第12話_最後の一枚は誰の
最後の一枚が、袋の底に残っていた。
三輪もそれを見ている。
俺は小袋の口を少し広げ、彼女の方へ向けた。
「これも、食べていいよ」
「榎本は?」
「俺は家でも食べるし」
言いながら、底にある丸い一枚が気になった。
真ん中に小さな割れ目があり、昨日の夜、天板から移した時に見た覚えがある。うまく焼けた方だ。
金曜の中庭は、昨日より暖かかった。
弁当を食べ終え、空いていたベンチに並んで座った俺たちは、持ってきたクッキーを二枚ずつ食べたところだった。家族用に焼いた分から五枚を分けてきたのは俺だ。
二人で食べるなら、偶数にすればよかった。
「でも、そっち向けたままなのに、ずっと見てる」
三輪が袋を指す。
俺は顔を上げた。
「見てた?」
「うん」
「袋、破れてないかなと思って」
これは、かなり苦しかった。
三輪も袋の底を見る。破れていたら、膝の上がもっと大変なことになっている。
「破れてないね」
「……うん」
風が来て、空になった弁当袋が足元で倒れた。俺は起こして鞄へしまい、まだ持っているクッキーの袋を見直す。
「俺も食べたいんだけど」
結局、そう言った。
三輪がすぐに頷く。
「じゃあ、榎本が食べて」
「いや、三輪も食べたいだろ」
「食べたいよ」
早かった。
譲ってくれた直後なのに、そこは迷わないらしい。
「じゃあ、どうしよう」
「半分にしない?」
三輪が鞄から紙ナプキンを出した。
俺も、包む時に入れてきた物を取り出す。彼女は膝に載せた小さい弁当箱の蓋の上へ、それを広げてくれた。
「割る?」
「うん。任せて」
俺は袋の口から一枚を出し、ナプキンの上で半分に力をかけた。
ぱき、と音がして、二つになった。少し大きい方と、小さい方と、脇へ落ちたかけら。
三輪がその三つを見た。
「半分って、難しいんだ」
「焼いたあとだと。生地の時なら量れる」
「今のは量れないね」
「家ならできるけど」
そこまで言うと、三輪が笑った。
俺も、今は量りを持ってくる話ではないなと思い、笑ってしまう。
「じゃあ、こっち取る」
彼女が選んだのは、小さい方だった。
俺は大きい方へ手を伸ばして止める。
「そっちでいい?」
「うん。その代わり、これも」
小さいかけらも取って、彼女は自分のナプキンへ置いた。
それなら少し近くなったかもしれない。俺は残った方を取る。
「次は六枚にする」
「次も五枚でもいいよ」
「また割るの?」
「割れたし」
三輪はそう言って、自分の分を口へ入れた。
俺も食べる。昨日、端で少し味を見た時より、今日はバターの匂いがよく分かった。
小さい方を先に食べ終えた三輪が、俺の口が空くのを待っていた。
「昨日の夜、焼いたんだよね」
「うん。夕飯のあと」
「寝る前に匂いするの、いいな」
「陸は歯磨きしたあとに来た。食いたいって」
名前を出してから、弟だよ、と付け足す。
三輪は一度頷き、弟の分は残っているのかと聞いた。
「ある。あいつ、朝も食ってたし」
「朝から?」
「パン食って、そのあと」
三輪は、分かる、と言いながら、残りのかけらを口へ運んだ。
全部なくなると、彼女はナプキンを小さく畳む。俺も空の小袋をしまった。
「日曜、何時に家出る?」
「十時過ぎかな。三輪は?」
「そのくらい。早く着いても、先に行かないでね」
「行かないよ。一緒に行くんだし」
言ったあと、彼女の方を見る。
三輪は鞄の口を閉じる手を止め、それから、うん、と返した。
予鈴が鳴る少し前に、二人で立った。
「今度、作ってる時にも見てみたい」
校舎へ戻る途中で三輪が言った。
俺は一瞬、家の台所を思い浮かべ、返事に間が空いた。
「その、写真。生地の時だと同じ重さにできるんでしょ」
「ああ、うん。それなら、次に撮っとく」
「半分にしたのは、撮らなくていいよ」
三輪が笑った。
俺も笑って、空になった袋を鞄の中で一度触った。




