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愛と悲しみのスケルトン  作者: kawauso2017
幕間 1

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幕間-後日談2 何か、生えてきた

「スケルトン、起きてるか!」


 朝。まだ肋骨を数えている途中だった。誰だ朝早くから日課を邪魔するヤツは……


 いっぽん、にほん、ろっこつさん。右が十二本で、左が、と数えかけたところで、部屋の扉が叩かれた。


 叩かれた、というより、ぺちぺちぺちぺちと、たくさんの何かで同時に叩かれた。


 何となく分かってしまったので、数え追えるまで無視する。ぺちぺちが数え歌と何故か合う。


 開けると、タコ男が立っていた。


 顔が青い。とても表情が豊かだ。タコだけど。私も見習いたいものだ。頬を削るかな。


 赤でも白でもなく、最初から青い。こいつの顔色の順番を知っている俺としては、いきなり最後の色から来られると身構える。


 その時は大体コボルさん絡みのハズなのだが……


「……どうした」


「なんか、生えてきた」


「は?」


 タコ男は、足を一本、そっと持ち上げた。


 休憩所で千切った足の、付け根のところだった。


 そこに、小さな触手のような物が、ぴこっと出ていた。


 小指の先くらいの、ちょこんとした、薄桃色のやつ。


 ぴこっ、と動いた。


「…………」


「…………」


「動いたな」


「動いたんだよ! 朝起きたら、なんかむずむずして、見たらこれで!」


 タコ男は、生えかけの足らしきそれを俺の目の前に突き出した。ぴこぴこ動いていた。


「病気か?医者はここじゃ無いぞ?」


「知らないんだよ」


「呪いか? あの時、千切ったから、罰が当たったのか?神様はいたのか……」


「知らないんだって」


「これ、抜いたほうがいいのか?罰なら怖いよ」


「抜くな。呪いの装備だとおもう」


 触手なだけに。


 即答した。これ以上、『ぷちっ』は聞きたくない。


 タコ男は、ぴこぴこ動く小さな足らしきそれを、何本もの足で囲んで、心配そうに覗き込んだ。


「……生えてくるなんて、知らなかった」


 そういえば、浜辺で聞いた。


 生えてくるのかな、これ。知らない。知らないのに千切ったのか。


 本当に、知らなかったのだ。


 知らないで、好きな人のために千切ったのだ。こいつは。


「……良かったじゃないか!」


 俺は言った。


 本心だった、と思う。


「良かった……のか? これ、良いことなのか?」


「元に戻るんだろ。良いことじゃないか」


「そうか……そうかだよな!」


 タコ男の顔が、青から、少しずつ白に戻っていった。


◇


 三日後。


「スケルトン! 見て!」


 ギルドの休憩所で、タコ男が足を突き出してきた。


 小指の先くらいだったやつが、指一本ぶんくらいになっていた。


 触手じゃ無かったのか……残念。


「伸びてるな」


「伸びてるんだよ! 毎朝、ちょっとずつ!」


 もう青くなかった。普通の顔色で、少し得意げだった。


「最初は怖かったけど、慣れてきたよ。なんか、かわいいだろ?」


「自分の足をかわいいって言うなよ」


「かわいいんだよ。ほら、ぴこぴこ」


 ぴこぴこ、と動いた。


「……良かったな」


 俺は言った。


 以前より、少しだけ短く言った気がした。


 気のせいだと思うことにした。


◇


 その日の昼。


「タコ男さーん! スケルトンさーん!」


 ギルドの出口で、声がした。


 声だけで分かった。俺の全身の骨と、タコ男の七本と少しの足が、同時に背筋を伸ばした。


 コボルトさんが、豊満な尻尾をフリフリしながら駆けてくる。


 鞄からは、今日も黄色いリボンの付いた俺の肋骨の俺が顔を出している。


「こ、コボルトさん! 見てください!」


 タコ男が、生えかけの足を差し出した。差し出すな、と思った。呪った。


 コボルトさんは、それを覗き込んだ。


 耳が、ぴんと立った。


「わあ……! 生えてくるんですね!」


「は、はい! 俺も知らなかったんですけど!」


「すごい! じゃあ、また……ゴクリ……」


 コボルトさんは、そこで口を押さえた。


 押さえたけど、尻尾は押さえられていなかった。ものすごい勢いで揺れていた。はち切れんばかりに。


