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第02話_その誘いには乗らない

「ほんとに、ごめん」


相原は俺を見る前にそう言った。

昼休みの廊下には、弁当を持って教室を移る生徒がいる。俺たちは階段から少し離れた窓際へ寄った。


昨夜の返事は、分かった、だった。

それを見てからも言うことは何度か変わったが、今さら昨日は面白かったな、とは始められなかった。


「昨日の、嫌だった」


相原が頷く。


「うん」

「俺、普通に嬉しかったから」


そこまで言う予定ではなかった。

でも、昨日は笑って帰ってしまった。ここを抜いたら、また何が嫌だったのか分からなくされそうだった。


「日曜に誘ったのも、本気で」

「……そうだよね」


相原は鞄の紐を指で押さえた。

昨日隣にいた友達は、今日は来ていない。


「もっと軽く流されると思ってて。いつも、そういう話だと冗談言うから」

「それだと、やっていいの?」

「違う。そうじゃなくて……本気の返事をもらうこと、考えてなかった」


少し黙ったあと、相原が顔を上げた。


「私が言った。やろうって話にはなったけど、言ったのは私だから」


俺は窓の向こうを見た。

昨日は、一緒に出かける相手になるかもしれないと思った人だ。今はこの話を早く終えて、弁当を食べたい。

何なら、弁当を食べる気になれる所まで戻りたかった。


「今度、何かおごる。日曜じゃなくても」

「それはいい」

「じゃあ今日、一緒に帰らない? ちゃんと話したいし」


首を横に振る。

相原の手が、鞄の紐から離れた。


「俺は帰らない。二人では」

「……もう、普通に話せない?」


普通に。

今ここで話しているのも、俺にはかなり頑張った方だった。


「クラスの用事とかは話すよ。でも、前みたいに帰ったり、遊びに誘ったりは、今はしたくない」

「うん」

「あと、昨日の返事、ほかの人に話さないで」


相原がすぐに頷いた。


「話さない。あの子にも言う」

「分かった」


許したよ、と言えば、ここはもっと早く終わるのかもしれない。

相原も困った顔をやめられる。

けれど、その言葉は出さなかった。


予鈴までは、まだ時間がある。

俺は先に教室へ戻った。


小野結人が俺の机の前に座り、開けていない弁当箱を眺めていた。


「食わないのかと思った」

「食うよ。なんでお前が俺の椅子にいるんだ」

「日当たりがいい」

「俺もそこで日光浴しながら食いたいんだけど」


結人が立ち、向かいの席の主へ断って椅子を借りた。

俺も腰を下ろし、弁当箱を開ける。卵焼きが端へ寄っていた。箸で戻し、ようやく弁当箱を持った。


「相原と話してた?」

「うん。昨日、告白されたんだよ」


結人が箸を止めた。


「は?」

「嘘の。告白できるかってやつだったらしい」

「あー。お前、何て返し――」


聞きかけた結人を見る。

ああ、そっちが気になるのかと思うと、先に面白く話しておかなかったことまで後悔しそうになった。


「悪い。そこ、笑って話せない」


結人の口が閉じた。

少しして、自分の弁当箱へ目を戻す。


「……そうか。ごめん」

「俺も昨日は笑ったんだけどさ」


それだけ言って、卵焼きを食べた。

味が分かる。甘い。朝、母がいつも作るやつだった。


結人は続きを聞かなかった。

しばらく二人で食べてから、弁当袋の脇へ置いていたプリントを俺へ見せた。


「これ、数学の提出、明日だっけ」

「木曜。今日は火曜」

「一日増えた」

「増えてない。最初からある」


そこで少し笑った。

結人も息を吐いて、プリントを畳む。


午後の授業も、いつもどおりあった。

後ろの席から回ってきたノートを相原へ渡した時、彼女は小さくありがとうと言った。俺も頷いた。それ以上、話は続かなかった。


帰りの支度をしていると、結人が先に鞄を持った。


「俺、今日部活遅くまでなんだよな」

「俺は帰る。明日バイトだし」

「お前、水曜になったのか」

「今週から」


スマホで店のグループを開く。

店主の岸さんが先週送った勤務表の下に、明日もよろしくお願いします、と連絡が来ていた。


俺と同じ夕方の欄に、三輪帆乃の名前がある。

四組の三輪。前から同じ店で働いているが、これまでは交代の時に少し話すくらいだった。


二人の枠が重なるのは、新学期の予定を出し直したからだ。

明日の始まりは四時半。授業が終わったら、家へ寄らずに店へ行く。


『確認しました。よろしくお願いします』


いつもと同じ返事を送る。

結人はもう部活へ向かっていた。


廊下へ出ると、相原が友達と話しているのが見えた。

こっちを向いた彼女へ軽く頷き、俺は一人で昇降口へ向かった。


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