットに飲み物つくから。甘いの足しても、一人千五百円くらいでいけそう」

「それなら大丈夫。何時から?」

「十一時。駅に十一時で――」


そこまで言って、三輪が止まった。


「何時がいい?」

「十一時でいいよ。昼に行きたかったし」


返すと、彼女は画面を切り替えた。営業日の案内に、三日も店を開けると書いてある。

駅からは歩いて十分ほど。十一時に待ち合わせれば、開店して少しした頃に着く。


「連休だから、待つかもしれないね」

「うん。待ってる間に決めるか」

「まだ決まってないの?」

「プリンはほぼ。飲み物と、トーストの種類」


三輪は表示しているメニューを眺めた。


「じゃあ、これ、当日もちゃんと見よう」

「俺、そんなに時間かけるかな」

「型よりは早いと思ってる」


比較がそれなら、大抵は勝てそうだった。

俺は駅前の時計のある側を待ち合わせ場所に提案する。彼女はすぐに頷き、場所まで入れた短いメッセージを送ってくれた。


別れ道まで、日曜の話をしながら歩いた。

三輪はタルトに添えてあるクリームも気になると言う。俺が、そこは写真で見ていなかったと答えると、あれだけ拡大してたのに、と笑われた。何を見ていたかは、そんな所でも違うらしい。


「じゃあ、土曜、店でね」

「うん。日曜も」


返してから、少し早かったかと思う。

けれど三輪は、スマホを鞄へ入れながらこちらを見た。


「うん。日曜も」


彼女が曲がってから、俺は家へ向かった。

信号で立ち止まり、予定表を開く。三日の日曜、十一時。駅前の時計。

入力欄の題名を少し迷って、『三輪とひだまり』と入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。