 また、の続きは、俺にも分かった。たぶん、桶の数だ。今度は増えるに違いない。


「はい!」


 タコ男にも分かったらしい。分かった上で、顔が真っ赤になっていた。相変わらず表情が豊かだ。


「は、はい! 全部生えたら、また!」


「楽しみにしてますね!」


 コボルトさんは、本当に嬉しそうに笑った。


 それから、ふと、俺のほうを見た。


 正確には、俺の左胸のあたりを見た。


「スケルトンさんは……」


「はい」


「……生えてきたり、しませんか?」


「しません」


「そうですかぁ。頑張ってくださいね」


 ほんの少しだけ、耳が下がった。


 ほんの少しだけだった。


 すぐに「あ、デュラハンさん!」と言って、コボルトさんは休憩所のほうへ走っていった。


 鞄の中で、肋骨の俺が揺れていた。


 俺は、出口の前でしばらく立っていた。


 生えてくる足は、楽しみにしてもらえのか……


 分かっている。コボルトさんに悪気は一つもない。ただ、桶の数が増えるのが嬉しいだけに違いない。きっと……


 分かっているのに、その日の夜、俺は布団の中で、生まれて初めて、自分の胸に向かって「生えろ」と言った。


 生えなかった。枝を刺そう。今日こそ。


◇


 さらに五日後。


 朝。肋骨を数える。


 いっぽん、にほん、ろっこつさん。


 右が十二本。左が、十一本。


 昨日も十一本。一昨日も十一本。たぶん、明日も、十一本。


 扉が叩かれた。ぺちぺちぺちぺち。


 もう、骨を磨き終えるまで無視していた。


「スケルトン! 二本目も生えてきたよ!」


 タコ男だった。


 一本目は、もう手のひらくらいの長さになっていた。そして、ギルドの掲示板の前で千切った二本目の付け根に、また、ぴこっ、と小さいのが出ていた。


「すごいだろ。俺、千切っても大丈夫な体だったんだ」


「…………」


「これでさ、全部戻ったらまた」


 タコ男は、生えかけの足を嬉しそうに眺めた。


「また一本、コボルトさんに献上できる!」


「良かった」


 俺は言った。家臣かタコ男。


 そして、


 「な」が、取れていた。


◇


「なあ、スケルトン。俺、最近気づいたんだけど」


 さらに数日後の夕方。浜辺の斜面。


 俺が薬草を摘んでいる横で、タコ男が自分の足を数えていた。


「いっぽん、にほん、さんぼん……」


 いつかの夕方、波打ち際で聞いた、あの数え方だった。


「ろっぽん。それから、これが、半分さん。これが、ちょっとさん。」


「…………」


「数えるたびに、増えてるんだ」


 タコ男は、夕日の中で、嬉しそうに笑った。


「最初は怖かったけどさ。今は、朝、数えるのが楽しみなんだ。スケルトンに言われて抜くの止めて良かったよ」


「……ああ」


 俺は言った。止めるべきでは無かった……


 そして、


 「良かった」も、取れていた。


 タコ男は気づかなかった。鼻歌を歌いながら、また最初から数え始めた。いっぽん、にほん。


 俺は、摘んだ薬草を籠に入れた。


 それから、なんとなく、自分の胸に手をやった。


 いっぽん、にほん、ろっこつさん。


 数えなくても分かっている。


 何回数えても、十一本だ。


 朝、数えるのが楽しみな奴と。


 朝、数えるのが癖になってしまった奴。


 同じ数え方をしているのに、こっちだけ、増えない。




 胸の隙間を、海風が抜けていった。


 いつもと同じ風だった。


 なのに今日は、それが、ほんの少しだけ悔しかった。




「なあ、スケルトン。お前も、何か生えてくるといいな」


「……生えない」


「分かんないだろ。俺だって知らなかったんだから」


「骨は植物じゃないんだ」


 自分で言った言葉だった。


 言うたびに、少しずつ、腹が立つようになってきた言葉だった。


 いよいよ良い枝を探しに行くたびに出ようか……もうスカスカに耐えられそうに無かった。


◇


 スケルトンです。


 タコ男さんの足が、生えてきました。良かったです。本当に良かったです。


 ……良かったです。


 私の肋骨は、今朝も十一本でした。


 別に、うらやましくなんか、ありません。




『スカスカだな。やっぱり輸入するか?』

デュラハンさん


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